僕の存在理由

リー

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その後の話

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彼の葬式は、ひっそりと執り行われた。


彼の遺体は、小高い丘の上に埋められた。



彼が憧れていた空を見上げられる場所に。
















アリュール・リペストの死後、その人生は悲劇として人々に語り尽くされた。




彼が死んだ後、彼の血の繋がりのない兄弟が王家に彼の死について。何故彼が死を選んでしまったのか。その情報を持って王家に訴えた。



なんでも、彼がその人生を自ら終えてしまったのは、不遇な彼の環境のせいなのだと。


そして、自分も彼の最悪な環境を見て見ぬふりした1人であると。



王家は、この訴えを真剣に受け止めた。





まず手始めに彼の父親であった侯爵家に調査を入れた。



すると、侯爵家は彼の事だけではなく様々な犯罪に手を染めていることが発覚した。

後日、侯爵は罪人としてとらえられた。





元婚約者であった王子にも罰がくだった。

なぜなら、彼が最悪の環境にいたことに加え、更に王子の行いが彼を追い詰め、死へと至ったのではと、考えられたからだ。



王子は罰として恋人である平民と同じ位に落とされた。


2人での生活は、最初から上手くいかなかったようで、王子と平民すぐ別れたらしい。





そして、彼の血の繋がりのない兄弟は、彼が亡くなったあと、家を捨て、自立した生活を送るべく王家の騎士の採用試験を受け、見事に合格したそうだ。

兄弟の彼は、若くして騎士団長の座まで上り詰めたが、50歳の頃に病気を発症し、そのまま亡くなった。

兄弟の彼は、色んな人に言い寄られていたが。忘れられない人がいると生涯独身を貫いた。


そして、遺体は、本人たっての希望で彼の隣へと埋められた。

























――――――――――――――










今日も爽やかな風を感じながら丘の上から空を見上げていた。


身軽になったこの体でこの世界中を旅しては、またこの場所に戻って来るのを繰り返して長い時が過ぎた。


今日は、さてどこに行こうかと悩んでいた時だった。






「アリュール...?」



懐かしい声がした。



振り返ると、そこには随分と歳を重ねたであろう彼がいた。


「ジュゼラーテ?」


前は呼べなかった彼の名前を呼ぶと、彼は大きく目を見開いた。


そして、ボロボロと涙を零し始めた。


思わず近づいて涙を拭った。


「大丈夫?どこか痛いの?」

思わずそう問いかける。

「いや、いや...。大丈夫だ。少し君の姿を見たら安心して零れてしまったんだ。」


そういってジュゼラーテは微笑んだ。


その微笑みを間近で受け僕は少し顔を赤くなった。ジュゼラーテは歳を重ねると同時にその美形さにも磨きをかけたようだ。そんなことを考えていると。

「なあ。アリュール。」

「なに?」

「突然だけど、抱きしめてもいいかな?」

「はっ?えっ!?」

突然、過ぎてあまりについていけなかったが、別に嫌ではないなと感じた。なので何も声は出さずに、こくりと頷いた。

「ありがとう」


そういってジュゼラーテは、僕を優しく包み込んだ。僕も初めてと言ってもいいぐらいの温かさに思わず抱き締め返していた。
















――――


2つの墓石が並ぶ丘の上。


その丘に今日も優しく風が吹く。




まるで誰かを包み込むようなそよ風が。
まるで誰かに愛おしいと囁くような好風こうふうが。


今日も優しく風が吹く。
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