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二年生
幼馴染は馬鹿である
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秋桐佐之助にはふたりの幼馴染がいる。無駄に色気を振りまきまくっている南雲藤貴と、常にぼんやりとした変人の菖世双葉。ふたりとも馬鹿だ馬鹿だと常々思っていたが、まさかここまでとは思わなかった。特に、藤に関しては呆れて言葉も出ない。
小学校の入学に合わせて引っ越してきて、何かと絡んできた二人と幼馴染と呼ばれるそれになるまで親しくなるなんて思いもしなかったが、この二人、どうしようもない馬鹿だった。いや、頭の話じゃあない。むしろ成績は優秀だ。双葉は「運動は苦手だなあ」とか言いながら突然木登りを始めるし、藤に至っては逆に何ができないんだと問いたいくらいにはオールマイティに全てをこなす。ムカつくくらいにな。女に笑顔を振りまいて、誘蛾灯みたいに女をとっかえひっかえして、馬鹿みたいだ。いや、馬鹿だったな。
「――……ん、ふじく、ん……」
小さく、吐息を零す双葉に溜め息を吐く。横に並んで、眠れるわけがなかった。せめてこの気難しい幼馴染がよく眠れるようにと頭を撫でてやる。この役割はアイツのはずなのに、あの馬鹿はどこをほっつき歩いているんだか。
優しい優しいと、この幼馴染は自分に懐いてくるがそれが双葉だからだとは到底気づいていないのだろう。双葉と、藤との、『幼馴染』という関係は酷く惨酷だ。いつか我慢が効かなくなりそうだと、深く深く息を吐き出した。
双葉が藤に恋をしていると気付くのに、そう時間はかからなかった。だってずっと見ていたから。気付かないわけがなかった。双葉の視線はいつだって、藤を向いていた。伺うように、忍ばせた想いは悲しいくらいに藤へ一方通行であった。どうして、アイツなんだ、ちょっと自分より早く出会っただけだというのに。どうして、俺ではないんだ。何度激情に駆られそうになったことか。それでも、双葉が幸せであるのならばと、心に秘めたというのに、あのあんぽんたんはあっちへふらふらこっちへふらふらと、ボウフラにでもなったつもりなのか。
どうせ、もう少ししたら学校をさぼって、出来立てほやほやの彼女も放って、うちに駆け込んでくるに違いない。澄ました笑みを歪めて、俺を睨みつけるに違いない。なんて損な役回りだ、と溜め息がまた零れる。一年の時はクラスは三人ともバラバラだったが、二年のクラス替えで同じクラスになった。登校すればすぐにばれるのだ。今だけ、腕の中のかわいそうな幼馴染を独占したって罰は当たらない。
そもそも、甘い笑顔を浮かべているのは双葉が好きだと言ったからで、勉強ができるのは休みがちな双葉に教えてあげるためで、体を鍛えてるのはいつでも双葉を助けられるように、料理を学んだのは食に関心のない双葉に美味しいモノを食べてもらいたいと思ったからじゃないのか。アイツを作り上げたものは双葉への想いのはずなのに、肝心の双葉のために何もしてないじゃないか。手放したのかと思えば、時折執着心を見せるのだからはっきりしろと殴りたくなる。気は長い方だが、はっきりしないのは好きじゃない。
――pi pi pi pi
ほらきた。枕元に投げていたスマホの画面を見れば藤からの着信。面倒くさいので電源を切ってやれば、充電器にささった双葉のスマホが震えた。サイレントモードにしてるから音は鳴らないし放置でいいだろう。どうせうちに来るんだからな。
「……双葉、」
そこらへんの女より、可愛いと思う。
墨を垂らしたような真っ黒いストレートの長い髪。ぼんやりと空を眺める黒い瞳。まろい頬に、赤い唇は小さい頃双葉が大好きだった白雪姫のようで、音を紡ぐたびにちろりと見える赤い舌は煽情的で、見た目だけなら今にでも消えてしまいそうな儚さがある。
