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第二章 儀式(セレモニー)
儀式(セレモニー):消防士の……。
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ふと気配に気づくと、柳川は、ふくらはぎをすでに洗い了えていて、左の足先を洗おうとしていた。健悟は壁に両手をついて足先を浮かせた。柳川は、健悟の足先を手にとり、シャンプーのときのように、こんどは右膝をすっと辷りこませて、
「ここに乗せてください」
と云った。そして健悟の足の裏と甲を洗い、最後に足の指の一本一本まで両手の指で叮嚀に洗った。湯をかけて泡を落とすと、捧げものでも持つように片手の掌に足の裏をのせ、もう片方の手で足首を持って、何かの儀式のように、恭しく床に置いた。
「泡を作るので少し待っていてください」柳川が云った。
つぎの計画が即座に泛んだ。
「あの、こちらも……」柳川が右脚の内ももに手を添えて、控えめに云った。
健悟が無言で応じると、柳川は力強く太ももを洗いはじめた。多少触れても泡の手を止めることはなかった。また筋肉のようすを確かめることも忘れなかった。こいつ、もう吹っ切れたのか? 健悟がこう思っているあいだに、右脚も洗い了わった。
「気持ち好かったぞ」
顔だけ振り向いて健悟がほめると、柳川はほっとしたような声で応えた。「ありがとうございます」
さあ、つぎはどうだ?
「股のあいだをくぐれ」健悟は低い声で云った。
柳川がそろりそろりと通ってゆく。それにしてもずいぶん低姿勢だ。昭和でもあるまいし、丁髷みたいな古典的な悪戯を今どきする男がいたらそいつは天然記念物だ。
健悟は柳川を見おろしながら、
「消火作業では狭いところに侵入することもある。普段は防火服を着ているが、危険なものにぶつかったりしないように、こういう訓練も必要だ」
などと、もっともらしい嘘をついた。
「はい」素直に返事をして柳川が進んでゆく。ようやく腰が通りぬけた。両手を交互に壁について梯子を登るように這いあがり、そして立上った。
「回れー、右」健悟が号令をかけた。
ふり返って柳川は健悟の顔を見つめ、つぎの指令を待った。
「さっき、着る物に負けない軀って云ったよな。消防士の軀だとわかる特徴がもうひとつある。なんだと思う?」健悟は穏やかな口調で云った。
「オーラのようなものでしょうか。今の親分さん、何だか迫力があります。俺は消防士だって全身で訴えているというか……」
応える柳川の息があがっている。怯えているのではない。柳川は今、自分でもそれをわかっている。ただそれを言葉に出来ないだけだ。
柳川が深く息を吸った。
今だ。
柳川の顔の両側に手をついて、健悟は柳川を囲いこんだ。
「焔と煤で燻された軀の匂いだ。しっかり嗅いでこの匂いを覚えろ」
柳川は目を閉じた。仔犬のように鼻をクンクンとならす。誘われるように右の腋窩へ近づいてくる。柳川の両手が健悟の腰回りをそっと掴んだ。
「好きなだけ嗅げ」
柳川は右の腋窩に顔を埋めた。鼻で大きく息を吸って、はあ、と口から息を吐く。これを何度も何度も繰りかえす。
こいつ匂いフェチか? 役作りのためにここまでするのか? それとも男に興味あるのか?
いづれにしても、今、健悟が柳川を支配していることだけは確実だった。遊び相手の女たちとのセックスが健悟の頭に泛んだからだ。女たちは、訪ねてきた健悟が部屋に一歩足を踏み入れた瞬間から着ているものを脱がせはじめ、匂いを嗅ぎ、そのまま寝室にしけこんでベッドに倒れこんだときには、すでに一度目の絶頂を迎えていた。
柳川が顔を腋窩からはなした。うるんだ目で健悟に懇願するように、
「あの……。反対側も好いですか?」
「気に入ったか?」
柳川はそのまま左の腋窩に顔を埋めた。そして右胸に左手を置き、胸毛の流れを確かめるように愛撫しはじめた。右手はいつのまにか健悟の背中に回っている。これも遊び相手の女たちと同じだ。
小雪が見たら驚くだろうな。憧れの柳川が男相手にこんなことをしているなんて思ってもいないだろう。ならば……。
――やりすぎるなって云っただろ。まさか小雪の代わりにとか思ってないだろうな。
相棒が割りこんできた。
――小雪にこんなことさせられるかよ。
――あとで事務所から訴えられても知らないぞ。
――俺とおまえとでこいつを満足させて遣れば、訴えられることもないだろ。
柳川が胸板に頬ずりしながらクンクンと鼻をならす。もうすっかり匂いに魅せられているようだ。柳川の顔はやがて腹へと降りてゆき、ついに逆三角形の頂点にたどり着いた。すると新たな感触が加わった。鼻で匂いを嗅ぐだけではなく、唇で草叢をついばみはじめたのだ。
健悟はしばらくそのようすを見つめた。
顎や頬が触れているのに、相棒は反応を示さない。
小雪の代わりにするつもりもない。
訴えられないように満足させる自信はある。
さあ、どうする……。
「親分さん……」
柳川が顔をあげた。口を半開きにして、舌先をちょろりと覗かせている。
ひとまずお預けだ。
「消防士の匂いは覚えたか? じゃあ洗ってもらおう」健悟は全身シャンプーのボトルを手にすると、ふたを開けてソープ液を毛深い胸の谷間に直接垂らし、片手でこすりはじめた。「毛深いのも悪いもんじゃない。泡立てるのに便利だ」
「ここに乗せてください」
と云った。そして健悟の足の裏と甲を洗い、最後に足の指の一本一本まで両手の指で叮嚀に洗った。湯をかけて泡を落とすと、捧げものでも持つように片手の掌に足の裏をのせ、もう片方の手で足首を持って、何かの儀式のように、恭しく床に置いた。
「泡を作るので少し待っていてください」柳川が云った。
つぎの計画が即座に泛んだ。
「あの、こちらも……」柳川が右脚の内ももに手を添えて、控えめに云った。
健悟が無言で応じると、柳川は力強く太ももを洗いはじめた。多少触れても泡の手を止めることはなかった。また筋肉のようすを確かめることも忘れなかった。こいつ、もう吹っ切れたのか? 健悟がこう思っているあいだに、右脚も洗い了わった。
「気持ち好かったぞ」
顔だけ振り向いて健悟がほめると、柳川はほっとしたような声で応えた。「ありがとうございます」
さあ、つぎはどうだ?
