婚約破棄された令嬢はヤンデレ王子に溺愛される

白霧雪。

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06.王子side

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 一目惚れだった。

 太陽を纏った黄金の髪。エメラルドをはめ込んだ碧眼。地上に舞い降りた天使の如く美しい少女。――リア・ミッドフォードのデビュタントが、彼女との初対面だった。

 兄君にリードされ、彼女がパーティー会場内に足を踏み入れた時、愛らしい彼女に周囲がにわかに騒がしくなったのをよく覚えている。
 僕が、俺が、私が、と彼女のダンスの相手に立候補するが、慎ましやかな笑みを浮かべて彼女は全て断っていた。

 デビュタントとは、貴族令嬢の社交界デビューであると同時に、婚約者や結婚相手を見つける場でもある。
 それにミッドフォード家と言えば王族に仕える騎士の家系。王族とお近づきになるチャンスでもあった。

「ハロルド様、」

 ぼうっと、彼女を見つめる視界を遮った男にハッと意識を取り戻す。

「随分熱心に見つめていたじゃないか」
「……えぇ、そうですとも。俺は彼女ほど美しい女性を見たことがない」
「お、お前が素直に見つめるなんて珍しいじゃないか」
「兄上、彼女は?」
「アナスタージア王国の王国騎士・ミッドフォード子爵の娘のリアお嬢様だ」

 リア、と口の中で名前を噛み締め、再び彼女を見つめる。

 ダンスの誘いを断っていた彼女が、ひとりの男の手をとって、ステップを踏んでいる。細い腰に添えられた腕、華奢な指先を握り締める手のひら。嗚呼、あの男と場所を変わりたい。

 ダンスパーティーは、彼女が主役と言っても過言ではなかった。ひらひらと、ドレスの裾を広げ、なびかせ、くるくると華麗に踊るリアに、誰もが釘付けだった。

 そこから俺は、リア・ミッドフォードの虜になってしまったのだ。

 彼女に何かあれば逐一連絡をするように命じたしもべを貴族学園に入学させ、遠くから彼女を見守っていた。

 第二王子という肩書きに目をくらませた女たちの中で、彼女だけが、リアだけが輝いて見えた。
 淑やかな笑顔、洗練された振る舞い、有象無象の女たちなんて目じゃない、比べ物にならないほど美しい。



 にゃぁご、と一鳴きとともに柔らかな肉球がペシリと夢見心地のセオドリックの頬を叩く。

「なんだい、可愛いキティ。君も彼女のことが好きなのかい?」
「にぁーん」

 返事をするかのように鳴いて、頭を押し付けてくる。
 艶やかな白い毛並みの猫は、彼女の愛猫だ。可愛い猫キティがいてくれたおかげで、連れ去られそうだった彼女を見つけることができたのだ。
 今だって、まるで言葉を理解しているように返事をして、ごろごろと喉を鳴らしている。

「坊ちゃん、お嬢様がいらっしゃいます」

 ぴょん、と腕の中からキティが飛び出して、扉のほうへ駆けて行く。

「嗚呼、」

 ――夢にまでみた彼女が、今、自分の屋敷にいるのだと思うと、気持ちが昂らないはずがなかった。

「ずっと、お会いできる日を楽しみにしていました」

 青いドレスに身を包んだ彼女は、深い夜に浮かぶ月の女神のようで、白魚の指先を掬い、指先に口付けを落とす。
 白猫の姿を認めて、強張っていた頬がかすかに緩む。

「改めて、窮地に立たされたところを救ってくださり、感謝申し上げます」

 ドレスの裾を持ち上げて、礼をする彼女はお嬢様を完璧に演じている。
 ……俺が見たいのは、そんな取り繕った表情じゃない。
 じわり、と押さえ込んでいた邪まな気持ちが溢れそうになる。

「わたしはリア・ミッドフォード、……いえ、今はただのリアですね。助けていただき、感謝いたします。しかし、大変申し訳ないのですが、わたしにはお礼をする術がございません」
「お礼なんて、俺が貴方を助けたかったから救ったんだ」
「ですが、……家名を失ったわたしに、できることなんて肉体労働くらいしかありません」

 す、と視線を下げたリアは、両の手のひらをきゅっと握り締めて、口を開く。

「役立たずですが、皿洗いでも、お掃除でもなんでもします」
「――俺が、貴方にそんなことさせるわけないでしょう」
「けれどっ」
「なら、俺の妻になってください」

 努めて、穏やかな笑みを心がける。氷の美貌だとか、鉄仮面だとか言われるが、彼女の前でそんな表情するわけがない。
 驚きを露わにする顔さえ愛らしく、薄くおしろいのはたかれた頬に手のひらを添える。

「お礼をしたいと言うのなら、俺と結婚してください。貴方は、俺の運命で、俺の希望で、俺のお姫様だ」
「そっ、そんな、」

 顔を真っ赤にするリアが愛おしい。

「わ、わたしは、何にも持っていません。財産も、名声も、」
「そんなのどうでもいい。俺は、ずっと貴方に恋をしていた。けれど、貴方には婚約者がいたから諦められた。――でも、今の貴方は婚約を破棄され、後ろ盾もなんにもないただの少女だ。男は皆狼なんです。俺は、このチャンスを逃したくはない。貴方を、自由にしてやることができない」

 きゅ、と握りしめた手を引いて、腕の中に彼女を抱き寄せる。布越しの体温に、確かに彼女の存在をそこに感じた。
 昂る気持ちを抑えて、冷静さを装って、愛の言葉を囁くのだ。

「――俺に、貴方を幸せにする権利をください」
「……ッわたしで、よいのでしたら」

 首肯した彼女に、ぶわりと熱が全身に広がる。
 無意識に持ち上がる口角を我慢できなかった。

「俺が絶対に貴方を守ります。一緒に、幸せになりましょう」

 言い聞かせるように、何度も何度も、セオドリックは睦言を囁いた。

 
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