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ユリアナは近寄って来るサージスを「そこで止まって下さいませ、兄様」と懸命に引き止めながら切り出した。
サージスの与える快楽の渦に巻き込まれる前に話してしまおうという、ユリアナの知恵である。
サージスとしては、ユリアナからの、思ってもみなかった生まれて初めての近寄るなオーラに戸惑いとショックを消せない。
「どうしたんだい?ユリアナ」と微笑みながらも、顔が強ばるのを隠せずにいた。
「兄様。今週末、サラ姉様とアスワンに行きたいのですが」
「アスワン…?」
ユリアナは、ウキウキとした表情でサージスに話し出す。
サージスは、ようやっとユリアナが会話を優先したが為の「止まって下さい」だったと気付き、安堵した。
(カダルとサラがこの場にいたら大笑いしていた模様であるが、幸いにも今は二人だけだった。)
「ガルダー領土の町だそうです。花火大会が行われるらしいのです」
「ほう…では、私も着いて行こう」
「え?兄様もご一緒に?では、サラ姉様にご相談させて頂いてよろしいでしょうか?」
「ユリアナ…流石に私も、私の知らないその場所までは転移門を用意していない。ユリアナに何かあっても、直ぐには駆け付けられないんだ」
「…ですが…」
「私とサラは表向き新婚という事になっている。仮にも妻が一人で実家の僻地へ向かったら、あらぬ噂をたてられると思わないか?」
「…!兄様のおっしゃる通りかもしれませんね。私ったら、気が回らずにすみませんでした……」
(カダルの予想通り、ユリアナはチョロかった。)
ユリアナはシュンとした様子を見せる。
「ユリアナ、そんなに暗い顔をしないで?言い過ぎたかな?」
サージスが慌ててフォローしようとしたが、ユリアナは俯いたまま首を左右に振った。
「違うのです、兄様…」
「?ユリアナ…?」
「私、本当に愚かです…兄様の奥様がサラ姉様なのは明らかですのに……兄様の口から妻、とお聞きするだけで、みっともなく……妬いてしまって……」
ポツリポツリと懺悔する様に話すユリアナだったが、サージスから見ればその姿は罪人ではなく女神そのものだった。
元々ユリアナはサージスになついてはいたが、サージスが誰と仲良くしようが、頓着しなかった。
その為、サージスが侍女と関係を持とうが気付かないし、サージスが美女と連れ添っていても気にしない。
むしろ、「兄様が楽しそうで嬉しい」と心から思うし、「流石兄様です」と美女を侍らすサージスをむしろ誇ってすらいた。
それは、いついかなるときでもサージスがユリアナを優先していた事が原因かもしれないが、ユリアナは嫉妬という感情を他の女性に対して感じる事なく育ったのである。
今回、サージスがサラと結婚する時も、ユリアナは「サラ姉様が本当の姉になって下さるなんて嬉しい」としか思っていなかった。
サージスはそれを十分に理解していた為に、自らの心の狭さを嘆くユリアナに対して、その変化の有り様が……ずっと願っていた事であるのに、奇跡の様に感じた。
ユリアナの心が、確実に兄ではなく恋人もしくは伴侶として、サージスに寄り添っている。
「……!?兄様!?兄様、どうなさったの!?!?」
ユリアナは、慌ててサージスに近寄り、その陶器の様な滑らかな頬をそっと指先で撫でた。
心配そうに見上げるユリアナと、その指先についた水滴により、初めてサージスは一筋の涙を流していた事に気付く。
「……なんでもないよ、ユリアナ。ただ嬉しかっただけだ」
そう言って、サージスは極上の笑みを浮かべた。
サージスの容姿に慣れきって免疫があるユリアナが見惚れる程の、比類なき艶笑を。
そして、その微笑に励まされてユリアナは口を開く。
「……兄、様。私、アスワンに行ったら、サラ姉様に、お伝え致します。………兄様を愛してしまいました、と」
━━それは、閨以外では決して口にしなかった言葉。
サージスは、その言葉を受けて驚きに目を見張り、泣き笑いしながらユリアナを抱き締め、ユリアナの肩口に顔を埋めて言った。
「……今の、サラより前に、私に言ってはくれないのかい?」
「兄様、好きです」
「その言葉は、ユリアナがしゃべれる様になってからずーっと聞いてる」
「兄様、愛してます」
「……うん……もっと言って、ユリアナ」
「……兄様、愛してます」
「……」
「……私は……サージスを、愛してます」
「……!!」
初めて、兄ではなくその名を呼ばれて。
「んっ、は、ふぅ………」
「ユリアナ、ユリアナ………!!!」
サージスは、ユリアナの口唇を貪る様に口付けた。
普段はされるがままの受け身なユリアナも。
そのうちサージスの求めに応じるだけでなく、自らサージスを求めて舌を積極的に絡めた。