見た目通りの儚い女であったならここまで惹かれなかった。馬鹿で、アホで、可愛くて可哀想な双葉であるから、心惹かれたんだ。手放したんだったら――貰ってもいいよな。
小学校の入学に合わせて引っ越してきて、何かと絡んできた二人と幼馴染と呼ばれるそれになるまで親しくなるなんて思いもしなかったが、この二人、どうしようもない馬鹿だった。いや、頭の話じゃあない。むしろ成績は優秀だ。双葉は「運動は苦手だなあ」とか言いながら突然木登りを始めるし、藤に至っては逆に何ができないんだと問いたいくらいにはオールマイティに全てをこなす。ムカつくくらいにな。女に笑顔を振りまいて、誘蛾灯みたいに女をとっかえひっかえして、馬鹿みたいだ。いや、馬鹿だったな。
「――……ん、ふじく、ん……」
小さく、吐息を零す双葉に溜め息を吐く。横に並んで、眠れるわけがなかった。せめてこの気難しい幼馴染がよく眠れるようにと頭を撫でてやる。この役割はアイツのはずなのに、あの馬鹿はどこをほっつき歩いているんだか。
優しい優しいと、この幼馴染は自分に懐いてくるがそれが双葉だからだとは到底気づいていないのだろう。双葉と、藤との、『幼馴染』という関係は酷く惨酷だ。いつか我慢が効かなくなりそうだと、深く深く息を吐き出した。
双葉が藤に恋をしていると気付くのに、そう時間はかからなかった。だってずっと見ていたから。気付かないわけがなかった。双葉の視線はいつだって、藤を向いていた。伺うように、忍ばせた想いは悲しいくらいに藤へ一方通行であった。どうして、アイツなんだ、ちょっと自分より早く出会っただけだというのに。どうして、俺ではないんだ。何度激情に駆られそうになったことか。それでも、双葉が幸せであるのならばと、心に秘めたというのに、あのあんぽんたんはあっちへふらふらこっちへふらふらと、ボウフラにでもなったつもりなのか。
どうせ、もう少ししたら学校をさぼって、出来立てほやほやの彼女も放って、うちに駆け込んでくるに違いない。澄ました笑みを歪めて、俺を睨みつけるに違いない。なんて損な役回りだ、と溜め息がまた零れる。一年の時はクラスは三人ともバラバラだったが、二年のクラス替えで同じクラスになった。登校すればすぐにばれるのだ。今だけ、腕の中のかわいそうな幼馴染を独占したって罰は当たらない。
そもそも、甘い笑顔を浮かべているのは双葉が好きだと言ったからで、勉強ができるのは休みがちな双葉に教えてあげるためで、体を鍛えてるのはいつでも双葉を助けられるように、料理を学んだのは食に関心のない双葉に美味しいモノを食べてもらいたいと思ったからじゃないのか。アイツを作り上げたものは双葉への想いのはずなのに、肝心の双葉のために何もしてないじゃないか。手放したのかと思えば、時折執着心を見せるのだからはっきりしろと殴りたくなる。気は長い方だが、はっきりしないのは好きじゃない。
――pi pi pi pi
ほらきた。枕元に投げていたスマホの画面を見れば藤からの着信。面倒くさいので電源を切ってやれば、充電器にささった双葉のスマホが震えた。サイレントモードにしてるから音は鳴らないし放置でいいだろう。どうせうちに来るんだからな。
「……双葉、」
そこらへんの女より、可愛いと思う。
墨を垂らしたような真っ黒いストレートの長い髪。ぼんやりと空を眺める黒い瞳。まろい頬に、赤い唇は小さい頃双葉が大好きだった白雪姫のようで、音を紡ぐたびにちろりと見える赤い舌は煽情的で、見た目だけなら今にでも消えてしまいそうな儚さがある。
見た目通りの儚い女であったならここまで惹かれなかった。馬鹿で、アホで、可愛くて可哀想な双葉であるから、心惹かれたんだ。手放したんだったら――貰ってもいいよな。
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