黒の解呪録 ~呪いの果ての少女~

蒼井 くじら

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不穏な空気

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 駅前を少し離れると、窓の外には長閑な田園風景が広がる。
 どこか懐かしさを覚える風景の中、車はさらに緑深まる山の方へ進んでいった。

「そういえば、宿泊先はどちらに?」
 
 車を走らせてしばらくすると、猛が思い出したように尋ねてきた。

「あっ、一応『桜荘』という民宿にお願いしてあります」
 
 助手席に座っていた光が答える。

「『桜荘』ですか。分かりました。あそこならウチから歩いても行ける距離なので、先にそちらで荷物を下ろすことにしましょう」
「はい。ありがとうございます」
 
 そんな光と猛の話を余所に、宗介は黙ったままずっと窓の外を眺めていた。

「すいません。何も無い田舎で。お二人のような若い方には退屈な場所ですよね」
 
 そんな宗介に気を遣ったのか、猛は申し訳なさそうに話を振ってきた。

「いえ、そんなことありませんよ。それに、猛さんも私たちとそんなに年は離れていませんよね?」
 
 宗介よりも先に光が答える。お喋りが得意ではない宗介にとっては好都合。場繋ぎの会話は光に任せておけば良いだろう、と宗介は思う。

「僕はこれでもう三十近いので。お二人とはかなり年の差があると思います」
「えっ、そうだったんですか!? 全然見えませんよ! てっきり、大学生くらいかと思っていました」
「あはは、よく言われるんです。結婚もまだで、子供がいないせいかもしれませんね」
 
 前の席でそんな会話がなされる中、車はいよいよ山道へとさしかかる。擦れ違う対向車はほとんど見られない。陽はまだ照っているのに、辺りの色彩がワントーン落ちたように感じられた。
 それからしばらくして、前方にトンネルが現れる。その時、宗介はトンネルの入り口付近に何かを発見した。
 それは何体もの地蔵。不思議なことに、地蔵の首は全てトンネルの中を向いているように見えた。まるでトンネルの中から出てくる何かを監視しているように。

「ここからが細入村になります」
 
トンネルを抜けた直後、猛がそう告げた。
 目の前に広がった景色は、点在する大きな民家と道路以外は、ほとんどが自然の緑だ。

「うわあ、なんだかトトロがいそうな風情ある場所ですね~」
 
 本人は誉めているつもりなのだろうが、微妙な感想を述べる光。
 だが、宗介が抱いた感想は、光とは全く異なっていた。少なくとも、イメージとして持っていた『大自然の癒し』みたいなものは、目の前の光景からあまり感じられない。それよりも、なんというか『閉鎖的な不気味さ』のようなものがひしひしと伝わってきた。
 想像していた印象と違っていたせいか。
 はたまた、トンネル前でみた奇妙な地蔵のせいか。
 言い得ぬ気持ち悪さが宗介の胸によぎる。
 しかし、そんな宗介の思いとは関係なく、車はどんどん細入村の中へと進んでいく。
 まるで開いた鬼の口に入っていくように。



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