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おぞましき呪いの正体
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宗介は一度深呼吸をして、暗く長い廊下を進む。お札の貼られた扉の前までやって来たが、子供たちの姿はない。宗介は物音を立てないようにそっと扉を開けて中に入った。
忍び足で柵に近づき、牢の中を覗き込む。
その瞬間、宗介は声が漏れぬよう即座に自らの口を手で覆った。
鉄格子の嵌められた小さな窓から差し込む月の光。その月明かりに照らし出された光景は、想像していたより遥かにおぞましいものだった。
夕刻と同じく、壁にもたれかかる格好でぐったりと足を放り出している美守。そんな彼女を取り囲む形で、三人の黒目の子供たちが刃物を持って立っている。だが、子供たちの刃物が、美守に振り下ろされることはなかった。
なぜなら、子供たちは手に持った刃物で、自分自身を傷つけ始めたからだ。
ある者は腕を切り、ある者は腹を裂き、またある者は頬の肉を削ぎ落とす。そうしてできた傷口からは真っ黒な体液が流れ出る。見ているだけで身体が疼いてしまう異様な光景。それなのに、子供たちは皆楽しそうに笑っていた。
そして、子供たちは自分の傷口から溢れ出てきた黒い体液を手に取ると、美守の身体に塗り始めた。
一人は、お腹に。
一人は、胸に。
そして、最後の一人は、美守の口に黒いドロドロした液体を押し込む。
まるで、おままごとでもしているように、きゃっきゃっと笑いながら。
次第に黒く覆われていく美守の身体。
地獄絵図のような光景に、宗介は呼吸をすることすら忘れて見入ってしまっていた。
しかし、その直後――。
「きゃああああああああああああああああああああああ」
遠くから聞こえてきた甲高い悲鳴。
悲鳴の主が光であることはすぐに分かった。
反射的に悲鳴の聞こえてきた方向に顔を向けたせいで、宗介は一瞬美守から目を離してしまう。
再び視線を戻した時には、すでに子供たちの姿はなかった。
黒く染まりつつあった美守も、元の状態に戻っている。
(いなくなった……?)
宗介は今一度、牢の中にいる美守をよく観察する。外から見る限りでは、特に変化は見られない。本当は中に入って詳しく調べたかったが、鍵を持っていない宗介には牢の中へ入る術がなかった。
(仕方ない。光の悲鳴も心配だし、今はそっちを――)
そう思った瞬間だった。
《オニイチャン……オイシソウ……》
背後から囁かれた身も凍るような不吉な声。
悪寒と共に振り返ると、そこには先ほどの襤褸を纏った子供が二人。
不気味に唇を歪め、漆黒の瞳で宗介のことを見上げていた。
恐怖と緊張から宗介は身動きが取れず、一瞬頭が真っ白になる。
その一瞬が命取りだった。
(二人? そういえば、もう一人……)
その考えが浮かんだ時には、最後の一人――おかっぱ頭の女の子が《キャハハハ》と笑いながら、天井から宗介めがけて飛び付いて来た。
「くっ」
咄嗟に回避しようとするも間に合わず、女の子は宗介の背中に抱き付く。そして――。
「あああああ!」
次の瞬間、鋭く冷たい痛みが宗介の右肩に走る。
噛みつかれた、ということはすぐに理解できた。
「くっそ、この!」
宗介はすぐさま左手で印を切る。
「滅ッ!」
《キャア!》
バチッ! というラップ音と共に、背中にのしかかっていた重さが消える。
振り返ると、弾かれた女の子が地面に倒れていた。
女の子の身体は、すぐに背景に同化するように透き通っていく。だが、完全に消えてしまう間際、女の子は宗介を見てニタリと忌まわしい笑みを残した。
女の子の姿が見えなくなると、室内には再び静寂が戻る。
残りの二人もいつの間にか消えてしまっていた。
今しがた起こったことが全て悪い夢ように思えたが、右肩に残る痛みが「これは現実だ」と告げていた。
宗介は張り詰めていた緊張の糸を解くように、一つ大きく息を吐く。
(さっきの光景……。美守に呪いを運んでいるのは、間違いなくあの子供たちだろう。だけど、やっぱり『子供』が関わっているのか……となると……)
そこまで考えて、宗介は頭を振る。
今はそんなことを考えている場合ではない。
