婚約破棄された令嬢はヤンデレ王子に溺愛される

白霧雪。

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05.求婚されました

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 白銀のお方は、セオドリック・アッシュフィールドと仰った。
 その名を、リアは知っていた。

「どうして、隣国の王子様が……?」

 メイドたちに全身を洗われながら、疑問を口にする。

 シャルロット王国の第二王子・セオドリック。白銀の貴公子やら白雪の愛し子なんて呼ばれる、尊き血筋のお方である。

 光に透ける白銀の髪に、空を映した蒼い瞳。氷のように冷たく整ったかんばせが、リアを見つめるときだけ雪解けの春のような笑みを綻ばせる。
 まるでお姫様のピンチを救う王子様みたい――実際に王子様なのだけれど、リアはセオドリックの名前は知っているが、実際に会うのは初めてのはずだった。

「俺のお姫様、俺の運命――ようやく見つけた。リア様、お迎えに上がりました」

 膝をつき、差し伸べられる手を取ってしまったのはお嬢様の性である。

 気丈に振舞いつつも、ひび割れ傷ついた心にセオドリックの優しさは深いところまで染み渡った。
 そして何より顔が良い。王族というのはこうもみな整った造形の顔立ちをしているのだろうか。

 冷たく研ぎ澄まされた面立ちが、春の日差しのように柔らかな笑みを浮かべたときには思わず顔が真っ赤になってしまった。
 ハロルドも、お兄様も顔は良かったが、柔和で優しげな顔立ちだった。

 セオドリックの洗練された美しさ。そう、まるど研ぎ澄まされた剣のように、凛とした佇まい。意志の強い瞳に、彼の心の強さが伺えた。

 年の頃は、今年の冬に二十になるという。リアの三つ年上だった。

「お嬢様、次は御髪を整えましょう。腕利きの髪切りを呼びました」
「え、えぇ、ありがとう」

 ふわふわのタオルで全身を拭かれ、手触りのよいシルクの簡易ワンピースを着せられる。爪の先まで磨かれて、化粧いらずの肌はつるんとツヤを放っている。
 案内された部屋で待っていたのは王族お抱えの髪切り師。美しい黄金の髪がざっくばらんに切られているのを見て声にならない悲鳴を上げていた。

「私にお任せください! お嬢様にとびっきりお似合いの髪にさせていただきます!!」

 椅子に座らせられて、そこからの記憶はない。湯船にゆっくりと浸かり、怒涛の一日だったリアの身体は疲れきっていた。
 座って五分もしないうちに寝息を立て始めたリアに、髪切り師は驚きつつも、自身の腕によりをかけて黄金の髪を整えることに専念をする。

 シャルロット王国では、女性の髪には女神の祈りが宿るとされ、長ければ長いほど、美しければ美しいほど良いとされる風習があった。

 切れ味のよいナイフで、ひとまとめに切ったのだろう髪はすっぱりと、肩口で斜めに揺れている。
 左右で一番短いところに切り口を合わせ、カッとしていく。毛質は細く、艶とハリがある固めで、ボリュームもある。
 裾の部分を切りそろえて、少しずつ梳いて量を調節していく。
 鏡に映る寝顔はとても愛らしく、なおさら長く整えられていただろう髪形を見れないことが残念だった。



 ――丁寧に、髪を整え終わったころには一時間が経過していた。

「お嬢様、お嬢様、出来上がりましたよ」

 ポンポン、と肩に触れてリアを起こす。

「ん、ぅ……ふぁ……」

 小さくあくびをこぼし、ぱちぱちと瞬いた瞳が鏡に映る。

「う、わぁ……! 素敵……!」

 斜めにざく切りだった髪は、前下がりのショートボブに整えられていた。
 裾を薄く、トップの後ろにボリュームがあり、丸みを帯びたシルエットがとっても可愛い。人生で一番短いヘアスタイルに、目をキラキラと輝かせた。
 首筋が涼しくて、頭がとっても軽かった。

「とっても素敵……! ありがとうございます!」
「お嬢様のようなとっても美しい髪と触れ合えたこと、光栄に存じます。さぁ、隣の部屋でメイドたちがドレスを用意して待っています」

 隣室では、色とりどりのドレスを広げたメイドたちが待ち構えていた。

 鮮やかなワインレッド、深みのあるグリーン、落ち着いたネイビーブルー。色鮮やかで、形もさまざま。思わず目を丸くした。

「さぁさぁお嬢様! お召し代えをいたしましょう」
「色白のお嬢様にはこちらの鮮やかな赤がお似合いになるかと!」
「いいえ、いいえ! 慎み深く、知的なお嬢様には落ち着いたブルーがお似合いでしょう!」
「それなら、お美しい黄金の御髪の映えるグリーンがいいですわ!」

 ああでもないこうでもない、と三人のメイドに着せ替え人形にされたリアは出来上がるまでに息も絶え絶えになっていた。
 コルセットを締められて、姿見にドレス姿のわたしが映る。

 ロイヤルブルーのAラインドレスは派手すぎず、細やかな刺繍のレースがふんだんにあしらわれ、落ち着いた雰囲気の中に可愛らしさがあった。
 レースでできた白薔薇が胸もとを飾り、キラキラとクリスタルが散りばめられている。
 実家では、淡い色のドレスしか身につけることを許されていなかった。
 こんな深い青色のドレスなんてはじめて……! はじめてだらけの一日に、心は自然と早鐘を打った。

「よくお似合いですわ……!」
「なんてお美しい」
「やはり坊ちゃんの見立て通りです」
「まるで夜の妖精みたいだわ」

 手放しに褒めてくるメイドたちに気恥ずかしくなる。
 白い頬を赤く染めて、視線をさ迷わせた。

 短い髪に、深い色のドレス。まるで自分が自分じゃないようで、気分が落ち着かなかった

「さぁさぁ、お嬢様。坊ちゃんがお待ちでございます」

 気高い騎士のように、顎を弾いて唇を引き結び、背筋をぴんと伸ばして胸を張る。
 蛇が出るか鬼が出るか、リアの今後を左右する一世一代の決戦が待ち構えていた。

 
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