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09.婚約者になりました
しおりを挟む外出用のドレスワンピースに着替えたリアは、そわそわしながらセオドリックを待っていた。
ミモレ丈の濃紺のワンピースは裾に白いレースが編みこまれ、胸もとにはシルクのリボンが飾られて、クラシックで清楚な印象だ。揃いで作られたつばの広い帽子は黄金の髪をよく引き立たせた。
一週間も経てば今の生活にも慣れ始めて、気持ちも落ち着き頭の中も整理がつき始め、今まで気にしていなかったことが気になりつつあった。
たとえば、ドレスのサイズとか。
そもそも、メイド以外に女性のいないこのお屋敷に流行をおさえたドレスが複数用意されていること事態がおかしかった。どれもリア好みで、リアのサイズぴったりのドレス。採寸なんてされていないはずなのに、と考えれば考えるだけ背中が薄ら寒くなる。
「待たせてしまったかな」
「い、いえ! わたしもつい先ほど準備が終わったところです」
涼やかな目元に笑みを浮かべて眉を下げたセオドリックに顔が熱くなる。控えているメイドたちはそれを微笑ましく見守った。
氷の剣のように冷たく鋭かった坊ちゃんの雰囲気が、リアお嬢様を前にするだけでゆるりと解けて柔らかくなるのだ。お嬢様がいるだけでお屋敷の空気が暖かくなった。
「仕立て屋のところへ行った後は、街を見て回ろう。たまには外でティータイムもいいだろう?」
「楽しみです。領地内の町は見たことがあるけれど、ちゃんと歩いて見てみたことがなかったので」
「さぁ、時間は有限だ。お手をどうぞ、お姫様」
「何度も言いますが、わたしはお姫様なんてガラじゃありません……」
「そんなことない。俺にとって君は女神よりも尊く愛おしい存在なんだ」
そらでキザなことを言うセオドリックに、今度こそ顔が真っ赤になった。
「ごほんっ、お二人とも、そろそろ出発なさってはいかがで?」
「ああ、そうだな。リア、」
「……えぇ、それでは、行って参ります」
「いってらっしゃいませ」と使用人たちに見送られ、アッシュフィールド家の家紋が装飾された馬車へと乗り込み、街へと出発した。
郊外にあるお屋敷から、街へは一時間ほどで着いた。
シャルロット王国の中心都市・シーシャの街並みは美しく、緑と水に溢れていた。
赤レンガ調の建物が並び、露店が賑わい、人々は笑みを浮かべている。
「とても、美しい街ですね」
「自慢の街だ。……十年前は、今日生きることすら困難な街だったと言えば、君は信じるか?」
「え、」
ぱち、と目を瞬かせる。
こんなに豊かな街が、とても想像がつかなかった。
「災害の多い国だった。大雨で植物の根は腐り、川は氾濫して、毎日泥水をすすって生きていかなければいけなかった」
過去に想いを馳せる瞳は遠くを見据え、脳裏に描くのはひび割れた大地に餓えた人々だ。
十数年前、聖女がいなくなった。聖女とは国を護り、救いの手を差し伸べる女神の使いだ。何者かによって浚われた聖女がいなくなったシャルロット王国は、竜巻に台風、地震によって飢餓の時代を迎えることになる。
蓄えのある貴族たちは門扉を閉ざし、一般庶民の国民は餓えと流行り病で次々と亡くなっていった。
「けれど、今はそうではないのでしょう?」
「新たな聖女が現れたおかげだ。浄化の力で厄を祓い、流行り病の原因であった飲み水を清めてくださったのだ。この国は五大国のうちの一国でもある。先代の聖女はいまだ行方不明……結局、事件の解決には至ってはいない」
まさか、緑が生い茂り、透明度の高い美しい水の街が――この国が過去にそのような状況であったなど思いもしなかった。
「俺は兄である第一王子の代わりに外交を担っているが、いずれは王位継承権を返還して、聖女付きの騎士になる。危険が伴う仕事だが、二度と、この国をあんな餓えと災害に晒したくないんだ」
蒼い瞳が、まっすぐにリアを見つめる。芯の通った、熱情のこもった瞳に胸が高鳴った。
「だからこそ、俺はリアに屋敷を守ってもらいたいんだ。おかえり、と君に出迎えてもらいたい」
そっと、手を取られる。
豆がつぶれた硬い手を、セオドリックは愛おしげに握り締め、口付けをした。
「せ、セオドリック様……!」
「どうか、セオと呼んでくれ」
「そんな、王子様を敬称も無しにお呼びするなんて」
「お願いだ。俺は君に名前を呼ばれるだけで心が満ち溢れる。どんな外敵だって倒せるだろう。失われし魔法すら使えてしまうかもしれない」
「セオドリック様、」
「氷を溶かす陽だまりの華、俺の麗しいお姫様、どうか、名前で呼んでおくれ」
ドクドクと心臓が大きく音を立てる。聞こえてしまうのではないかと息が詰まった。
ハロルドには確かにささやかな恋心を抱いていた。婚約破棄をされて、傷心だったのは確かだが、いくらセオドリックがハロルドより数倍もイイ男だろうと、そうすぐに目移りするほど尻軽ではない。
けれど、無理強いをしない紳士な対応、強い芯のある意志、まっすぐに向けられる感情に、心は揺さぶられていた。
「わ、わたしをどうするかなど、セオドリック様が、」
「セオ」
「……セオ様がお決めになればよろしいことですわ」
「俺は、リア自身に俺を選んでもらいたいんだ。必ず、幸せにすると誓う」
窓の外からはにぎやかな子供たちの声が聞こえる。
逸らそうとした目は、頬に手を添えられることによって阻止された。
「ぁ、え、っと、わたしは――……すぐに結婚はいけないと思いますの! まずは婚約者からでお願いいたします!」
とろり、と。蒼い瞳がチョコレートのように甘くとろけてリアを映し出す。
「婚約者……うん、いい響きだ。結婚式はリアが成人をしてからでも遅くはないな」
「ハイ、ソウデスネ」
心底嬉しいという感情を全面に押し出した微笑みを真正面から見てしまったリアは頭から湯気を出して思考停止してしまった。
お屋敷の居候から婚約者にランクアップしたリアは、セオの愛情表現もランクアップするとは思いもしなかった。
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感想ありがとうございます!
お兄様が良いアクセントになってくれると私は信じています笑
もっともっとヤンデレさせられるように頑張ります^^
しまった!王子がヤンデレだったのか!
と言うことは…リアの周りはまともな人がいない?
感想ありがとうございます!
美形のヤンデレにはまともな奴がいないと思っています^^
兄が気持ち悪いですが、王子は大丈夫でしょうか?兄がヤンデレなのに対して王子は正常な判断ができる人でしょうか?次回が楽しみです!( ☆∀☆)