口を大きくあけ、互いに激しく求めあう二人は、この日初めてディープキスを越えて、スロッピーキスを交わした。
サージスの与える快楽の渦に巻き込まれる前に話してしまおうという、ユリアナの知恵である。
サージスとしては、ユリアナからの、思ってもみなかった生まれて初めての近寄るなオーラに戸惑いとショックを消せない。
「どうしたんだい?ユリアナ」と微笑みながらも、顔が強ばるのを隠せずにいた。
「兄様。今週末、サラ姉様とアスワンに行きたいのですが」
「アスワン…?」
ユリアナは、ウキウキとした表情でサージスに話し出す。
サージスは、ようやっとユリアナが会話を優先したが為の「止まって下さい」だったと気付き、安堵した。
(カダルとサラがこの場にいたら大笑いしていた模様であるが、幸いにも今は二人だけだった。)
「ガルダー領土の町だそうです。花火大会が行われるらしいのです」
「ほう…では、私も着いて行こう」
「え?兄様もご一緒に?では、サラ姉様にご相談させて頂いてよろしいでしょうか?」
「ユリアナ…流石に私も、私の知らないその場所までは転移門を用意していない。ユリアナに何かあっても、直ぐには駆け付けられないんだ」
「…ですが…」
「私とサラは表向き新婚という事になっている。仮にも妻が一人で実家の僻地へ向かったら、あらぬ噂をたてられると思わないか?」
「…!兄様のおっしゃる通りかもしれませんね。私ったら、気が回らずにすみませんでした……」
(カダルの予想通り、ユリアナはチョロかった。)
ユリアナはシュンとした様子を見せる。
「ユリアナ、そんなに暗い顔をしないで?言い過ぎたかな?」
サージスが慌ててフォローしようとしたが、ユリアナは俯いたまま首を左右に振った。
「違うのです、兄様…」
「?ユリアナ…?」
「私、本当に愚かです…兄様の奥様がサラ姉様なのは明らかですのに……兄様の口から妻、とお聞きするだけで、みっともなく……妬いてしまって……」
ポツリポツリと懺悔する様に話すユリアナだったが、サージスから見ればその姿は罪人ではなく女神そのものだった。
元々ユリアナはサージスになついてはいたが、サージスが誰と仲良くしようが、頓着しなかった。
その為、サージスが侍女と関係を持とうが気付かないし、サージスが美女と連れ添っていても気にしない。
むしろ、「兄様が楽しそうで嬉しい」と心から思うし、「流石兄様です」と美女を侍らすサージスをむしろ誇ってすらいた。
それは、いついかなるときでもサージスがユリアナを優先していた事が原因かもしれないが、ユリアナは嫉妬という感情を他の女性に対して感じる事なく育ったのである。
今回、サージスがサラと結婚する時も、ユリアナは「サラ姉様が本当の姉になって下さるなんて嬉しい」としか思っていなかった。
サージスはそれを十分に理解していた為に、自らの心の狭さを嘆くユリアナに対して、その変化の有り様が……ずっと願っていた事であるのに、奇跡の様に感じた。
ユリアナの心が、確実に兄ではなく恋人もしくは伴侶として、サージスに寄り添っている。
「……!?兄様!?兄様、どうなさったの!?!?」
ユリアナは、慌ててサージスに近寄り、その陶器の様な滑らかな頬をそっと指先で撫でた。
心配そうに見上げるユリアナと、その指先についた水滴により、初めてサージスは一筋の涙を流していた事に気付く。
「……なんでもないよ、ユリアナ。ただ嬉しかっただけだ」
そう言って、サージスは極上の笑みを浮かべた。
サージスの容姿に慣れきって免疫があるユリアナが見惚れる程の、比類なき艶笑を。
そして、その微笑に励まされてユリアナは口を開く。
「……兄、様。私、アスワンに行ったら、サラ姉様に、お伝え致します。………兄様を愛してしまいました、と」
━━それは、閨以外では決して口にしなかった言葉。
サージスは、その言葉を受けて驚きに目を見張り、泣き笑いしながらユリアナを抱き締め、ユリアナの肩口に顔を埋めて言った。
「……今の、サラより前に、私に言ってはくれないのかい?」
「兄様、好きです」
「その言葉は、ユリアナがしゃべれる様になってからずーっと聞いてる」
「兄様、愛してます」
「……うん……もっと言って、ユリアナ」
「……兄様、愛してます」
「……」
「……私は……サージスを、愛してます」
「……!!」
初めて、兄ではなくその名を呼ばれて。
「んっ、は、ふぅ………」
「ユリアナ、ユリアナ………!!!」
サージスは、ユリアナの口唇を貪る様に口付けた。
普段はされるがままの受け身なユリアナも。
そのうちサージスの求めに応じるだけでなく、自らサージスを求めて舌を積極的に絡めた。
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