先ほど聞こえた光の悲鳴を思い出すと、嫌な予感が宗介の頭をよぎった。
宗介は一度牢の中の美守に視線をやり、それからすぐ部屋を後にする。
忍び足で柵に近づき、牢の中を覗き込む。
その瞬間、宗介は声が漏れぬよう即座に自らの口を手で覆った。
鉄格子の嵌められた小さな窓から差し込む月の光。その月明かりに照らし出された光景は、想像していたより遥かにおぞましいものだった。
夕刻と同じく、壁にもたれかかる格好でぐったりと足を放り出している美守。そんな彼女を取り囲む形で、三人の黒目の子供たちが刃物を持って立っている。だが、子供たちの刃物が、美守に振り下ろされることはなかった。
なぜなら、子供たちは手に持った刃物で、自分自身を傷つけ始めたからだ。
ある者は腕を切り、ある者は腹を裂き、またある者は頬の肉を削ぎ落とす。そうしてできた傷口からは真っ黒な体液が流れ出る。見ているだけで身体が疼いてしまう異様な光景。それなのに、子供たちは皆楽しそうに笑っていた。
そして、子供たちは自分の傷口から溢れ出てきた黒い体液を手に取ると、美守の身体に塗り始めた。
一人は、お腹に。
一人は、胸に。
そして、最後の一人は、美守の口に黒いドロドロした液体を押し込む。
まるで、おままごとでもしているように、きゃっきゃっと笑いながら。
次第に黒く覆われていく美守の身体。
地獄絵図のような光景に、宗介は呼吸をすることすら忘れて見入ってしまっていた。
しかし、その直後――。
「きゃああああああああああああああああああああああ」
遠くから聞こえてきた甲高い悲鳴。
悲鳴の主が光であることはすぐに分かった。
反射的に悲鳴の聞こえてきた方向に顔を向けたせいで、宗介は一瞬美守から目を離してしまう。
再び視線を戻した時には、すでに子供たちの姿はなかった。
黒く染まりつつあった美守も、元の状態に戻っている。
(いなくなった……?)
宗介は今一度、牢の中にいる美守をよく観察する。外から見る限りでは、特に変化は見られない。本当は中に入って詳しく調べたかったが、鍵を持っていない宗介には牢の中へ入る術がなかった。
(仕方ない。光の悲鳴も心配だし、今はそっちを――)
そう思った瞬間だった。
《オニイチャン……オイシソウ……》
背後から囁かれた身も凍るような不吉な声。
悪寒と共に振り返ると、そこには先ほどの襤褸を纏った子供が二人。
不気味に唇を歪め、漆黒の瞳で宗介のことを見上げていた。
恐怖と緊張から宗介は身動きが取れず、一瞬頭が真っ白になる。
その一瞬が命取りだった。
(二人? そういえば、もう一人……)
その考えが浮かんだ時には、最後の一人――おかっぱ頭の女の子が《キャハハハ》と笑いながら、天井から宗介めがけて飛び付いて来た。
「くっ」
咄嗟に回避しようとするも間に合わず、女の子は宗介の背中に抱き付く。そして――。
「あああああ!」
次の瞬間、鋭く冷たい痛みが宗介の右肩に走る。
噛みつかれた、ということはすぐに理解できた。
「くっそ、この!」
宗介はすぐさま左手で印を切る。
「滅ッ!」
《キャア!》
バチッ! というラップ音と共に、背中にのしかかっていた重さが消える。
振り返ると、弾かれた女の子が地面に倒れていた。
女の子の身体は、すぐに背景に同化するように透き通っていく。だが、完全に消えてしまう間際、女の子は宗介を見てニタリと忌まわしい笑みを残した。
女の子の姿が見えなくなると、室内には再び静寂が戻る。
残りの二人もいつの間にか消えてしまっていた。
今しがた起こったことが全て悪い夢ように思えたが、右肩に残る痛みが「これは現実だ」と告げていた。
宗介は張り詰めていた緊張の糸を解くように、一つ大きく息を吐く。
(さっきの光景……。美守に呪いを運んでいるのは、間違いなくあの子供たちだろう。だけど、やっぱり『子供』が関わっているのか……となると……)
そこまで考えて、宗介は頭を振る。
今はそんなことを考えている場合ではない。
先ほど聞こえた光の悲鳴を思い出すと、嫌な予感が宗介の頭をよぎった。
宗介は一度牢の中の美守に視線をやり、それからすぐ部屋を後にする。
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