「股のあいだをくぐれ」健悟は低い声で云った。
柳川がそろりそろりと通ってゆく。それにしてもずいぶん低姿勢だ。昭和でもあるまいし、丁髷みたいな古典的な悪戯を今どきする男がいたらそいつは天然記念物だ。
健悟は柳川を見おろしながら、
「消火作業では狭いところに侵入することもある。普段は防火服を着ているが、危険なものにぶつかったりしないように、こういう訓練も必要だ」
などと、もっともらしい嘘をついた。
「はい」素直に返事をして柳川が進んでゆく。ようやく腰が通りぬけた。両手を交互に壁について梯子を登るように這いあがり、そして立上った。
「回れー、右」健悟が号令をかけた。
ふり返って柳川は健悟の顔を見つめ、つぎの指令を待った。
「さっき、着る物に負けない軀って云ったよな。消防士の軀だとわかる特徴がもうひとつある。なんだと思う?」健悟は穏やかな口調で云った。
「オーラのようなものでしょうか。今の親分さん、何だか迫力があります。俺は消防士だって全身で訴えているというか……」
応える柳川の息があがっている。怯えているのではない。柳川は今、自分でもそれをわかっている。ただそれを言葉に出来ないだけだ。
柳川が深く息を吸った。
今だ。
柳川の顔の両側に手をついて、健悟は柳川を囲いこんだ。
「焔と煤で燻された軀の匂いだ。しっかり嗅いでこの匂いを覚えろ」
柳川は目を閉じた。仔犬のように鼻をクンクンとならす。誘われるように右の腋窩へ近づいてくる。柳川の両手が健悟の腰回りをそっと掴んだ。
「好きなだけ嗅げ」
柳川は右の腋窩に顔を埋めた。鼻で大きく息を吸って、はあ、と口から息を吐く。これを何度も何度も繰りかえす。
こいつ匂いフェチか? 役作りのためにここまでするのか? それとも男に興味あるのか?
いづれにしても、今、健悟が柳川を支配していることだけは確実だった。遊び相手の女たちとのセックスが健悟の頭に泛んだからだ。女たちは、訪ねてきた健悟が部屋に一歩足を踏み入れた瞬間から着ているものを脱がせはじめ、匂いを嗅ぎ、そのまま寝室にしけこんでベッドに倒れこんだときには、すでに一度目の絶頂を迎えていた。
柳川が顔を腋窩からはなした。うるんだ目で健悟に懇願するように、
「あの……。反対側も好いですか?」
「気に入ったか?」
柳川はそのまま左の腋窩に顔を埋めた。そして右胸に左手を置き、胸毛の流れを確かめるように愛撫しはじめた。右手はいつのまにか健悟の背中に回っている。これも遊び相手の女たちと同じだ。
小雪が見たら驚くだろうな。憧れの柳川が男相手にこんなことをしているなんて思ってもいないだろう。ならば……。
――やりすぎるなって云っただろ。まさか小雪の代わりにとか思ってないだろうな。
相棒が割りこんできた。
――小雪にこんなことさせられるかよ。
――あとで事務所から訴えられても知らないぞ。
――俺とおまえとでこいつを満足させて遣れば、訴えられることもないだろ。
柳川が胸板に頬ずりしながらクンクンと鼻をならす。もうすっかり匂いに魅せられているようだ。柳川の顔はやがて腹へと降りてゆき、ついに逆三角形の頂点にたどり着いた。すると新たな感触が加わった。鼻で匂いを嗅ぐだけではなく、唇で草叢をついばみはじめたのだ。
健悟はしばらくそのようすを見つめた。
顎や頬が触れているのに、相棒は反応を示さない。
小雪の代わりにするつもりもない。
訴えられないように満足させる自信はある。
さあ、どうする……。
「親分さん……」
柳川が顔をあげた。口を半開きにして、舌先をちょろりと覗かせている。
ひとまずお預けだ。
「消防士の匂いは覚えたか? じゃあ洗ってもらおう」健悟は全身シャンプーのボトルを手にすると、ふたを開けてソープ液を毛深い胸の谷間に直接垂らし、片手でこすりはじめた。「毛深いのも悪いもんじゃない。泡立てるのに便利だ」
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