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第三章 貫通式
4 貫通式のその前に……
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「あの、森先輩……」康太は手のひらのコンドームを見つめながら訊いた。「貫通式って、その……」
大樹が云った。「おれたちは、これから朝まで素っ裸かで寝る。入寮日の伝統行事だ」
「あ」
見上げると、大樹が肩に羽織っていた上衣を脱いで半裸になっていた。胸許にぶらさがる犬笛がギラリと光る。康太は『マイナスワン』を思い出して、ひとまずコンドームを置いて、すぐさま白いボクサーブリーフ一枚の姿になった。
「悪いようにはしないから安心しろ」大樹は、やわらかく微笑み、康太の頭を大きな手でぽんぽんと叩いた。「シャワーを浴びてくる。十分後に始めるから、それまでに寝る準備をしておくんだぞ」
康太は、こくりと頷いた。
大樹が脱いだ上衣を手に洗面所に消えた。閉じられたドアの向うで最後の脱衣が行われている。康太は思い切ってボクサーブリーフを脱いだ。それから自分のベッドのところに脱いだ衣服を持っていった。ひとつひとつを叮嚀に畳んだ。
——貫通式って、そういうことだよな……。
康太は、こたつテーブルに戻り、コンドームとワセリンとウェットティッシュをひとまとめに黒のビニール袋に入れると、こんどは大樹のベッドに行った。海軍の男らしく、真っ青なシーツが敷かれている。康太は、ウェットティッシュとワセリンをビニール袋から取りだし、ヘッドボードの棚に並べた。そしてビニール袋に手を突っこみ、思い切ってコンドームをひとつかみに取り出した。
「ひとつ、ふたつ」数えながら棚のうえに置いてゆく。重ねたほうが好いのか、ずらして並べたほうが好いのか、それすらもわからない。枕の側に置く、という話を耳にしたこともある。しかしまだ経験のない康太は、どうするのが正解なのかわからない。「そして……」
康太は、最後のひとつをじっくりと眺めた。
鮮やかなマリンブルーのパッケージだ。表面に康太の読めない外国語がいくつか書かれていた。日本製のコンドームではないようだった。
——森先輩がこのコンドームを使って……。
康太は、武志に教えられた「男子寮の三大バズーカ砲」というコードネームを思い出した。ファルコン大野、バッファロー今井、そしてウルフ森。確かにそのとおりだった。そして三人のなかで、大樹が一番印象に残っている。端正な貌立ちには似つかわしくない、野性的な肉體、豊饒の毛、そしてあの「大きなもの」……。
康太の手からコンドームが落ちた。康太は急いでコンドーム拾いあげ、それを枕のしたに忍ばせた。やはり目に映るのは、ひとつでも少ないほうが好い。
康太は、掃き出し窓の鍵が閉まっていることを確認し、弛んだカーテンを真っすぐに伸ばした。それから大樹のベッドのうえに仰向けに寝て、これから起こることを想像した。
想像のなかで康太は、大樹のベッドのうえで四つん這いになって尻を突きだしている。大樹は後ろにいて、ワセリンを指に取り、康太の尻の穴に塗る。やがて指が挿入される。指は一本から二本に、二本から三本に増やされ、そして……。
康太は怖くなった。大樹がコンドームを使うときの、さらに「大きくなったもの」を想像したのだった。
——そう云えば「要らない規則は片っ端から破っていこう」って……。
康太は思った。朝まで素っ裸かで寝るだけなら、何とか出来そうだ。それぞれのベッドに岐れて寝て起きるだけだ。コンドームは使ったことにして……。
コンドーム!
コンドームを渡されるということの意味を、康太はもう一度考えた。しかしどう考えを巡らせても、たどり着く結論はひとつだった。素っ裸かで、このベッドで、大樹と朝まで寝なければならない。そしてコンドームは、そのために準備されている。
これを破る方法を大樹が考えている、と康太は思いたかった。しかし「伝統行事」という言葉がどうしても引っかかってしまう。これは、大樹が康太と一緒に破ろうとしている寮の規則ではないのかもしれない。これはきっと入寮の儀式のようなものだ。それを破ろうなんて……。
——入寮日の伝統行事……。だとしたら、一度きりだ!
