世界で唯一の探索系上級職になったけど、駆け出しを育てながらのんびりやろうと思う

いかぽん

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第1章

第3話

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 酒場の隅で野暮な男どもに絡まれている、駆け出し冒険者と思しき三人の少女たち。

 少女たちはいずれも若く、パッと見では十五歳ほどに見える。

 職業適性は装備から見るに、それぞれ【ウィザード】【モンク】【プリースト】ってところか。

 一方で、そんな少女たちに絡んでいるのは、わりとどうしようもなさそうな男たちだ。

 さっきからの様子を見ている感じ、手練れとは思えない。
 第一迷宮を踏破できるかどうかすら怪しいぐらいのレベルに見える。

 それでも、駆け出しの少女たちと比べると、さすがに幾分か上なんだろうが……。

 ちらっとギルドの受付のほうを見ると、騒動に気付いたギルド職員が、奥に誰かを呼びにいったようだった。

 じきに解決はするだろうが、時間稼ぎだけでもしておこう。

 俺は騒動のほうへと向かうと、少女たちを無理やり押さえつけている男たちに言う。

「もうやめとけよ。嫌がってるだろ」

「あぁん、なんだぁ……? おう兄ちゃん、威勢がいいな」

 男の一人が、捕まえていた少女を向こうに突き飛ばして、俺のほうへと向かってきた。

 突き飛ばされた【ウィザード】姿の少女は、「きゃっ」と悲鳴をあげて床に倒れる。
 その顔からメガネが落ちた。

 慌ててメガネを拾い上げた少女に、俺は拝み手を立てて『悪いな、許せ』とジェスチャーをしてみせる。

 その俺の仕草が癇に障ったのか知らないが、俺の目の前まで来た男は、俺の胸倉をぐいとつかみ上げた。

「おう兄ちゃん、ずいぶんと舐めた真似してくれんじゃねぇか、ああ? その優男面、ボコボコにされて不細工になりてぇのか?」

「いやぁ、どんなにボコボコにされたって、アンタたちほど醜いツラにはならないだろ。今の自分たちの顔、鏡で見てみるといいぜ」

「──野郎っ!」

 男の沸点は、どうやらすさまじく低いようだった。

 そいつは左手で俺の胸倉をつかんだまま、右の拳で俺を殴りつけようとしてくる。

 だが、遅い。
 俺は殴りつけてくる男の手首を、自分の手で素早くつかみ取る。

「なっ……!?」

「なぁアンタ──自分と相手、どっちが格上かぐらいは、見極められるようになっといたほうが、いいぜ!」

「がっ……!」

 俺は男の顔面に、頭突きを食らわせてやる。

 男は俺から手を離し、鼻を押さえて床にうずくまった。

「ぐぉおおおおっ……! い、痛ぇっ……!」

「なっ……!?」

「な、なんだこの野郎!?」

 残る二人の男たちも、自らが捕まえていた少女たちを手放して、俺のほうへと注意を向ける。

 手放された少女の一人、【プリースト】姿のほうは、四つん這いになってカサカサと台所によくいるアレのような動きで【ウィザード】姿の少女の隣へと逃げ込んだ。

 一方で【モンク】姿の少女は、その二人を守るように前に立つと、自らの乱れた衣服を整えてから、俺のほうに真摯な瞳を向けてくる。

「あ、ありがとうございます! ボクも加勢を──」

「いや、いいよ。そこで見ていてくれ」

 俺は【モンク】姿の少女の申し出を、丁重にお断りする。
 必要があるとも思えないしな。

「──野郎っ! 格好つけやがって、優男が!」

「くたばりやがれ!」

 男たちが俺に殴りかかってくる。

 俺はそれをひょいひょいとよけつつ、男たちの足を引っかけて転ばせてやった。

「ぐわあっ!」

「く、くっそぉ……!」

 今の俺にとっては、こいつらの動きは遅すぎて、まるでお話にならない。

 しかし一方で、絶対的な【敏捷力】のステータス値で見れば、こいつらも第一迷宮深層のモンスターに匹敵するぐらいはあるような気もする。

「ってことは、俺のほうが速くなってるのか……」

【マスターシーフ】にクラスチェンジしてから戦闘らしきことをするのは初めてなので、感覚が少しズレていたようだ。

 だが一方で、男たちの行動はさらにエスカレートする。

「野郎、もう許さねぇ!」

「ぶっ殺してやる!」

 立ち上がった三人の男たちは、腰に提げていた武器──それぞれ剣、手斧、短剣──を抜いてきた。
 銀色の刃が、ぎらりと光る。

「おいおい、マジかよ」

 俺は苦笑する。
 素手ゴロならともかく、あんなものは街中の喧嘩で抜いていいものじゃない。

