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春
歓迎パーティー2
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ほらお兄様きょとんとしてるじゃないか。めちゃくちゃ恥ずかしい、恥ずかしすぎて死んでしまいそう。顔が真っ赤になっていく。お兄様がじぃっと見てくるから余計恥ずかしい。真っ赤になった顔を見られたくなくて俯いてしまう。
「おれぇ、おといれ行きたい、んです」
「……え」
思わぬ援護射撃に、バッと後ろを振り向けば相変わらず宙をふわふわ漂う視線のバルト君が、焦点を僕に合わせてにっこり笑った。
「なんだ、そういうことね。てっきり、クリスが気分でも悪くなったのかと」
「ち、違います! 大丈夫です!」
「ばしょ、わかんないから」
「それなら私が連れて行こう。クリスたちは座って――」
「い、いえ! 僕が! 連れて行きます……ので……」
せっかくのチャンスが、と思ったらつい声が大きくなってしまった。あぁ、もう嫌だなぁ。久々の死亡フラグ撲滅チャンスに、緊張してるのかも。
「……ふふっ、もう仲良くなったんだね。お手洗いなら、食堂を出てひとつめの角を右に曲がった突き当りだよ。近いけどそろそろ人が集まってくるだろうから、迷子にならないようにね」
ぽんぽん、と頭を撫でられる。お兄様の手は魔法の手なんだと思う。魔法使いの見習いだから魔法の手なんだけどさ。
「くりすてぃー、おれ、もっちゃう」
「えっ!?」
助けてくれたんじゃなくてほんとにトイレかよ!? しかももっちゃうって、もっちゃうって!
「いってらっしゃい」とお兄様に見送られ、バルト君の手を取って駆け足だ。だってもれちゃうって! 入学一日目で、皆が見てる前でお漏らしとか虐められてしまうでしょ。可愛い顔してるから、変な奴というか変態に目を付けられでもしたら大変だ。
食堂を出てひとつめの角を右に、突き当りがトイレ。急いで食堂を出ると、お兄様の言っていたとおり生徒が徐々に集まりつつあった。遠くから緑の集団が近付いてきてるのが見える。先頭は、ノエル先輩だ。
「くりすてぃー、はやく、はやく」
「あぁ、もう! あと少しだから我慢してよ!」
曲がり角を右に曲がって、見えた!
「ほら、行っといで!」
もたもたとトイレに駆け込んでいったバルト君を見送って、深く息を吐き出す。もし弟がいたらこんな感じなのかな。いや、ちょっと待て、確か『私』には弟、だっけ、妹だったかもしれないが下にひとりきょうだいがいた、はず。自信を持って、きょうだいがいたと言えない自分がもどかしい。確かに、いたはず。あれ、えっと、んん? 『私』って誰だ――?
「くりすてぃー?」
「ッ、ば、るとくん」
「どうしたの、きぶん、わるい?」
「いや、だいじょうぶ。ちょっと、考えごとしてただけだから。バルト君は、先に戻っていて。僕はちょっと用事を思い出したから」
「おれもいく」
これから僕が行こうとしてるのは、調理室だ。そこに、お兄様を毒殺しようとしている奴がいる。もしかしたら危険なことになるかもしれないそこにバルト君を連れて行くわけにはいかない。僕の事情で、傷ついてほしいくなかった。
どうしよう、どうしよう、とぐるぐる目を回す僕に、バルト君がぎゅーっと、ぎゅーっと?
「へっ、バルト君!?」
「くりすてぃー、ずっと難しそう。おれ、しんぱいだな」
慰めてくれてる、のかな。言葉少なで、たどたどしい上に単語ばっかりだけど、バルト君が僕のことを心配して慰めてくれているのはわかった。でも、連れて行くかは別だ。
「つれてって」
「ダメ。みんなが心配するから」
「くりすてぃー、しんぱい。つれてかなきゃ、ばらしちゃうよ」
きらり、と薄緑の目が濃く光った。
「私。お兄様。毒殺。守る」
「……――は?」
「おれ、てれぱす」
「ん?」
「こころ、よめるの」
つまり、バルト君はテレパス――テレパシー能力者で、心を読める。そして僕の心を読んだ、と。ちょっと理解が追い付かない。なにそれ。そんなのゲームになかった。
「げーむ? じゃない。ここ、げんじつ」
息が、止まった。呼吸することを忘れて、ぐっと言葉を呑み込む。わかってる。今、僕が存在してるここがゲームじゃないって。現実なんだ、って。だから、だから必死になってるんだ。大切で愛おしいお兄様を亡くしたくないから。ゲームじゃ、僕は病に侵され、まともに体を起こすこともできずお兄様が苦しんでいるときも遠くでベッドに寝転んでいるだけで――
「ねぇ、くりすてぃーはね、いま、ごっちゃになってる」
「……?」
「わたしと、ぼくと、くりすてぃーと、××と、どっちも、ぜんぶがね、まざっててふあんてい」
だから今ひとりで行かせることはできないよ、と言い聞かせるようにバルト君は言葉を紡ぐ。不思議とじんわり心にバルト君の言葉が、声が沁みた。
「いっしょに、行ってくれる?」
「うん。おれ、くりすてぃー守るよ」
にっこりと可愛い顔に似合わない力強い笑みを浮かべたバルト君は将来イイ男になりそうな予感がする。
手を取って、目的地へ向けて走り出す。食堂に行く左に曲がらず、まっすぐだ。調理室はすぐそこにある。
「おれぇ、おといれ行きたい、んです」
「……え」
思わぬ援護射撃に、バッと後ろを振り向けば相変わらず宙をふわふわ漂う視線のバルト君が、焦点を僕に合わせてにっこり笑った。
「なんだ、そういうことね。てっきり、クリスが気分でも悪くなったのかと」
「ち、違います! 大丈夫です!」
「ばしょ、わかんないから」
「それなら私が連れて行こう。クリスたちは座って――」
「い、いえ! 僕が! 連れて行きます……ので……」
せっかくのチャンスが、と思ったらつい声が大きくなってしまった。あぁ、もう嫌だなぁ。久々の死亡フラグ撲滅チャンスに、緊張してるのかも。
「……ふふっ、もう仲良くなったんだね。お手洗いなら、食堂を出てひとつめの角を右に曲がった突き当りだよ。近いけどそろそろ人が集まってくるだろうから、迷子にならないようにね」
ぽんぽん、と頭を撫でられる。お兄様の手は魔法の手なんだと思う。魔法使いの見習いだから魔法の手なんだけどさ。
「くりすてぃー、おれ、もっちゃう」
「えっ!?」
助けてくれたんじゃなくてほんとにトイレかよ!? しかももっちゃうって、もっちゃうって!
