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第1章プロローグ〜《無能》な少年〜
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『──これより、王立アルデバード学園序列戦1年の部を開始致します。一同、位置について』
機械じみた不気味な声色に従い、学園に通う生徒が皆所定の位置へと着く。
各所で聞こえるのは、それぞれの小さな息遣いのみ。私語を発するものなど1人も存在しない。
しかしそれも当然だと言えるだろう。
今から行われるは序列戦。
王立アルデバード学園とその進路において各人の能力は全てこの序列戦によって決定される。
故に序列戦はその一戦一戦が未来の明暗を左右する大事な試合なのだ。
──少年も、それは理解しているのだろう。
序列戦の会場。
数多の人間が区切られたスペースで自身の対戦相手と向かい合う中、その一角で、少年は対戦相手を前にゴクリと唾を飲み込んだ。
そして同時に、視線を一点──対戦相手の方へと向けたまま、キッと視線を鋭くさせた。
「……いやいや、まさか対戦相手が、あの《無能》とはねぇ」
と、そんな少年──ルトの視線の先で、対戦相手である男、ギオ・キンソウは、ニヤリと嘲笑を浮かべるとわざと此方に聞こえるように、声高々に罵倒を口にした。
しかし、ルトはその言葉を耳にしながらも、表情1つ変える事なく、視線をギオの方へと向け続ける。
それが癇に障ったのだろうか。ギオは、小さく眉を潜めると、更に嘲罵を口にした。
「いやぁ本当良かったよ。対戦相手が《無能》なお陰で俺の1勝が確定した訳だからなァ」
ギオはケタケタと笑う。
そして、そのまま言葉を続ける。
「なぁ、《無能》……どうせ負けるんだ。見逃してやるから尻尾巻いて逃げたらどうだァ? 戦って無駄に傷つくよりは、良いと思うぜ」
しかし、ルトはあいも変わらず返答をせず、ただこれから聞こえるであろう戦闘開始の合図の方へと意識の重きを置いていた。
ギオの額に青筋が立つ。
そしてギリと歯を食い縛ると、唾を飛ばす程に強く、
「──怪我しても知らねぇからなァ……!」
と口にすると、右手を眼前へと持っていき、グッと拳を握った。
同時に、ルトの目にとあるモノが映った。
それは、右手の甲へと刻まれた、複雑な紋章──ギオという男が、この世界において圧倒的な強者であるという証となる、紋章であった。
紋章が淡く輝く。そしてその輝きは段々と強くなっていき、遂には大きく浮かび上がった。
同時に、ギオは口の端をグッと上げ笑うと、高らかにその詠唱を口にした。
「鎧えッ! 硬甲冑!!」
──瞬間、空気が変わった。
ギオを中心として巻き起こる空気の渦。
そしてすぐにギオの身体を金属のような物が覆っていく。
「…………!」
ルトが目を見開く。
何度見ても、この異様な雰囲気には思わず呑まれてしまいそうになる。
──纏術と呼ばれる、選ばれた人間のみが使う事のできる、この特異な力を目にした時は。
手、足、腹と、少しずつ覆われていくギオ。
そして、遂に顔まで纏った所で、それは完成した。
その姿は、太古の昔、魔術や纏術の存在しなかった頃に使われていたとされる甲冑によく似ていた。
そして、その全身を覆う強固な甲冑は、さながら身を守る為の外骨格のように思えた。
その姿のまま、ギオはルトに向け声を出す。
「──これで、《無能》であるお前の勝利は万に一つも無くなった! 俺を相手に逃げなかったことを──後悔しやがれ!」
『それでは──始めてください』
そんなギオの罵声の後、機械じみた声が響き渡り──序列戦が始まった。
同時に。
「…………ッ!」
ルトは地を蹴り、ギオへと肉迫する。
そしてギオが若干の戸惑いを見せている間に、彼の腹部へと自身の武器である短剣を突き刺──すフリをし、脇を抜けると、足を軸として回転。すぐに短剣を逆手へと持ち替えると、裏拳を放つ要領でギオの背へとそれを突き出した。
しかし──
「…………クッ!?」
ギオの纏う鎧によって、ルトの繰り出した攻撃は弾かれた。
ルトは即座にバックステップにより一歩二歩と後退。ギオとの間にある程度の距離を作った。
「ハ……ハハハ、ハーッハッハ! 効かないねぇ、そんな攻撃ィ!」
一瞬焦りを見せたギオであったが、ルトの攻撃が自身の装甲を突き破れない事がわかると、大口を開け、嘲笑した。
続いて口の端を吊り上げニヤリと笑みを浮かべると、自らの存在を主張するが如く、力強い声色でもってその名を唱える。
「次は俺の番だァ! 行くぜ硬甲冑!剛単衝!!!」
同時に、ギオは自身の真下、つまり地に向かって紋章の入った右拳を突いた。
