65 / 84
第五章 ワン・モア・チャンス
20 お風呂で球磨き
しおりを挟む
「やっぱりな……」大樹は片肘を浴槽の縁に掛け、頬杖をついた。それから大きな瞳で康太を見据えて、
「あのデカ猪のことだ。ついでにバットも磨くんだろ?」
やれやれ、と云いたげな顔つきだ。
康太は慌てて口を開いた。「たーたーたー……」
大樹が湯を康太の顔に掛けて、
「オリエン合宿んとき、おまえ、そうしてただろ」
「あ」
康太の脳裏にあのときの光景が蘇った。武志の球とバットを磨いているのを、湯槽から大樹が見ていたのだった。しかも武志は、そのようすを大樹に見せつけるように、両脚を大開けにしていた。
大樹が云った。「今でも練習後に——」
「たーたーたー……」
康太は即座に否定した。
「球だけでいいんだな?」大樹は確認するように訊くと、こう続けた。「だけど、別に嘘ついてもいいんだぞ。『森先輩に球磨いてもらいました』って。あのバカチンにバレっこないさ」
「え……」
康太は戸惑った。その逆だ。康太が大樹に球磨きをしなけばならない。それに大樹は誤解している。武志は、ああ見えて勘が鋭い。今回の玉磨きミッションも、あの貫通式を済ませていないことに勘づいているからに相違ない。おそらく貫通式を済ませるまでは、こうしたミッションがとめどなく下されるのだろう。
「森先輩……あの、ええと……」
云うあいだに大樹の両手が湯のなかに、すうっ、と沈んだ。
「じゃあ始めるぞ」大樹が柔らかい笑みを泛べた。「ついでに今井の弱点も教えてやるよ。ロッカールームで試すといい」
「あ!」
白濁した湯の下で球磨きが始まった。
大樹が何をしているのかは見えないが、大樹に何をされているのかはダイレクトに感じることができる。
「ふわぁ!」
康太が叫び声を上げると大樹が、くすっ、と笑った。「おっ、いい反応だ」
康太は思わず目を閉じた。あられもない声を上げてしまったのだから、大樹の顔を直視することはできない。
「康太、よく覚えておけよ」大樹が指を動かしながら云った。「最初はこの白滝みたいなヤツを、しっかりほぐしてやるんだ」
どう表現していいのかわからない感覚だ。ただ痛いだけではない。何か滞っているものがあって、それが邪魔をしている。
「痛っ……」
康太は、思わず顔の右横にある大樹のたくましい脚に両手でしがみついた。その拍子に湯がザアザアと溢れでた。気づけば、湯に濡れた大樹の毛脛に頬を擦りつけるような恰好になっていたが、そんなことはどうでも良かった。
「康太、深呼吸だ」大樹がなだめるように云った。「じきに痛くなくなるからな」
康太は云われたとおりに深呼吸をした。くいしばった上下の歯の隙間から息が吐かれ、そして吸われる。
両脚の付け根のところで、大樹の親指がゆっくりと動いているのが感じられた。コリコリとした感覚が、やがてプチプチとしたものに変わっていった。
——こんなはずじゃなかったんだけどな……。
本来なら、大樹の背中を流してあげるときに、球磨きにもってゆくべきだったのだ。それも、話の流れで自然とそうなったかのように。大樹なら、「しょうがないな」と云いつつも、すんなりと受けいれてくれただろう。
——それにしても、なんか変な感覚だ……。
自分の軀だと云うのに、今までこんなふうにさわったことはなかったし、自分の軀がこんな感覚を生みだすとは思ってもいなかった。「気持ちいい」のとは、またひと味異う。緊張がほぐれ、強張っていたしこりのようなものが、腰全体から抜けてゆくようだ。
康太の両手が、大樹の左脚から着物の帯のようにするりとほどけ落ちた。
「そういや、一年生の必須科目にスポーツマッサージってあったよな?」のんびりとした口調で大樹が訊いた。
康太は、大樹にされるがままの状態で、
「は、はい……」
「さすがにこれは教えてもらえないけどな」
それもそのはずだ。あの講義は男子学生だけではなく、女子学生も受けている。
大樹の親指が下に少しズレた。同じように凝り固まったところをほぐしてゆく。
「ここをしっかりマッサージすると、疲れがふっ飛ぶんだ。まあ、男だけの特権だ」
「そ、そうなんですね……あっ……」
