黒の解呪録 ~呪いの果ての少女~

蒼井 くじら

文字の大きさ
9 / 56

佐々村キヨ

しおりを挟む
「着きました。ここが佐々村の家です」
 
 桜荘を出て五分程度。
 車が止まったのは、一際大きな家の前だった。否、これはもうお屋敷と表現した方が、ぴったりくるかもしれない。池のある広い庭に、大きな倉、離れも見てとれる。

「僕は車をとめてきますので、お二人は先に降りてください」
 
 猛に言われ、宗介と光は車から降りる。
 陽の光は優しいオレンジ色を含み、二人の影を長く伸ばしていた。
 宗介たちは屋敷の門へと近づく。ふと上を見ると、屋根に数羽のカラスがとまっており、「カア、カア」としきりに鳴き声を発していた。

(なんか嫌な感じ――うっ!?)
 
 それは門を跨いだ瞬間に、いきなり襲ってきた。鳥肌が立つほどの強烈な悪寒。宗介は背筋が凍りつく感覚を味わう。

「そ、宗介君、これって……」
 
 光も同じものを感じたらしく怯えた声を出す。無理はない。家の中から漂ってくる邪気は、多少霊感がある者ならば絶対に気付く……いや、即刻踵を返すレベルのものだ。宗介たちの前にここを訪れた除霊師が、何もできなかったというのも、これなら頷ける。

「なんじゃ? おまえらは?」
 
 宗介たちが門の前で固まっていると、不意に背後から声を掛けられた。
 振り返ると、腰の曲がった老婆が一人。不審者を見るように目を細めて、宗介たちを睨んでいた。

「あ、すいません。私たちは、この家に呼ばれた者で――」
「ま~た、余所者が来おったか! しかも、小便臭い小僧どもが!」
「え……?」
 
 光が説明しようとすると、老婆はカッと目を見開き、唾を飛ばして捲し立てた。
 突然のことに、光はただただ面食らうばかり。
 だが、気の短い宗介は、老婆の無礼な態度にカチンときた。

「おいおい、いきなりその言い方はないだろうが! こっちは頼まれて来てやってるんだぜ。この、砂かけババア!」
「ちょ、ちょっと宗介君! 何てことを言うの!」
 
 光は慌てて宗介を窘める。
 けれど、先に失礼な態度を取ったのは老婆の方だ。文句を言われる筋合いはない。

「生意気な小僧じゃ。いね! オワラ様の天罰が下る前にのう」
「ああ? オワラ様?」
「キヨばあちゃん、何やってるの!?」
 
 ちょうどその時、車を止めた猛がこちらへ走ってきた。

「すいません、僕の祖母が。さあ、ばあちゃん、もう夕方だから家の中に入って」
「こら、猛! ま~た、どこの馬の骨とも分からん者を連れてきおって!」
「ち、違うよ。彼らは美守(みもり)ちゃんのために……」
「何を言うか! 余所者の力なんぞ借りんでも、ワシラにはオワラ様がついておるじゃろ。美守のこともオワラ様に祈りを捧げておればいいんじゃ。……まあ、いいわい。どうせ、お前らもこの間の坊主と同じく、すぐ逃げ帰るのがオチじゃろうてな……」
 
 老婆は宗介たちを見てニタリと笑うと、「ひょひょひょ」と不気味な笑い声を残して、家の中へと入っていった。

「お二人とも申し訳ありません。あれが僕の祖母で佐々村キヨと言います。祖母ももういい歳なので、言っていることはあまり真に受けないでください」
 
 猛は苦笑いを浮かべながら謝るが、宗介には一つ気になることがあった。

「なあ、あの婆さんが言ってた『オワラ様』っていうのは?」
「ああ、細入村に伝わる伝説というか信仰みたいなものです。単なる言い伝えなんですけど、祖母のような古い人の中には、今でも熱心に信じている者がいるんですよ」
「ふ~ん……」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

七竈 ~ふたたび、春~

菱沼あゆ
ホラー
 変遷していく呪いに終わりのときは来るのだろうか――?  突然、英嗣の母親に、蔵を整理するから来いと呼び出されたり、相変わらず騒がしい毎日を送っていた七月だが。  ある日、若き市長の要請で、呪いの七竃が切り倒されることになる。  七竃が消えれば、呪いは消えるのか?  何故、急に七竃が切られることになったのか。  市長の意図を探ろうとする七月たちだが――。  学園ホラー&ミステリー

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

【完結】知られてはいけない

ひなこ
ホラー
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。 他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。 登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。 勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。 一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか? 心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。 (第二回きずな児童書大賞で奨励賞を受賞しました)

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/12/9:『ひかるかお』の章を追加。2025/12/16の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/8:『そうちょう』の章を追加。2025/12/15の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/7:『どろのあしあと』の章を追加。2025/12/14の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/6:『とんねるあんこう』の章を追加。2025/12/13の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/5:『ひとのえ』の章を追加。2025/12/12の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/4:『こうしゅうといれ』の章を追加。2025/12/11の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/3:『かがみのむこう』の章を追加。2025/12/10の朝4時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

処理中です...