瞬間、ルトの足元が少し盛り上がり、数瞬の後、爆風が空に向け巻き上がった。
砂埃が大量に舞い、バトルフィールドを覆う。
「だから言ったんだ! 俺と戦うのは避けた方が良いってなァ!」
砂塵で視界が見えないなか、ギオは吠えるようにそう声を出すと、ケタケタと笑いだした。
しかしその数秒後、自身の視界の先、つまり先程の爆心地とその周辺にルトの姿がない事がわかると、その表情は一変し、驚愕に染まる。
焦り、すぐに後ろを振り返るも──もう遅い。
既に、短剣を順手に握ったルトが目の前まで迫っていたのだ。
「……ッ!?」
ギオが目を見開き、反射的に腕を交差させようとする。
しかし、それはもはや手遅れで──
「…………フッ!」
ルトは交差しようとした腕を抜けると、他の部位に比べ圧倒的に守りの弱い肩の関節部分目掛けて、思いっきり短剣を突き刺し、引き抜いた。
「…………ッ!」
とても小さなものではあったが、初めてギオに傷がつき、彼の鮮血が宙に舞う。
ルトは、それを確認するよりも早く、数歩歩を引くと、ギオから離れた。
「グッ……! な、何故!?」
右肩を左手で押さえながら、ギオは分かりやすく、狼狽した。
大方、何故俺の攻撃を避ける事ができたのかと、そう考えていることだろう。
しかし、ルトにとってみれば、いや何人であっても、過去のギオの戦闘の様子を研究していれば間違いなく思う事だろう。
『ギオは奇をてらった攻撃などせず、ただ力に任せた単調な攻撃しか行わない』
──と。
そして同時に、それは纏術という恵まれた力を持つ彼の、大きな弱点でもあった。
「ふざけるなァ……! 《無能》如きがッ! 一丁前に俺の攻撃を避けて、俺に傷をつけやがってぇ!!!」
激昂。そのままギオは、吠える様にその詠唱を口にした。
「硬甲冑!剛咲衝ォォォッ!!!!」
同時に、一発、また一発と地へと拳を叩きつける。
瞬間、戦闘フィールド内で無作為に爆発が起こった。
その爆破スピード、そして何よりも規則性などなく起こる爆発に、ルトは翻弄される。
そして数度爆発を逃れる事ができたが、その後遂に爆発に巻き込まれてしまった。
浮き上がる身体。空中に投げだされたルトは、もはやどうする事もできなかった。
ギオが走り出す。そして、
「魔術も纏術も使えない《無能》がッ! 生意気なんだよォォォ!」
強くそう口にすると、拳を繰り出す。
堅固なその拳は見事にルトの腹部へと直撃した。
「…………ッ!?」
数メートル吹き飛び、ゴロゴロと地を転がるルト。
結局その後、ルトはその場から動く事ができず──彼の5度目の敗北が決まった。
機械じみた不気味な声色に従い、学園に通う生徒が皆所定の位置へと着く。
各所で聞こえるのは、それぞれの小さな息遣いのみ。私語を発するものなど1人も存在しない。
しかしそれも当然だと言えるだろう。
今から行われるは序列戦。
王立アルデバード学園とその進路において各人の能力は全てこの序列戦によって決定される。
故に序列戦はその一戦一戦が未来の明暗を左右する大事な試合なのだ。
──少年も、それは理解しているのだろう。
序列戦の会場。
数多の人間が区切られたスペースで自身の対戦相手と向かい合う中、その一角で、少年は対戦相手を前にゴクリと唾を飲み込んだ。
そして同時に、視線を一点──対戦相手の方へと向けたまま、キッと視線を鋭くさせた。
「……いやいや、まさか対戦相手が、あの《無能》とはねぇ」
と、そんな少年──ルトの視線の先で、対戦相手である男、ギオ・キンソウは、ニヤリと嘲笑を浮かべるとわざと此方に聞こえるように、声高々に罵倒を口にした。
しかし、ルトはその言葉を耳にしながらも、表情1つ変える事なく、視線をギオの方へと向け続ける。
それが癇に障ったのだろうか。ギオは、小さく眉を潜めると、更に嘲罵を口にした。
「いやぁ本当良かったよ。対戦相手が《無能》なお陰で俺の1勝が確定した訳だからなァ」
ギオはケタケタと笑う。
そして、そのまま言葉を続ける。
「なぁ、《無能》……どうせ負けるんだ。見逃してやるから尻尾巻いて逃げたらどうだァ? 戦って無駄に傷つくよりは、良いと思うぜ」
しかし、ルトはあいも変わらず返答をせず、ただこれから聞こえるであろう戦闘開始の合図の方へと意識の重きを置いていた。
ギオの額に青筋が立つ。
そしてギリと歯を食い縛ると、唾を飛ばす程に強く、
「──怪我しても知らねぇからなァ……!」
と口にすると、右手を眼前へと持っていき、グッと拳を握った。
同時に、ルトの目にとあるモノが映った。
それは、右手の甲へと刻まれた、複雑な紋章──ギオという男が、この世界において圧倒的な強者であるという証となる、紋章であった。
紋章が淡く輝く。そしてその輝きは段々と強くなっていき、遂には大きく浮かび上がった。