 まあ、だからといって負ける気もしないんだが──

 だとしても、踏み越えてはならない一線というものがある。
 向こうがそこを越えたなら、こちらもそれなりの姿勢を見せるべきだろう。

 俺は自分の腰のベルト、左右に一本ずつ刺さった、愛用の短剣へと手をかける。

「アンタたち、そんなものを抜くってことは──それなりの覚悟はあるんだろうな」

 腰の短剣を、左右同時に引き抜く。

 第三迷宮に棲息するモンスターの牙を素材として作られた、上等の短剣だ。
 目の前の男たちの武器とは、その質において比べ物にならない。

 そして、ある程度以上の実力を持った【シーフ】は、たいていは二本の短剣を同時に扱う【ツインダガー】のスキルを修得している。
 俺もまた、ご多分に漏れずだ。

 俺は二振りの短剣を手に、身を低くして構える。

 それを見た男たちはみな、ごくりと唾を飲んだ。
 怯えて足が前に出ないという様子だ。

 そして、そこに──

「おう、クソガキども! テメェらの冒険者資格は一時停止、それが解除されるまでギルドには出禁だって、この間しっかり言ったはずだよなぁ、ああ?」

 ギルドの受付窓口のカウンターを乗り越えて、ギルドマスターがのしのしと歩み寄ってきた。
 ギルドマスターの言葉は、男たちに向けられたものだ。

 筋骨隆々としたギルドマスターの姿を見て、男たちはあからさまにビビった。
 そして──

「「「お、覚えてやがれ!」」」

 見事な捨て台詞を吐いて、冒険者ギルドから慌てて逃げ去っていった。

 ギルドマスターは、男たちが出ていったギルドの出入り口を見て、大きくため息をつく。

「まったく……。ああいうのは、できるならずっと豚箱にぶち込んどきたいんだがな、なかなかそうもいかねぇ。──それはそうとクリード、手間かけさせちまって悪かったな」

 俺はそれに、笑って答える。

「おやっさんが出てくるまで、時間稼ぎをしようと思っただけだ。しかしあんなのにも慈悲をかけなきゃいけないなんて、ギルドマスターってのも大変だな」

「まったくだ。迷宮でモンスターを狩っていたほうがよほど楽だぜ。どっかの誰かさんは、【マスターシーフの書】なんてとんでもねぇものを見つけてくるしよ。──あとクリード、お前さんは分かってると思うが、街中で武器は振り回すなよ。目こぼしできるのは脅しに使うところまでだぞ」

「分かってるって。お仕事お疲れ様です」

 俺は短剣を鞘に納めて、ギルドマスターの背中をポンと叩く。

 このギルドマスターには、俺も駆け出しとして第一迷宮に挑んでいた頃に、散々世話になったものだ。

 ギルドマスターは、「一丁前のこと言うようになりやがって」と捨て台詞を残してから、奥へと戻っていった。

 それから俺は、少女たちのほうへと向き直る。

「よう、アンタたちも災難だったな。ただ冒険者には、荒っぽいやつも多いからな。ああいった手合いに絡まれても、それなりに対応できるようにはしといたほうがいいぜ」

 実力差ばかりはいかんともし難いんだけどな、と心の中で付け加える。

 一方で少女たちは、三者三様、俺にお礼を言ってくる。

「あ、ありがとうございました……」

「ありがとうございました! ボク、お兄さんの腕前に感服しました!」

「いやぁ、助かりましたっすよ。冒険者になってこんなにすぐに貞操のピンチが来るとは思ってなかったっす。モンスターの前に、冒険者が野獣。うち覚えたっす。──あ、でもお兄さんは別っすよ? むしろお兄さんになら、うちは……ぽっ」

 それぞれ【ウィザード】【モンク】【プリースト】の格好の少女である。

 なお、このわずかなやりとりだけで、【モンク】姿の子がボクっ娘で、【プリースト】姿の子はまあまあ様子がおかしいということが分かった。

 ちなみに、三人とも外見だけならすんごく可愛い。

 あの【プリースト】姿の子も、容姿はとても可愛らしいので、先のセリフに少しだけ男心が揺れたのは内緒である。

「おう。これからも冒険者として苦楽はあると思うが、くじけずに頑張れよ。応援してる。じゃあな」

 俺はお礼を言ってきた三人にそう返してから、少女たちと別れ、再び自分の席に戻って一人で酒を飲み始めた。

 あんな可愛い子たちにお酌でもしてもらえたら、さぞ気分がいいだろうなぁとは思ったが、それじゃあ先の男たちと同じくどうしようもないので、その想いは心の中にしまっておくことにした。

 だが、この後──
 少女たちのほうから再び、俺に関わってきたのである。
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