康太は決心した。
大樹は、まだあのドアから出てこない。ならば自分から行って、度胸のあるところを見てもらおうとベッドを降りた。
洗面所に這入ると、大樹がシャワーを浴びていた。こちらに背中を向けたまま凝っと立っている。その姿は、曇り加工を施された浴室のドアをカンバスにして、はっきりとした輪郭を持つ絵画のように見えた。
洗面台の片隅に、あの犬笛がハンドタオルに乗せられて置いてあった。バスタオルを渡して、大樹があらかた拭いたところでこれを渡そう。ドライヤーはすでに洗面台のうえにあるので準備の必要はない。
康太は、洗面台の棚から筒形に丸められたバスタオルを取りだした。そしてそれを両手に捧げもち、大樹が出てくるのを待つことにした。度胸のあるところを見せるため、両脚を肩幅に展き、股間も隠さなかった。康太は大樹を待っているあいだ、ふと、洗面台の鏡をちらりと横目で見た。そこには、上官の期待に応えようとする新参兵の姿があった。
シャワーの音が止まった。
絵画のなかのヌードモデルが動いた。こちらをふり向く。康太は、つばをごくりと飲みこんだ。
浴室のドアが開いた。
「森先輩、タオルです」
康太は一歩進みでようとして、二歩退いた。
もうもうと立ちこめるシャワーの湯煙のなかから大樹が出てきた。二メートル近い長身、くっきりと泛かびあがる筋肉の隆起、そしてその肉體を飾る雄々しい毛。その露骨な裸體が珪藻土の足拭きマットのうえに立った。
「おっ、康太。サンキュー。気が利くな」
大樹はバスタオルを受けとると、さっと展げて頭から被った。
深く刻まれた鎖骨に溜まっていた湯が、大樹が頭を拭うのに合わせて胸へと流れる。それがすでに胸にわだかまっていた水滴と倶に、胸毛を伝って腹部へ、そしてあの「大きなもの」へと落ちてゆく。
康太は、両手を腰の後ろで組んで立ったまま、大樹が今すぐに腰にタオルを巻くことを願った。しかし大樹はそうしなかった。顔を拭い、肩を拭い、腕を拭う。腕を上げると、たくましい筋肉が大きく波を打った。そのとき、湯に濡れた腋窩の繁みがやわらかい水草のように見えた。
「森先輩。背中、拭きましょうか?」
「いや、大丈夫だ」
康太は、犬笛に目を遣った。洗面台に手を伸ばしたとき、鏡のなかで大樹が両脚を拭いているのが見えた。これを渡したら、風呂掃除をすると云うことにしよう。
「森先輩。ホイッ——い、犬笛を」
「おう。掛けてくれ」
大樹がバスタオルをマントのように肩にかけて首を、ぬっ、と差しだした。康太は両腕を伸ばし、適切な距離を保って犬笛を掛けた。
「ん? 康太。おまえ隠さないのか?」顔上げて、ふしぎそうに大樹が訊いた。
康太は精一杯の笑顔を作った。「体育会系ですから。それに先輩に最初にあいさつしたとき、素っ裸かだったじゃないですか」
「そうだったな」大樹が笑いかえした。
「それじゃあ、ぼく風呂掃除してきます」
頼んだぞ、と云って大樹は康太に道を譲り、犬笛を口に咥えた。「おれがこれ吹いたら、すぐに飛んでこいよ。わかったな。リトル・ウルフ」
大樹が云った。「おれたちは、これから朝まで素っ裸かで寝る。入寮日の伝統行事だ」
「あ」
見上げると、大樹が肩に羽織っていた上衣を脱いで半裸になっていた。胸許にぶらさがる犬笛がギラリと光る。康太は『マイナスワン』を思い出して、ひとまずコンドームを置いて、すぐさま白いボクサーブリーフ一枚の姿になった。
「悪いようにはしないから安心しろ」大樹は、やわらかく微笑み、康太の頭を大きな手でぽんぽんと叩いた。「シャワーを浴びてくる。十分後に始めるから、それまでに寝る準備をしておくんだぞ」
康太は、こくりと頷いた。
大樹が脱いだ上衣を手に洗面所に消えた。閉じられたドアの向うで最後の脱衣が行われている。康太は思い切ってボクサーブリーフを脱いだ。それから自分のベッドのところに脱いだ衣服を持っていった。ひとつひとつを叮嚀に畳んだ。
——貫通式って、そういうことだよな……。
康太は、こたつテーブルに戻り、コンドームとワセリンとウェットティッシュをひとまとめに黒のビニール袋に入れると、こんどは大樹のベッドに行った。海軍の男らしく、真っ青なシーツが敷かれている。康太は、ウェットティッシュとワセリンをビニール袋から取りだし、ヘッドボードの棚に並べた。そしてビニール袋に手を突っこみ、思い切ってコンドームをひとつかみに取り出した。
「ひとつ、ふたつ」数えながら棚のうえに置いてゆく。重ねたほうが好いのか、ずらして並べたほうが好いのか、それすらもわからない。枕の側に置く、という話を耳にしたこともある。しかしまだ経験のない康太は、どうするのが正解なのかわからない。「そして……」
康太は、最後のひとつをじっくりと眺めた。
鮮やかなマリンブルーのパッケージだ。表面に康太の読めない外国語がいくつか書かれていた。日本製のコンドームではないようだった。
——森先輩がこのコンドームを使って……。
康太は、武志に教えられた「男子寮の三大バズーカ砲」というコードネームを思い出した。ファルコン大野、バッファロー今井、そしてウルフ森。確かにそのとおりだった。そして三人のなかで、大樹が一番印象に残っている。端正な貌立ちには似つかわしくない、野性的な肉體、豊饒の毛、そしてあの「大きなもの」……。
康太の手からコンドームが落ちた。康太は急いでコンドーム拾いあげ、それを枕のしたに忍ばせた。やはり目に映るのは、ひとつでも少ないほうが好い。
康太は、掃き出し窓の鍵が閉まっていることを確認し、弛んだカーテンを真っすぐに伸ばした。それから大樹のベッドのうえに仰向けに寝て、これから起こることを想像した。
想像のなかで康太は、大樹のベッドのうえで四つん這いになって尻を突きだしている。大樹は後ろにいて、ワセリンを指に取り、康太の尻の穴に塗る。やがて指が挿入される。指は一本から二本に、二本から三本に増やされ、そして……。
康太は怖くなった。大樹がコンドームを使うときの、さらに「大きくなったもの」を想像したのだった。
——そう云えば「要らない規則は片っ端から破っていこう」って……。
康太は思った。朝まで素っ裸かで寝るだけなら、何とか出来そうだ。それぞれのベッドに岐れて寝て起きるだけだ。コンドームは使ったことにして……。
コンドーム!
