[R-18] おれは狼、ぼくは小狼

山葉らわん

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第五章 ワン・モア・チャンス

4 風呂あがりはガウン一枚

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「康太、これ着な。おれが一年のときに使ってたやつだ」
 康太が風呂掃除を了えて浴室を出ると、水球部オリジナルのガウンをびしっと着た大樹が、同じものを康太に手渡した。
「え……」
「おまえにやるよ」云うが早いか大樹はガウンを広げた。「康太、後ろを向け。着せてやる」
「あ……はい……」
 康太は、大樹に促されるまま後ろを向いた。肩にガウンが掛けられる。康太が袖を通すと、大樹は康太の両腕を水平に持ちあげた。
「森先輩?」
「凝っとしてろ。着せてやるって云っただろ?」
「あ、はい——」
 康太がこう応えるのとほぼ同時に、大樹が背後から密着した。右肩越しに顔が、ぬうっ、と出る。大樹は右襟を手に取って康太の胸に導いた。
「ガウンは右前。浴衣と一緒だ」大樹はこう説明しながら、続けて左襟を右襟に重ねた。「そして紐は……」
 腰の前で大樹の大きな手が動く。康太の胸で早鐘が鳴った。両脚でしっかり立っていないとそのまま後ろに倒れこみそうだ。
「じ、自分で出来ます……」
「いいから凝っとしてろ。ちゃんと着せてやる」大樹は右腰の低い位置でひと結びにした。「さあ、出来た。康太、鏡を見てみろ」
 康太は洗面台の鏡に自分を映した。紐がだらりと垂れさがっているのが気になる。しかしそれ以外は見た目も悪くはない。
「うわあ……」康太は思わず口にした。「カッコいい!」
「自分で云うか?」言葉とは反対に大樹も満足そうだ。「でも案外似合ってるな」
 康太は腕を上げ下げしたり、ガウンの表面を手で撫でたりしてみた。大樹のお古だけれども、素肌に馴染んで着心地も好い。鏡のなかで大樹と並んで立っている自分の姿も、なかなか決まっている。このままプールサイドを歩けば、水球部の先輩と後輩に見間違えられるかもしれない。
 そのとき大樹が康太の左肩に手を置いた。
「今井が見たら嫉妬するだろうな」
「今日、今井先輩に冗談で云われたんです。『水球部からスカウトが来たのか?』って」康太は首から下げた犬笛をガウンの外に出した。
 大樹が笑った。「犬笛ひとつでか? あいつも大袈裟だなあ」
「もし一階の風呂場で森先輩とぼくが風呂あがりにこれ着てたら、今井先輩きっと気絶しますよ」
「一度これ着て風呂に行ってみるか? 着替えとかなしで」
 康太は笑った。「やりすぎですよ、流石に」
「おれが一年のころは、部屋から素っ裸かで風呂まで行ってたんだぞ。それに比べればマシだ」大樹は康太の肩から手を外すと棚からタオルを取りだして康太に渡した。「頭拭いたら、そろそろ水野さんが夜食を持ってきているころだ。そのまま出てこい」
「はい」康太は受けとったタオルを頭に被せ、両手でゴシゴシした。「すぐ行きます」
「からだの方はもう乾いたみたいだな」大樹はこう云うと康太のガウンの紐の端をつかんだ。「蝶結びは解くとき時間が掛かるんだ」
「あ」
 大樹がガウンの結び目を緩めた。襟の合わせ目が崩れて裸かの胸が露わになる。康太が大樹を見遣ると、いつの間にか同じように胸を大開おおはだけにしていた。
「康太、カッコいいぞ。さすがリトル・ウルフだ」
 大樹が洗面所を出てゆき、康太はひとり鏡の前に残った。大樹の云うように少し着崩したガウン姿がカッコよく見える。試しに色々なポーズを取ってみた。襟の合わせ目が少しずつ崩れてゆき、毛に覆われた小狼の胸が露わになる。
 ——そういえば……マイナス・ワン!
 康太は洗面時を出るとき、ガウンを脱がなければならないのか不安になった。さっき大樹はガウン一枚で出ていった。