康太の腰が、ふわり、と泛いた。
「なっ、腰が軽くなっただろ?」
大樹の指の動きが変わった。左右の弾薬袋がそれぞれ手に握られ、交互に引っぱられる。ストレッチされているようで、ふしぎと心地がいい。
「ふ……ふう……」
康太は顔を上げ、天井に向けて息を吐いた。
「康太、気持ちいいか?」
大樹の声が心地よく耳に響く。リラックスしているおかげか、いつしかバズーカ砲も大人しくなっていた。康太は目を閉じたまま、ゆっくりと頷いた。
——『森先輩に球磨きしてもらいました』って云ったら、今井先輩、何ンて云うかな……。
康太は想像した。ひとまずは豪快に笑って、「で、どうだった?」と訊いてくるに相違ない。そして、「つぎはちゃんとやれよ」と、もう一度チャンスをくれるだろう。
ふいに大樹の指の動きが止まった。
康太は顔を下ろすと、両目を開き、ようすをうかがった。いつの間にか腰が湯の面のすぐそこまで泛んでいた。あともうちょっとで大樹に潜望鏡を披露することになる。
幸いなことに大樹は何も気づいていないようすで、
「今井の弱点を教えてやるって云ったよな」
と笑顔で云い、タイミングを狙っているのか、指先で下から玉をポンポンと弾きあげた。
「弱点……?」康太は首を傾げた。
「あのバカチンが気持ちよさそうに首を回しているときを狙って——」大樹がニヤリと笑った。「指の爪でこうしてやるんだ」
突然、裏の縫い目が、カリッ、と引っ掻かれた。
「うわっ!」
康太は、バランスを崩して湯のなかに落ちてしまった。ひとしきりバタバタと暴れ、ようやく湯から顔を出すと、湯槽にいるのは自分ひとりだった。
「康太、背中流してくれるんだろう?」
声のしたほうに顔を向けると、洗い場の風呂椅子に腰をおろした大樹が、顔をこちらに向けていた。
「あ……は、はい……」康太は急いで湯槽から出ると、棚からボディソープのボトルを取って大樹の背中にまわった。それから手のひらにソープ液を受けて、「あの……シャカシャカも?」
「あと、たーたーたーもな」
大樹は明るい声でこう云うと、武志がしたように両脚を大開けにした。
「あのデカ猪のことだ。ついでにバットも磨くんだろ?」
やれやれ、と云いたげな顔つきだ。
康太は慌てて口を開いた。「たーたーたー……」
大樹が湯を康太の顔に掛けて、
「オリエン合宿んとき、おまえ、そうしてただろ」
「あ」
康太の脳裏にあのときの光景が蘇った。武志の球とバットを磨いているのを、湯槽から大樹が見ていたのだった。しかも武志は、そのようすを大樹に見せつけるように、両脚を大開けにしていた。
大樹が云った。「今でも練習後に——」
「たーたーたー……」
康太は即座に否定した。
「球だけでいいんだな?」大樹は確認するように訊くと、こう続けた。「だけど、別に嘘ついてもいいんだぞ。『森先輩に球磨いてもらいました』って。あのバカチンにバレっこないさ」
「え……」
康太は戸惑った。その逆だ。康太が大樹に球磨きをしなけばならない。それに大樹は誤解している。武志は、ああ見えて勘が鋭い。今回の玉磨きミッションも、あの貫通式を済ませていないことに勘づいているからに相違ない。おそらく貫通式を済ませるまでは、こうしたミッションがとめどなく下されるのだろう。
「森先輩……あの、ええと……」
云うあいだに大樹の両手が湯のなかに、すうっ、と沈んだ。
「じゃあ始めるぞ」大樹が柔らかい笑みを泛べた。「ついでに今井の弱点も教えてやるよ。ロッカールームで試すといい」
「あ!」
白濁した湯の下で球磨きが始まった。
大樹が何をしているのかは見えないが、大樹に何をされているのかはダイレクトに感じることができる。
「ふわぁ!」
康太が叫び声を上げると大樹が、くすっ、と笑った。「おっ、いい反応だ」
康太は思わず目を閉じた。あられもない声を上げてしまったのだから、大樹の顔を直視することはできない。
「康太、よく覚えておけよ」大樹が指を動かしながら云った。「最初はこの白滝みたいなヤツを、しっかりほぐしてやるんだ」
どう表現していいのかわからない感覚だ。ただ痛いだけではない。何か滞っているものがあって、それが邪魔をしている。