コンドームを渡されるということの意味を、康太はもう一度考えた。しかしどう考えを巡らせても、たどり着く結論はひとつだった。素っ裸かで、このベッドで、大樹と朝まで寝なければならない。そしてコンドームは、そのために準備されている。
これを破る方法を大樹が考えている、と康太は思いたかった。しかし「伝統行事」という言葉がどうしても引っかかってしまう。これは、大樹が康太と一緒に破ろうとしている寮の規則ではないのかもしれない。これはきっと入寮の儀式のようなものだ。それを破ろうなんて……。
——入寮日の伝統行事……。だとしたら、一度きりだ!
康太は決心した。
大樹は、まだあのドアから出てこない。ならば自分から行って、度胸のあるところを見てもらおうとベッドを降りた。
洗面所に這入ると、大樹がシャワーを浴びていた。こちらに背中を向けたまま凝っと立っている。その姿は、曇り加工を施された浴室のドアをカンバスにして、はっきりとした輪郭を持つ絵画のように見えた。
洗面台の片隅に、あの犬笛がハンドタオルに乗せられて置いてあった。バスタオルを渡して、大樹があらかた拭いたところでこれを渡そう。ドライヤーはすでに洗面台のうえにあるので準備の必要はない。
康太は、洗面台の棚から筒形に丸められたバスタオルを取りだした。そしてそれを両手に捧げもち、大樹が出てくるのを待つことにした。度胸のあるところを見せるため、両脚を肩幅に展き、股間も隠さなかった。康太は大樹を待っているあいだ、ふと、洗面台の鏡をちらりと横目で見た。そこには、上官の期待に応えようとする新参兵の姿があった。
シャワーの音が止まった。
絵画のなかのヌードモデルが動いた。こちらをふり向く。康太は、つばをごくりと飲みこんだ。
浴室のドアが開いた。
「森先輩、タオルです」
康太は一歩進みでようとして、二歩退いた。
もうもうと立ちこめるシャワーの湯煙のなかから大樹が出てきた。二メートル近い長身、くっきりと泛かびあがる筋肉の隆起、そしてその肉體を飾る雄々しい毛。その露骨な裸體が珪藻土の足拭きマットのうえに立った。
「おっ、康太。サンキュー。気が利くな」
大樹はバスタオルを受けとると、さっと展げて頭から被った。
深く刻まれた鎖骨に溜まっていた湯が、大樹が頭を拭うのに合わせて胸へと流れる。それがすでに胸にわだかまっていた水滴と倶に、胸毛を伝って腹部へ、そしてあの「大きなもの」へと落ちてゆく。
康太は、両手を腰の後ろで組んで立ったまま、大樹が今すぐに腰にタオルを巻くことを願った。しかし大樹はそうしなかった。顔を拭い、肩を拭い、腕を拭う。腕を上げると、たくましい筋肉が大きく波を打った。そのとき、湯に濡れた腋窩の繁みがやわらかい水草のように見えた。
「森先輩。背中、拭きましょうか?」
「いや、大丈夫だ」
康太は、犬笛に目を遣った。洗面台に手を伸ばしたとき、鏡のなかで大樹が両脚を拭いているのが見えた。これを渡したら、風呂掃除をすると云うことにしよう。
「森先輩。ホイッ——い、犬笛を」
「おう。掛けてくれ」
大樹がバスタオルをマントのように肩にかけて首を、ぬっ、と差しだした。康太は両腕を伸ばし、適切な距離を保って犬笛を掛けた。
「ん? 康太。おまえ隠さないのか?」顔上げて、ふしぎそうに大樹が訊いた。
康太は精一杯の笑顔を作った。「体育会系ですから。それに先輩に最初にあいさつしたとき、素っ裸かだったじゃないですか」
「そうだったな」大樹が笑いかえした。
「それじゃあ、ぼく風呂掃除してきます」
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