悪役令嬢のペットは殿下に囲われ溺愛される

白霧雪。

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番外編 小話

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 眠る体勢には、その人の心理状態が表れる。例えば、仰向けでリラックスした体勢は安定を表し、何かを抱えるように眠る人は悩みを抱えていたり。

 心理学というよりは、休憩中の雑談で教えてもらったことだ。

 隣で眠る可愛い人は、きゅっと体を胎児のように丸めて眠っている。手はギュッと握りしめて、眉間にも力が入っているのか皺ができている。人差し指で突けば、「うぅぅん……」と呻き声を零した。胎児型で眠る人は頑固な人が多いらしい。

 どちらかと言えば、頑固な方だろう。こと、愛しのお嬢様のことに関しては譲らないのだから。

「ベティ、ベティ!」と嬉しそうに緩ませた表情かおをその他大勢大多数に晒して、欲を孕んだ目を向けられていることに気づかないこの子を守るのは、お嬢様には大変な荷だったことだろう。

「――ぃ、ゃ、……っ」

 すよすよと眠る寝顔を、じぃっと食い入るように見つめていると、夢見が悪いのだろう。ううう、と歯を食いしばって喉から呻き声をあげて、さらに体を小さく丸めようとする。

「ヴィンス、ヴィンス、私はここにいるよ」
「……――? ……ェ、でぃ?」

 ぱち、と瞬いたアメジストの瞳から雫が透明な筋となって落ちていく。こぼしてしまってはもったいない。目じりに口づけ、涙を吸い上げれば、「ンぅ」と顎を持ち上げ、キスをねだってくる可愛い人に頭が沸騰するかと思った。

 乱暴はしないと、大切に慈しんで守って愛すると決めたのに、自分自身への戒めをどこか遠いところに放り投げてしまいそうなほど暴力的な可愛らしさに、下腹部に熱が溜まる。

「ぇでぃ、えでぃ、どこにもいかないで、ひとりにしないで」

 えぐえぐと、涙をこぼす彼を抱きしめ、キスをして頭を撫でてやる。さらさらの髪は、毎日丁寧にヘアケアをしているおかげで指通りも触り心地も最高級の絹織物のようだ。

 私の大切な大切な、愛しい人。

 もう手を離さない。もう逃がしてやれない。もう、自由をあげることはできない。

 抱きしめて、キスをして。彼は、ゆっくり頭を撫でられるのが好きだった。指通りの良い髪を堪能しながら、小さな頭を撫でてやる。そうするだけで、悪夢に涙をこぼしていたのがウソのように、すぅっと再び寝入るのだ。

 固く強張り、丸まっていた体は力が抜けてリラックスして、私の胸元に顔をうずめている。

「皇太子が男色家だなんて……」と言う者は少しずつしている。王位を継ぐにしろ継がないにしろ、彼にとって過ごしやすい環境を作ることが第一だった。

 あのお嬢様は気に食わないけど、「ポチは、意外と寂しがり屋で寒がりで怖がりですわよ。特に、暗くて狭いところが苦手みたいですわ」と教えられたのも気に食わないけど、ほんの少しだけ感謝している。

 家から彼を守り、学園でも彼を守ってくれた。彼女なら、弟の妻も立派に務まるだろう。なんなら、弟に王位継承権を譲ってもいいとすら思っていた。私なんかよりも、ずっと才能がある。

「……ヴィンス、愛してるよ」

 それでも今は、小難しいことなんて何も考えず、ただ、愛しい人と過ごす穏やかな日常を嚙み締めたかった。

 離してあげないし、離すつもりもない。自分が、こんなにも独占欲が強いとは思わなかった。どちらかと言えば厭世的なところがあって、カリスマ性もあるけれど田舎暮らしの方が向いてる、なんて心理学者から分析されたときは大口を開けて笑ってしまった。

 でも、君となら、どこで何をしようと、きっと楽しくて、愛しい毎日が過ごせるんだろうな。

「わたしを、おいていかないでね」

 私の世界は、彼を中心に回っている。何気ない一言で一喜一憂して、微笑みかけられれば世界が色つく。

 私はもう、ヴィンセントがいないと生きていけなかった。

 夢に揺蕩い、白い花へと愛を紡ぐ。水をあげすぎれば花は枯れてしまうけど、愛を注ぎ続けたら彼はいったいどうなるんだろう。


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