「痛っ……」
康太は、思わず顔の右横にある大樹のたくましい脚に両手でしがみついた。その拍子に湯がザアザアと溢れでた。気づけば、湯に濡れた大樹の毛脛に頬を擦りつけるような恰好になっていたが、そんなことはどうでも良かった。
「康太、深呼吸だ」大樹がなだめるように云った。「じきに痛くなくなるからな」
康太は云われたとおりに深呼吸をした。くいしばった上下の歯の隙間から息が吐かれ、そして吸われる。
両脚の付け根のところで、大樹の親指がゆっくりと動いているのが感じられた。コリコリとした感覚が、やがてプチプチとしたものに変わっていった。
——こんなはずじゃなかったんだけどな……。
本来なら、大樹の背中を流してあげるときに、球磨きにもってゆくべきだったのだ。それも、話の流れで自然とそうなったかのように。大樹なら、「しょうがないな」と云いつつも、すんなりと受けいれてくれただろう。
——それにしても、なんか変な感覚だ……。
自分の軀だと云うのに、今までこんなふうにさわったことはなかったし、自分の軀がこんな感覚を生みだすとは思ってもいなかった。「気持ちいい」のとは、またひと味異う。緊張がほぐれ、強張っていたしこりのようなものが、腰全体から抜けてゆくようだ。
康太の両手が、大樹の左脚から着物の帯のようにするりとほどけ落ちた。
「そういや、一年生の必須科目にスポーツマッサージってあったよな?」のんびりとした口調で大樹が訊いた。
康太は、大樹にされるがままの状態で、
「は、はい……」
「さすがにこれは教えてもらえないけどな」
それもそのはずだ。あの講義は男子学生だけではなく、女子学生も受けている。
大樹の親指が下に少しズレた。同じように凝り固まったところをほぐしてゆく。
「ここをしっかりマッサージすると、疲れがふっ飛ぶんだ。まあ、男だけの特権だ」
「そ、そうなんですね……あっ……」
康太の腰が、ふわり、と泛いた。
「なっ、腰が軽くなっただろ?」
大樹の指の動きが変わった。左右の弾薬袋がそれぞれ手に握られ、交互に引っぱられる。ストレッチされているようで、ふしぎと心地がいい。
「ふ……ふう……」
康太は顔を上げ、天井に向けて息を吐いた。
「康太、気持ちいいか?」
大樹の声が心地よく耳に響く。リラックスしているおかげか、いつしかバズーカ砲も大人しくなっていた。康太は目を閉じたまま、ゆっくりと頷いた。
——『森先輩に球磨きしてもらいました』って云ったら、今井先輩、何ンて云うかな……。
康太は想像した。ひとまずは豪快に笑って、「で、どうだった?」と訊いてくるに相違ない。そして、「つぎはちゃんとやれよ」と、もう一度チャンスをくれるだろう。
ふいに大樹の指の動きが止まった。
康太は顔を下ろすと、両目を開き、ようすをうかがった。いつの間にか腰が湯の面のすぐそこまで泛んでいた。あともうちょっとで大樹に潜望鏡を披露することになる。
幸いなことに大樹は何も気づいていないようすで、
「今井の弱点を教えてやるって云ったよな」
と笑顔で云い、タイミングを狙っているのか、指先で下から玉をポンポンと弾きあげた。
「弱点……?」康太は首を傾げた。
「あのバカチンが気持ちよさそうに首を回しているときを狙って——」大樹がニヤリと笑った。「指の爪でこうしてやるんだ」
突然、裏の縫い目が、カリッ、と引っ掻かれた。
「うわっ!」
康太は、バランスを崩して湯のなかに落ちてしまった。ひとしきりバタバタと暴れ、ようやく湯から顔を出すと、湯槽にいるのは自分ひとりだった。
「康太、背中流してくれるんだろう?」
声のしたほうに顔を向けると、洗い場の風呂椅子に腰をおろした大樹が、顔をこちらに向けていた。
「あ……は、はい……」康太は急いで湯槽から出ると、棚からボディソープのボトルを取って大樹の背中にまわった。それから手のひらにソープ液を受けて、「あの……シャカシャカも?」
「あと、たーたーたーもな」
大樹は明るい声でこう云うと、武志がしたように両脚を大開けにした。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる