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07.エリザベスside
しおりを挟むエリザベスはこの世界に愛された少女だった。
失われし癒しの力を持ち、恵まれた容姿に優しい両親。生きていく上で全てがエリザベスに優しかった。
欲しいモノは物でも、人でも全て手に入った。
聖女という地位。美味しいご飯。温かな寝床。可愛いお洋服。――足りないのは、カッコいい素敵な彼氏だけ。
あの美しくて完璧なリア・ミッドフォードが羨ましかった。何でもできて、皆に慕われて、素敵な婚約者がいる彼女が羨ましくてしかたなかった。
何でも手に入ったけれど、手に入れば入るだけ心は餓え、渇きが増していった。
だから――奪ってやることにしたのだ。
世界に愛されたエリザベスは、癒しの力のほかに魅了の力も持っていた。
ちょっと甘えた声で、瞳をうるうるとさせればみんなコロッと目をハートにして何でもくれた。大きなお屋敷に、爵位、――ちょっとした伝手で聖女の地位までゲットできてしまったのにはエリザベス自身驚きだったけれど、ラッキーだと思うことにした。
今までどおり、これまでやってきたみたいに、可哀想な可愛い女の子を演じて、リアにいじめられているのだとハロルドに泣きつけば、訝しげな表情だったのもすぐにコロッと変わり、エリザベスを慰めてくれた。
可哀想に。怪我はないかい。まさか彼女がそんなことをする人だなんて思ってもいなかった。僕は彼女の外側しか見えていなかったんだ。よく勇気を出して言ってくれたね。僕は君の味方だよ。
エリザベスに誤算があったとすれば、魅了の力が大多数に効果を発揮しないことだろう。何もしなくても愛されるのだから、自然の感情を歪めてまで愛されるためには対象者のすぐ側にいる必要がある。
ハロルドの腕に抱きしめられながら、視界の端を黄金が散っていくのが見えた。
髪は女の命。
まさか、彼女がそこまでするとは思いもせず、ハロルドから意識がそれてしまったのがいけなかった。
婚約者を失い、学園を追われ、髪まで捨てたのに、カッコいいとすら思ってしまった。
整った美しい顔に、凄絶な笑みを浮かべた彼女は、きっとこの場の誰よりも格好良かった。
羨んだ黄金の髪がはらりはらりと散り、ハッとしてハロルドを見る。
「――リア、」
呆然と、何が起こったのかわからないと言いたげな表情で彼女の後姿を見つめ、伸ばされた手を掴んで胸に引き寄せる。
「ハロルドさまっ、私、そんな、リア様を追い出すつもりなんか……!」
涙を浮かべて、きゅ、と手を握り締める。
「エリ、ザベス……? 君は、……いや、追い出して正解だ。君に害を成す者なんて、いなくなって当然なんだから」
ぼんやりとエリザベスを映し出した瞳に、魅了が上手くかかったと実感する。
魅了は強くかかりすぎると、意識障害や記憶障害を引き起こし、依存性が高くなってしまうが、ハロルドを手に入れられるのならかまわなかった。
あのリアを学園から追い出して、婚約者まで手に入れられた! 嬉しい気持ちのはずなのになぜか心が苦しかった。
これは本当の感情ではない。魅了と、全てに愛される力あっての感情だ。
ただのエリザベスだったら、ハロルドは見向きもしなかっただろう。その後ろ暗い事実に、キリキリと胸の奥が苛まれた。
エリザベスは、本当の愛を知らない。
全てに愛されるエリザベスは、愛されることが当たり前なのだから。恋なんてしたことがなかった。
魔法が解けたとき、ハロルドはどうするのだろう。
考えたくもない最悪に、逃げ出さないようにハロルドをぎゅっと抱きしめて目を瞑った。
アーロン伯爵家の彼氏なら、お母様は喜んでくれるかな。
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