 ——でも、『そのまま出てこい』って……。
 康太は知恵を搾った。ズボンとベルトが別物であるのと同じように、ガウンと紐で二着扱いにならないだろうか。或いはひょっとすると大樹はガウンの下に水着を穿いているのかもしれない。イタズラ好きの大樹のことだ。何か云われるまでこのままで……。
「よし! これでどうだ!」
 康太は紐を緩く結え、さっき目にした大樹の胸許と同じように着崩してから洗面所を出た。
 リビング・スペースではすでに大樹が夜食の準備を了えて、おこたテーブルに着いてテレビを見ていた。
「おっ、康太。着心地はどうだ?」
「動きやすくて最高です」
 大樹は微笑んで康太を手招いた。
「さあ、坐った坐った。今日の夜食はハムサンドだ」
 真四角にカットされた、片手でちょっとつまめるほどの小振りなサンドイッチだ。薄くスライスしたパンでハムと胡瓜を挟んだシンプルなもので、小腹を満たすのにちょうど良い。
 大樹がひとつつまんで口に入れるのを見てから、康太もひとつつまんだ。
「康太、気にしなくていいぞ」
「え?」
 ドキリとした。気にしなくてもいいと云われれば、余計に気になる。水着を穿いているのか穿いていないのか……。
「メシは、おれたちアスリートにとって選手生命の一部だ。食うのに先輩も後輩もない」
「あ、はい……」
 勘違いだった。
「ほら、康太」
 大樹が康太の手を取ってハムサンドを康太の口許まで運んだ。一瞬の間があって、ハムサンドが口のなかに押しこまれた。康太は反射的に口を閉じた。
 ——あっ、森先輩の指が……。
 康太はパンより先に大樹の味を感じた。
 ——どうしよう……。
 大樹が康太の口から指を抜いた。すっと立上がり、そのままミニキッチンへ向うと、手を洗ってまた戻ってきた。どっかと腰を下ろしたときに、ガウンの前が臍の上あたりまでゆるりとはだける。水着を穿いているかどうかはまだ見えない。
 康太はハムサンドを慌てて飲み込んで、
「す、すみません。森先輩……」
「おいおい、康太。おれの指は食いもんじゃないぞ」冗談めかすように大樹が云った。怒っているようすは微塵もない。「そろそろニュースの時間だな……」
「えっ?」
 大樹はチャンネルを変えた。CMが数本流れ、フラッシュニュースが始まった。
「あっ……」
「康太、どうした?」
「ぼく、ファンなんです。東京の大学に行ったら会えるかもって……」
「それで上京してきたのか?」大樹は笑った。「まあ、それで特待生になったんだから大したもんだ」
 康太はテレビに観入った。五分程度の短いニュースなので一瞬たりとも目を離したくない。年上なのに可愛らしい彼女の姿と声に、すっかり夢中になった。
 ——会えたらいいなあ……。
 ニュースが了わり、またCMに戻った。康太は、このあとのバラエティ番組でも彼女がアシスタントをしているのを思い出した。
「森先輩、チャンネルはこのままで——」
 康太は、こう云って大樹のほうを向いた。
 ——あっ……。
 目の前で大樹が寛いでいた。
 左肘をついて上体を起こし、右膝を立てている。ガウンの前はすっかり開けていて、上半身は裸かも同然だった。紐はほとんど解け切っている。右脚の太腿もガウンの裾からはみ出していて、それを登ってゆくと……。ガウンの生地が、意地悪をするようにひと処でわだかまっている。水着を穿いているのかいないのか、そこを剥いでみないとわからない。
 大樹は気にするようすもない。
 そのとき、壁の向うからアダルトビデオの音声が洩れてきた。どうやら隣りの部屋で、武志と健司が大音量で観ているらしい。
「康太、おれたちはバラエティ番組を観ような」AV男優よりもセクシーな姿で大樹が云った。「あと三十分もしたら夜の点呼がある。おれたちはCM、あいつらはちょうどいい場面だ」
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