[R-18] おれは狼、ぼくは小狼

山葉らわん

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第六章 破戒

12 禁欲は楽じゃない

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 それから二週間後、硬式野球部の一年生部員たちのあいだに衝撃が走った。武志が彼らに二週間の禁欲を命じたのだ。
 一年生たちがどよめき、先輩たちが笑った。
 武志がこうつけ足した。
「康太は特別に二週間前から始めてんだぞ。期待のルーキーだからって容赦はしないってことだ。わかったか!」
 その日の練習後、康太は男子寮へ続く坂道をとぼとぼと歩いている一年生の仲間たちに加わっていた。誰もが項垂れて言葉少なに男子寮を目指していた。誰かがようやくポツリと洩らした。
「今井先輩、康太には厳しいんだな。ほんとに二週間も我慢してるのか?」
「うん……」康太が答えた。すっかりへとへとに疲れている。ちからなくこう続けた。「もしやったら新人戦のレギュラーから外されちゃうし」
 全員がため息を洩らした。
「でもバレないよな?」
 と誰かが云った。まだ望みはあるかのような口振りだった。
 すると仲間たちが口々に否定した。
「バレるんだってさ。ボクシング部のやつが云ってたんだ。つぎの日のスパーリングを見ればわかるって」
「おれもそれ聞いたことがある。足腰の動きが変わるらしいな」
「おれたちの場合だと、走りこみを見たらわかるってことか」
「あーあ。康太はいいよなー」
「どうして?」ムッとして康太が云った。「ぼく、みんなより二週間も長く我慢してるんだよ」
「だって性欲なんか全くないって顔してるじゃないか」
  この一言に他の仲間たちが食いついた。
「そうそう。康太がムラムラしているところとか想像つかないもんな」
「念の為に訊くけど、康太。おまえまだ童貞だよな?」
「でもわかんないぞ。あのウルフ森先輩と同室なんだぜ。女子寮完全制覇したっていう」
「康太に限ってそれはないな」
「康太、デカいのにな。まあ、『宝の持ち腐れ』ってことで」
 康太は黙りこんだ。
「やっぱり……」
「思った——」
「とおりだ!」
 仲間たちは現実逃避するかのように過度にゲラゲラと笑った。
 男子寮までたどり着いた。
 ここで一般寮の仲間たちと別れ、康太はひとり特待生用の特別寮へ向かった。なかに入るとすぐ近くの食堂から夕食の匂いが漂ってきた。夕食の時間まではあと一時間ある。グゥ、とお腹が鳴った。
 康太は急いで靴を脱ぎ、その匂いに誘われてふらふらと食堂へ入った。カウンター奥の厨房では寮母の水野さんが寸胴鍋の中身をかき回していた。
「あら、康ちゃん。おかえりなさい。もうお腹空いたの?」
 水野さんが康太に気づいて声をかけた。
「水野さん、ただいま。いい匂いがしたものだから」
「今日のメインは豚肉の生姜焼きよ。ビタミンB1がたっぷりで疲労回復にぴったりなの。大盛りにしてあげるわね」水野さんはこう云うと、寸胴鍋から離れてカウンターにやって来た。そこに置いてあった紙袋をふたつ康太に手渡して、「おにぎり作っておいたの。ヒロ君のもあるから一緒に持っていってね」
「ありがとうございます」
「他のみんなには内緒よ」
 水野さんはチャーミングなウィンクをして、また寸胴鍋のところに戻った。
 康太はお礼を云って食堂を出た。四階までの階段が目の前にある。
 ――エレベーターがあればいいのに……。
 重い足取りで階段を一段、また一段と上がる。
 ――今日の夜もまた……。
 康太はこの二週間の出来事を思いかえした。
 硬式野球部のシャワールームでは、時短と親睦を兼ねて、ひとつのシャワーブースに先輩と後輩のふたり組で入ることになった。康太は当然のことながら武志と同じシャワーブースだ。それぞれのシャワーブースで後輩が先輩の球磨きとバット磨きをした。
 そしてしばらくすると、シャワーブースのあちこちからつぎつぎと先輩の雄叫びがあがる。の合図だ。もちろんシャワーブース内での出来事なので本当にそうなのかは確認できないが、雄叫びのたびに野次が飛び、部員たちが笑う。武志は誰よりも強烈な雄叫びをあげた。するとシャワールーム内は大爆笑に包まれ、ヒューヒューと口笛が鳴り響いた。
 ともあれこのことは、部員たちの団結力や結束力をキープするのに役立っているようだった。
 ――っていうか、野球部って仲良すぎるんだよなあ……。
 そして男子寮に戻ると寮長の勝利から呼び出しがかかった。こんどはポール磨きだ。部屋に入るやいなや、勝利と一緒に素っ裸かになって、あの特別な部屋に続く階段を上がる。そしてバスルームに入り、ポール磨きをする。武志の場合は背中からだが、勝利の場合は正面からだ。
 ――大野さん、爽やかすぎるし。
 勝利のさっぱりとした性格と精悍な顔立ちが、ポール磨きを健康的な遊びにしていた。勝利は誇らしげに立派なバズーカ砲を康太に見せ、手入れさせ、そしてその性能を証明してみせた。のときも勝利の爽やかさはキープされている。
「康太、行くぞ! ゴォォォール!」
 雄叫びすらカッコよかった。
 ――森さん……。親しくなったのはいいんだけど……。
 康太にとっていちばんの難関が大樹と過ごす朝まで長い時間だ。最初の難関は一緒に入浴するときから始まる。あの夜から、大樹は準備ができている――それも男子寮でいちばん立派なもの――を康太の前にすっかり晒すようになった。それを見て康太のバズーカ砲が反応しても大樹はただ笑うだけだ。
「康太、おまえもおれみたいになるぞ。リトル・ウルフだからな」
 そう云って、康太に球磨きをしてくれる。
 ――疲れがふっ飛んじゃうんだよな、あれ。
 禁欲期間中にへんなことを考えてムラムラしないためには、練習に励んで自主練も追加して、思いっきり疲れてしまえばいい。しかし大樹がしてくれる球磨きは、その疲れをすうっと取りさってくれる。おまけに気持ちがいい。そのせいでバズーカ砲がぐんぐんと伸びてゆく。そしてそのあとには例の……。
 三階と四階のあいだにある踊り場に着いた。康太は、ふぅっと息を吐いた。もうすぐ四階。ひょっとすると、上がりきったところで勝利が快活な笑顔を見せながら待ち構えているかもしれない。昨日はそうだった。部屋に戻るまえに寮長室にしょっ引かれていったのだ。
 ――どうか大野先輩がいませんように。
 康太は祈りながらふり返った。勝利はいなかった。
 康太は急いで自分の部屋に入った。奥のベッドに大樹がいた。今日もハードな練習だったようだ。泥のように寝ている。しかし短パンのなかで大樹のバズーカ砲はすっかり準備できていた。
「痛っ!」
 康太のバズーカ砲が反応した。あれから少しだけ剥けるようになったが、そのせいで大きくなったときに、かえって突っ張ってしまう。
 ――ひと皮剥けたら楽になるのかな……。
 康太は大樹との入浴を想像した。康太のバズーカ砲はさらに大きくなった。
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