「いってらっしゃい」とお兄様に見送られ、バルト君の手を取って駆け足だ。だってもれちゃうって! 入学一日目で、皆が見てる前でお漏らしとか虐められてしまうでしょ。可愛い顔してるから、変な奴というか変態に目を付けられでもしたら大変だ。
食堂を出てひとつめの角を右に、突き当りがトイレ。急いで食堂を出ると、お兄様の言っていたとおり生徒が徐々に集まりつつあった。遠くから緑の集団が近付いてきてるのが見える。先頭は、ノエル先輩だ。
「くりすてぃー、はやく、はやく」
「あぁ、もう! あと少しだから我慢してよ!」
曲がり角を右に曲がって、見えた!
「ほら、行っといで!」
もたもたとトイレに駆け込んでいったバルト君を見送って、深く息を吐き出す。もし弟がいたらこんな感じなのかな。いや、ちょっと待て、確か『私』には弟、だっけ、妹だったかもしれないが下にひとりきょうだいがいた、はず。自信を持って、きょうだいがいたと言えない自分がもどかしい。確かに、いたはず。あれ、えっと、んん? 『私』って誰だ――?
「くりすてぃー?」
「ッ、ば、るとくん」
「どうしたの、きぶん、わるい?」
「いや、だいじょうぶ。ちょっと、考えごとしてただけだから。バルト君は、先に戻っていて。僕はちょっと用事を思い出したから」
「おれもいく」
これから僕が行こうとしてるのは、調理室だ。そこに、お兄様を毒殺しようとしている奴がいる。もしかしたら危険なことになるかもしれないそこにバルト君を連れて行くわけにはいかない。僕の事情で、傷ついてほしいくなかった。
どうしよう、どうしよう、とぐるぐる目を回す僕に、バルト君がぎゅーっと、ぎゅーっと?
「へっ、バルト君!?」
「くりすてぃー、ずっと難しそう。おれ、しんぱいだな」
慰めてくれてる、のかな。言葉少なで、たどたどしい上に単語ばっかりだけど、バルト君が僕のことを心配して慰めてくれているのはわかった。でも、連れて行くかは別だ。
「つれてって」
「ダメ。みんなが心配するから」
「くりすてぃー、しんぱい。つれてかなきゃ、ばらしちゃうよ」
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「……――は?」
「おれ、てれぱす」
「ん?」
「こころ、よめるの」
つまり、バルト君はテレパス――テレパシー能力者で、心を読める。そして僕の心を読んだ、と。ちょっと理解が追い付かない。なにそれ。そんなのゲームになかった。
「げーむ? じゃない。ここ、げんじつ」
息が、止まった。呼吸することを忘れて、ぐっと言葉を呑み込む。わかってる。今、僕が存在してるここがゲームじゃないって。現実なんだ、って。だから、だから必死になってるんだ。大切で愛おしいお兄様を亡くしたくないから。ゲームじゃ、僕は病に侵され、まともに体を起こすこともできずお兄様が苦しんでいるときも遠くでベッドに寝転んでいるだけで――
「ねぇ、くりすてぃーはね、いま、ごっちゃになってる」
「……?」
「わたしと、ぼくと、くりすてぃーと、××と、どっちも、ぜんぶがね、まざっててふあんてい」
だから今ひとりで行かせることはできないよ、と言い聞かせるようにバルト君は言葉を紡ぐ。不思議とじんわり心にバルト君の言葉が、声が沁みた。
「いっしょに、行ってくれる?」
「うん。おれ、くりすてぃー守るよ」
にっこりと可愛い顔に似合わない力強い笑みを浮かべたバルト君は将来イイ男になりそうな予感がする。
手を取って、目的地へ向けて走り出す。食堂に行く左に曲がらず、まっすぐだ。調理室はすぐそこにある。
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