黒の解呪録 ~呪いの果ての少女~

蒼井 くじら

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桜荘

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「遠いところをようこそお越し下さいました」
 
 宗介たちを出迎えてくれた『桜荘』の女将――佐倉明美(さくらあけみ)さんは、笑顔のよく似合う感じのよい女性だった。
 
 建物自体はさほど大きくも綺麗でもなく、典型的な『田舎の民宿』といった感じ。元々、観光客がわんさと来るような場所ではないだろうし、これくらいがコスパ的にちょうど良いのかもしれない。

「それではお部屋にご案内しますね」
 
 猛に下ろしてもらった荷物を持って、宗介と光は宿の奥へと進む。明美さんに案内された部屋は、二階の一番奥にある部屋だった。中は何の変哲もない和室。何となく中学の修学旅行で泊まった部屋を思い出した。
 だが、そこで宗介はある重大なことに気付く。

「部屋ってこの一部屋だけ?」
「ご予約は一部屋で承りましたけど」
「えっ? ダメだった?」
「い、いや、別にダメってわけじゃないけど……」
 
 きょとんとした顔で尋ねてくる光に対し、宗介は返事に困る。別に何かしようという気は更々ないが、旅先で年頃の男女が同室というのは倫理的にあまりよろしくない気がした。
 
 だが、そんな気を回しているのは宗介だけのようで、当の光は何が問題なのか全く理解していない様子。箱入り娘ゆえにその辺りに疎いのか。はたまた、宗介のことなど「生意気な弟」くらいにしか思っていないのか。どちらにしろ、本人がそれでいいと言うのなら、宗介が口を挟むことではない。間違いなど間違っても起こらないのだから。

「はあ……まあ、いいや」
「ねえ、なんでちょっと怒ってるの?」
「別に怒ってねえよ。お前の能天気さに呆れてるだけだ」
 
 そんなやりとりをしながら宗介たちは部屋に荷物を置き、再び猛の元へ戻る。

「夕食はいかが致しましょうか?」
「あっ、佐倉さん。お二人には、今晩ウチで召し上がっていただきますから、用意しなくて大丈夫ですよ。では、お二人とも行きましょう」
 
 明美さんに答える猛は、やはりどこか急いているようだった。
 しかし、そこで宗介はふと尿意を覚える。先ほど駅前で飲んだジュースのせいだろう。

「その前に、ちょっとトイレに行きたいんだけど」
「あっ、それでしたら、そこを突き当って左に曲がるとすぐですよ」
 
 明美さんに場所を教えてもらい、宗介はトイレへ向かう。
 用を足し、トイレから出たところで、宗介は気になるモノを視界に捉えた。
 ちょうど廊下の突き当たりにある部屋――間取り的にその部屋も客室に思えたが、その扉に一枚のお札が貼られていたのだ。

(お札? あの部屋で何かあったのか……?)
 
 少し気になったが、今は猛と光を待たせている。
 宗介はその部屋から視線を切って、玄関へ向かった。


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