黒の解呪録 ~呪いの果ての少女~

蒼井 くじら

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浸食する呪い

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「そ、宗介君!?」
「どうされましたか?」
「この子、今朝から体調が悪かったんです。だ、大丈夫!? 宗介君」
 

 叫ぶように声を掛けてくる光だが、宗介に答えるだけの余裕はない。


「それはいけませんね。お手洗いはここを出て右に行った突き当りです」
 

 宗介は光に付き添われてトイレへと向かう。
 
 そして、トイレに入るやいなや便器に向かって嘔吐した。
 
 吐き終えると、気分は幾分かマシになる。だが……。


「はは……マジかよ、これ……」
 

 便器の中の吐瀉物を見て、宗介は笑うしかなかった。
 
 宗介が吐き出したのは、真っ黒なドロドロした液体。それは、あの夜、子供たちが美守の身体に塗りつけていたものと同じに思えた。明らかに異常だったが、それ以前に宗介は昨晩からほとんど何も口にしていない。本当なら、吐き出すものなど何もないはずなのだ。


(流石にそろそろ限界か……。でも、ピースは揃った。あとは……)
 

 そう思いながら宗介はトイレの水を流し、水道で口をゆすいで外へ出た。


「宗介君、大丈夫……じゃないよね? 顔、真っ青だよ……」
 

 外で待ってくれていた光の顔を見れば、鏡を見なくても今の自分がどんな顔をしているか想像がついた。


「問題ねえよ……」
「嘘。宗介君、昨日から絶対におかしいよ。何かあったんでしょ? 隠さないで教えて!」
 

 光に話したところで何かが変わるわけではない。
 
 だが、そろそろ彼女にも、現状を伝えておかなければならなかった。


「……とりあえず戻るぞ。話はその後だ」
 

 その後、宗介たちは一度住職の待つ部屋へ戻り、話を聞かせてもらったお礼を述べる。


「顔色がすぐれませんね。お御堂が開いてますから、お迎えが来るまでそちらで涼んでいってください。冷たいお茶も用意してありますから」
 

 住職は宗介の体調を気遣って、優しく声を掛けてくれた。
 
 予定よりも随分と早く要件が済んでしまったため、猛はまだ来ていない。
 
 宗介たちは住職のお言葉に甘え、お御堂で一休みさせてもらうことにした。中には礼拝客のために机と椅子が置かれており、宗介はその一つに腰掛ける。


「ねえ、宗介君。話して……くれるよね?」
 

 お茶の入ったコップを二つ机の上に置き、光は真剣な眼差しを向けてくる。
 
 宗介はポロシャツのボタンを外して、光に右肩を見せた。
 
 その瞬間、光の顔が青ざめる。右肩の痣は、今や首筋の辺りまで宗介の肌を黒く染めていた。


「そ、それ……美守ちゃんと同じ症状……。宗介君も呪いをもらっていたの……?」
「そういうことになるな」
 

 宗介は初日に遭遇した子供たちの話を光に聞かせる。そして、その後に宗介の身体に起こった異変や白昼夢、昨晩みた夢の内容なども話した。

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