黒の解呪録 ~呪いの果ての少女~

蒼井 くじら

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佐々村源一郎

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「こちらが応接間になります。どうぞ」
  
 
 中は洋風の造りになっており、テーブルを挟んで座り心地の良さそうなソファーが置かれていた。宗介たちは乃恵に促され、そのソファーに腰を下ろす。


「では、私はお茶を淹れて参ります。旦那様もすぐにいらっしゃると思いますので」
 

 乃恵は軽く会釈をすると応接間を出ていった。
 
 扉が閉まると、光は部屋の中を見渡し、


「思っていた通り素敵なお屋敷ね~」
 

 と、感嘆の言葉を漏らす。
 
 確かに、この応接間に置いてある調度品も高価そうなものばかり。少し失礼な言い方になるが、ド田舎の富豪程度にしては些か不釣り合いにも思えた。
 
 だが、光がそれを言うと嫌味にしか聞こえない。


「お前が言うなよ。お前んちの方が金持ちじゃねえか」
 
 
 宗介が皮肉を飛ばすと、流石に光も苛立ちを滲ませた。


「そんな言い方しなくてもいいじゃない。宗介君、さっきからちょっと口が悪過ぎだよ。それに、昨日からずっと私に冷たい感じだし……」
「俺の口が悪いのは生まれつきだ。別にお前が――」
 

 宗介が言い掛けたところで、応接間の扉がガチャっと開いた。
 
 開いた扉の前に立っていたのは、初老の和装男性。がっしりとした体格で口元には長い髭を蓄えている。そして何より瞳の眼光が鋭く、小さな村ではあるが『有力者』と呼ばれる所以を感じさせた。だが、そんな威厳ある男が、どこか疲弊しているようにも見える。
 
 光はすぐに立ち上がったが、男の「よいよい、そのままで」という言葉で再びソファーに腰を戻す。



 「私は佐々村源一郎(ささむらげんいちろう)。本日は、遠いところをお越しいただき、誠に感謝する」
 
 対面のソファーに座ると、源一郎は低い声で自己紹介と挨拶を述べた。
 
 ちょうどその時、お茶を持った乃恵が部屋に入ってきて、三人の前に緑茶の入った湯呑みを置く。乃恵はお茶を置くと、部屋の扉の前で立ったまま待機した。


「さて、では何からお話し致そうか……」
「まず確認しておきたいんだが、除霊が必要なのはあんたの孫ってことでいいんだよな?」
 

 佐々村家に来て急に多くの人間と出会ったため、宗介は佐々村の家族構成を一度確認しておきたかった。


「いかにも。今年で十七になる孫娘だ。名は美守という」
 
 
 除霊対象の佐々村美守は、源一郎の長男と涼子の間に産まれた子。猛は源一郎の次男で、美守から見ると叔父にあたるようだ。
 
 そして、源一郎は美守に起こった異変を語り出した。
 
 事の発端は二週間ほど前。普通に高校生活を送っていた美守が急におかしくなった。医者に診せても治療はおろか原因すら掴めず。藁をも掴む思いで知り合いの霊能者に相談したところ「自分では対処できない」と逃げられ現在に至る、ということらしい。
 
 宗介は黙って源一郎の話に耳を傾けていたが、彼の話はどうも要領を得ない。理由は、肝心の美守の現状に関して、具体的なことを何一つ語ろうとしないからだ。無意識なのか、それとも意図的なのか。どちらにしろ、美守という子は『口に出すのも憚られる状態』ということなのだろう。


「経緯は大体分かった。ところで、一つ訊きたいことがあるんだけど」
 

 源一郎の話が一段落したところで、宗介はそう切り出した。


「何かね?」
「その美守って子の父親のこと」
 

 その瞬間、源一郎の眉がぴくりと動いた。表情も少しばかり厳しいものへと変わる。
 
 あまり触れられたくない部分なのかもしれないが、宗介は構わず言葉を続けた。


「さっきチラっと聞いたんだけど、父親はもう亡くなっているんだよな?」
「うむ。名前は大和(やまと)といった。あれが事故で逝ったのは、美守がまだ幼い頃だ。父親を早くに亡くしたうえ、今も苦しんでいるあの子が私は不憫でならんのだよ……」
「心中お察しします……」
 

 辛そうに語る源一郎に、光が同情の言葉を述べる。
 
 だが、宗介は全く別のことを考えていた。
 
 美守の父親が亡くなっていると聞いた時、今回の案件はその父親の霊が関わっている可能性が高いだろうと思った。
 
 しかし、話を聞くと、美守の父親が亡くなったのはかなり昔だ。完全に無いとは言い切れないが「父親の霊が彼女を苦しめている」という線はかなり薄いだろう。


「全く……どうしてうちばかりがこんな目に……」
 
 
 宗介が思案を巡らせていると、源一郎は憎々しげにそう呟いた。気になった宗介が「うん?」と尋ねると、源一郎は手を振り「いやいや、独り言だ」と話を流す。まあ、不幸が続けば、誰だって多少はぼやきたくもなるだろう。
 
 けれど、こうして話ばかりしていては何も始まらない。


「じゃあ、その美守って子のところに案内してくれ」
 

 宗介が頼むと、源一郎は「うむ……」と歯切れの悪い言葉を呟き、渋い表情を浮かべた。


「どうした? 会ってみないことには除霊も何もできないぜ?」
「確かにその通り……なのだが……」
 

 源一郎は顎髭に手をやりながら黙り込んでしまう。何かおかしい。


「……そうだな。まずは見て頂かないと話にならない。乃恵、お二人を美守のところに案内してさしあげなさい」
 

 短い沈黙の後、源一郎は乃恵へ指示を出した。


「……かしこまりました。では、黒宮様、御堂様。ご案内致しますのでどうぞこちらへ」
「では、よろしく頼みます……」
 

 宗介たちを送りだす源一郎の顔には、明らかな不安の色が刻まれていた。



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