陰キャデビューの南出先輩

イセヤ レキ

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「南出先輩。僕、先輩がずっと好きでした」
「おお、ありがとな」

お気に入りの監督の最新作を二人で観たあと、気分の良いことを言われた俺はほどよく酔いながら、隣に座る如月の空いたコップにビールを注いだ。


「俺も好きだよ」

大学時代から、実家で飼っていた大型犬を思い出させる如月を、俺はとても気に入っている。

「え……っ、と、その、なら僕たち、両想いってことですか?」
「ははは、そうだな」

随分と懐かれたものだなと思いながら、俺は如月の肩を引き寄せてその頭をわしわしと乱暴に撫でた。

今日は金曜、仕事あがりに待ち合わせたはずなのに、如月の頭からは汗ではなく整髪料の良い香りが漂ってくる。


一方の俺は、今日は外回りで汗臭いだろう。

そろそろお風呂に入りたい、と思いながら紙皿をゴミ箱に投げ入れつつ、如月に声を掛けた。


「すっかり遅くなったけど、今日は泊まってく?」
「……は、はい……」


立ち上がって伸びをし、座りっぱなしで凝った身体を軽く動かす。


「風呂はどうする?先に入る?」
「本当に、いいんですか?」
「え?明日俺も仕事休みだし、別に構わないよ。パンツとか服とか、俺ので良ければ貸すからさ」
「……ありがとうございます」


お礼を言いながら、ごくり、と如月が喉を鳴らす。


「如月、喉乾いた?うち水道水しかないんだけど、コンビニで麦茶とか買ってこようか?」
「だ、大丈夫です。水道水で」
「そ?悪いな、今度買っておくから」
「今度……」
「ああ」


クローゼットを開けて、引き出しの中からごそごそと部屋着を取り出す。

陰キャになっておいて良かった。
以前みたいな外用の派手な服ばかりじゃ、友人の急なお泊りでリラックスできるような服を提供できなかったかもしれない。


俺は上下セットのゆるりとした部屋着と新品でまだ開けてなかったパンツを如月に渡しながら「これでいい?」と声を掛ける。


はい、と如月が言うのを背中に聞きながらざっと風呂場の掃除をすると、湯船に湯を溜めるために、給湯器のボタンを押す。


「溜まるまで少し時間かかるから、もうちょい待ってて」


ついでに洗面所で歯ブラシの在庫を探すと、それも如月に渡した。


如月が風呂に入っている時、大学の時に使っていた雑魚寝用の布団を捨ててしまったことに気付いて俺は慌てる。


「お先にありがとうございました」
「……あれ、如月って俺より体格良いんだな。初めて知った」


俺が着ると余裕のあるスウェットも、如月が着るとだぼつかない。

少し悔しい気持ちを抱えながら、「そいや、俺布団捨てたの忘れててさ。狭いけど、一緒のベッドで寝るんでいい?」と尋ねれば、如月は赤ベコのように何度も頷いた。
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