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佐々村キヨ
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「着きました。ここが佐々村の家です」
桜荘を出て五分程度。
車が止まったのは、一際大きな家の前だった。否、これはもうお屋敷と表現した方が、ぴったりくるかもしれない。池のある広い庭に、大きな倉、離れも見てとれる。
「僕は車をとめてきますので、お二人は先に降りてください」
猛に言われ、宗介と光は車から降りる。
陽の光は優しいオレンジ色を含み、二人の影を長く伸ばしていた。
宗介たちは屋敷の門へと近づく。ふと上を見ると、屋根に数羽のカラスがとまっており、「カア、カア」としきりに鳴き声を発していた。
(なんか嫌な感じ――うっ!?)
それは門を跨いだ瞬間に、いきなり襲ってきた。鳥肌が立つほどの強烈な悪寒。宗介は背筋が凍りつく感覚を味わう。
「そ、宗介君、これって……」
光も同じものを感じたらしく怯えた声を出す。無理はない。家の中から漂ってくる邪気は、多少霊感がある者ならば絶対に気付く……いや、即刻踵を返すレベルのものだ。宗介たちの前にここを訪れた除霊師が、何もできなかったというのも、これなら頷ける。
「なんじゃ? おまえらは?」
宗介たちが門の前で固まっていると、不意に背後から声を掛けられた。
振り返ると、腰の曲がった老婆が一人。不審者を見るように目を細めて、宗介たちを睨んでいた。
「あ、すいません。私たちは、この家に呼ばれた者で――」
「ま~た、余所者が来おったか! しかも、小便臭い小僧どもが!」
「え……?」
光が説明しようとすると、老婆はカッと目を見開き、唾を飛ばして捲し立てた。
突然のことに、光はただただ面食らうばかり。
だが、気の短い宗介は、老婆の無礼な態度にカチンときた。
「おいおい、いきなりその言い方はないだろうが! こっちは頼まれて来てやってるんだぜ。この、砂かけババア!」
「ちょ、ちょっと宗介君! 何てことを言うの!」
光は慌てて宗介を窘める。
けれど、先に失礼な態度を取ったのは老婆の方だ。文句を言われる筋合いはない。
「生意気な小僧じゃ。いね! オワラ様の天罰が下る前にのう」
「ああ? オワラ様?」
「キヨばあちゃん、何やってるの!?」
ちょうどその時、車を止めた猛がこちらへ走ってきた。
「すいません、僕の祖母が。さあ、ばあちゃん、もう夕方だから家の中に入って」
「こら、猛! ま~た、どこの馬の骨とも分からん者を連れてきおって!」
「ち、違うよ。彼らは美守(みもり)ちゃんのために……」
「何を言うか! 余所者の力なんぞ借りんでも、ワシラにはオワラ様がついておるじゃろ。美守のこともオワラ様に祈りを捧げておればいいんじゃ。……まあ、いいわい。どうせ、お前らもこの間の坊主と同じく、すぐ逃げ帰るのがオチじゃろうてな……」
老婆は宗介たちを見てニタリと笑うと、「ひょひょひょ」と不気味な笑い声を残して、家の中へと入っていった。
「お二人とも申し訳ありません。あれが僕の祖母で佐々村キヨと言います。祖母ももういい歳なので、言っていることはあまり真に受けないでください」
猛は苦笑いを浮かべながら謝るが、宗介には一つ気になることがあった。
「なあ、あの婆さんが言ってた『オワラ様』っていうのは?」
「ああ、細入村に伝わる伝説というか信仰みたいなものです。単なる言い伝えなんですけど、祖母のような古い人の中には、今でも熱心に信じている者がいるんですよ」
「ふ~ん……」
桜荘を出て五分程度。
車が止まったのは、一際大きな家の前だった。否、これはもうお屋敷と表現した方が、ぴったりくるかもしれない。池のある広い庭に、大きな倉、離れも見てとれる。
「僕は車をとめてきますので、お二人は先に降りてください」
猛に言われ、宗介と光は車から降りる。
陽の光は優しいオレンジ色を含み、二人の影を長く伸ばしていた。
宗介たちは屋敷の門へと近づく。ふと上を見ると、屋根に数羽のカラスがとまっており、「カア、カア」としきりに鳴き声を発していた。
(なんか嫌な感じ――うっ!?)
それは門を跨いだ瞬間に、いきなり襲ってきた。鳥肌が立つほどの強烈な悪寒。宗介は背筋が凍りつく感覚を味わう。
「そ、宗介君、これって……」
光も同じものを感じたらしく怯えた声を出す。無理はない。家の中から漂ってくる邪気は、多少霊感がある者ならば絶対に気付く……いや、即刻踵を返すレベルのものだ。宗介たちの前にここを訪れた除霊師が、何もできなかったというのも、これなら頷ける。
「なんじゃ? おまえらは?」
宗介たちが門の前で固まっていると、不意に背後から声を掛けられた。
振り返ると、腰の曲がった老婆が一人。不審者を見るように目を細めて、宗介たちを睨んでいた。
「あ、すいません。私たちは、この家に呼ばれた者で――」
「ま~た、余所者が来おったか! しかも、小便臭い小僧どもが!」
「え……?」
光が説明しようとすると、老婆はカッと目を見開き、唾を飛ばして捲し立てた。
突然のことに、光はただただ面食らうばかり。
だが、気の短い宗介は、老婆の無礼な態度にカチンときた。
「おいおい、いきなりその言い方はないだろうが! こっちは頼まれて来てやってるんだぜ。この、砂かけババア!」
「ちょ、ちょっと宗介君! 何てことを言うの!」
光は慌てて宗介を窘める。
けれど、先に失礼な態度を取ったのは老婆の方だ。文句を言われる筋合いはない。
「生意気な小僧じゃ。いね! オワラ様の天罰が下る前にのう」
「ああ? オワラ様?」
「キヨばあちゃん、何やってるの!?」
ちょうどその時、車を止めた猛がこちらへ走ってきた。
「すいません、僕の祖母が。さあ、ばあちゃん、もう夕方だから家の中に入って」
「こら、猛! ま~た、どこの馬の骨とも分からん者を連れてきおって!」
「ち、違うよ。彼らは美守(みもり)ちゃんのために……」
「何を言うか! 余所者の力なんぞ借りんでも、ワシラにはオワラ様がついておるじゃろ。美守のこともオワラ様に祈りを捧げておればいいんじゃ。……まあ、いいわい。どうせ、お前らもこの間の坊主と同じく、すぐ逃げ帰るのがオチじゃろうてな……」
老婆は宗介たちを見てニタリと笑うと、「ひょひょひょ」と不気味な笑い声を残して、家の中へと入っていった。
「お二人とも申し訳ありません。あれが僕の祖母で佐々村キヨと言います。祖母ももういい歳なので、言っていることはあまり真に受けないでください」
猛は苦笑いを浮かべながら謝るが、宗介には一つ気になることがあった。
「なあ、あの婆さんが言ってた『オワラ様』っていうのは?」
「ああ、細入村に伝わる伝説というか信仰みたいなものです。単なる言い伝えなんですけど、祖母のような古い人の中には、今でも熱心に信じている者がいるんですよ」
「ふ~ん……」
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