同時に、ギオは口の端をグッと上げ笑うと、高らかにその詠唱を口にした。
「鎧えッ! 硬甲冑!!」
──瞬間、空気が変わった。
ギオを中心として巻き起こる空気の渦。
そしてすぐにギオの身体を金属のような物が覆っていく。
「…………!」
ルトが目を見開く。
何度見ても、この異様な雰囲気には思わず呑まれてしまいそうになる。
──纏術と呼ばれる、選ばれた人間のみが使う事のできる、この特異な力を目にした時は。
手、足、腹と、少しずつ覆われていくギオ。
そして、遂に顔まで纏った所で、それは完成した。
その姿は、太古の昔、魔術や纏術の存在しなかった頃に使われていたとされる甲冑によく似ていた。
そして、その全身を覆う強固な甲冑は、さながら身を守る為の外骨格のように思えた。
その姿のまま、ギオはルトに向け声を出す。
「──これで、《無能》であるお前の勝利は万に一つも無くなった! 俺を相手に逃げなかったことを──後悔しやがれ!」
『それでは──始めてください』
そんなギオの罵声の後、機械じみた声が響き渡り──序列戦が始まった。
同時に。
「…………ッ!」
ルトは地を蹴り、ギオへと肉迫する。
そしてギオが若干の戸惑いを見せている間に、彼の腹部へと自身の武器である短剣を突き刺──すフリをし、脇を抜けると、足を軸として回転。すぐに短剣を逆手へと持ち替えると、裏拳を放つ要領でギオの背へとそれを突き出した。
しかし──
「…………クッ!?」
ギオの纏う鎧によって、ルトの繰り出した攻撃は弾かれた。
ルトは即座にバックステップにより一歩二歩と後退。ギオとの間にある程度の距離を作った。
「ハ……ハハハ、ハーッハッハ! 効かないねぇ、そんな攻撃ィ!」
一瞬焦りを見せたギオであったが、ルトの攻撃が自身の装甲を突き破れない事がわかると、大口を開け、嘲笑した。
続いて口の端を吊り上げニヤリと笑みを浮かべると、自らの存在を主張するが如く、力強い声色でもってその名を唱える。
「次は俺の番だァ! 行くぜ硬甲冑!剛単衝!!!」
同時に、ギオは自身の真下、つまり地に向かって紋章の入った右拳を突いた。
瞬間、ルトの足元が少し盛り上がり、数瞬の後、爆風が空に向け巻き上がった。
砂埃が大量に舞い、バトルフィールドを覆う。
「だから言ったんだ! 俺と戦うのは避けた方が良いってなァ!」
砂塵で視界が見えないなか、ギオは吠えるようにそう声を出すと、ケタケタと笑いだした。
しかしその数秒後、自身の視界の先、つまり先程の爆心地とその周辺にルトの姿がない事がわかると、その表情は一変し、驚愕に染まる。
焦り、すぐに後ろを振り返るも──もう遅い。
既に、短剣を順手に握ったルトが目の前まで迫っていたのだ。
「……ッ!?」
ギオが目を見開き、反射的に腕を交差させようとする。
しかし、それはもはや手遅れで──
「…………フッ!」
ルトは交差しようとした腕を抜けると、他の部位に比べ圧倒的に守りの弱い肩の関節部分目掛けて、思いっきり短剣を突き刺し、引き抜いた。
「…………ッ!」
とても小さなものではあったが、初めてギオに傷がつき、彼の鮮血が宙に舞う。
ルトは、それを確認するよりも早く、数歩歩を引くと、ギオから離れた。
「グッ……! な、何故!?」
右肩を左手で押さえながら、ギオは分かりやすく、狼狽した。
大方、何故俺の攻撃を避ける事ができたのかと、そう考えていることだろう。
しかし、ルトにとってみれば、いや何人であっても、過去のギオの戦闘の様子を研究していれば間違いなく思う事だろう。
『ギオは奇をてらった攻撃などせず、ただ力に任せた単調な攻撃しか行わない』
──と。
そして同時に、それは纏術という恵まれた力を持つ彼の、大きな弱点でもあった。
「ふざけるなァ……! 《無能》如きがッ! 一丁前に俺の攻撃を避けて、俺に傷をつけやがってぇ!!!」
激昂。そのままギオは、吠える様にその詠唱を口にした。
「硬甲冑!剛咲衝ォォォッ!!!!」
同時に、一発、また一発と地へと拳を叩きつける。
瞬間、戦闘フィールド内で無作為に爆発が起こった。
その爆破スピード、そして何よりも規則性などなく起こる爆発に、ルトは翻弄される。
そして数度爆発を逃れる事ができたが、その後遂に爆発に巻き込まれてしまった。
浮き上がる身体。空中に投げだされたルトは、もはやどうする事もできなかった。
ギオが走り出す。そして、
「魔術も纏術も使えない《無能》がッ! 生意気なんだよォォォ!」
強くそう口にすると、拳を繰り出す。
堅固なその拳は見事にルトの腹部へと直撃した。
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