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3章プロローグ 悲劇の少女

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 とある小さな村に1人の少女がいました。

 名前はエリカ。年齢は12歳。

 趣味は手芸で特技は料理。

 別段優れた才能など無く、扱えるのは平均程度の魔術だけ。

 なんて事ないごく普通の、いやどちらかと言えば少しだけ貧しい家庭に生まれ、しかしそれでも優しく立派な両親と共に、慎ましくも楽しい日々を過ごしていました。

 そんな彼女ですが、唯一、他とは一線を画す部分があったとするならば、それは村の誰よりも……下手したら大きな街の誰よりも恵まれた容姿を持っていた事です。

 しかし、だからと言って驕り高ぶるでもなく、寧ろ誰に対しても純真無垢な優しい笑顔を振りまく彼女は、小さな村の中で一番の人気者でした。

 そんな彼女の13歳の誕生日。

 毎年の事ではありますが、この日も彼女の周りには沢山の村人が集まりました。

 仲の良い友人や、気前の良い雑貨屋のおじちゃんおばちゃん。お花が大好きで沢山の事を教えてくれる隣家のお姉ちゃんに、ぶっきらぼうだけど、本当は優しい武器屋のおじいちゃんなどなど。

 そんな大好きな沢山の村人に囲まれ、多くの笑顔に包まれた彼女は、自身の13年という人生を振り返りながら、子供ながらに心の中で、

「幸せ……だなぁ」

 と思うのでした。
 そして……こんな幸せな日々がいつまでも続けば良いのにとそう願い──しかし、その願いが叶う事はありませんでした。

 何と、奇しくも、よりにもよって少女の誕生日のこの日に、村が大量の魔物によって襲われたのです。

 先程までの暖かな雰囲気はどこへ行ったのか。
 村中が阿鼻叫喚の嵐に包まれます。

 逃げ惑う村人。それを襲う沢山の魔物。
 猟師のおじちゃんなど、魔物に対抗しようと武器を振るう人も居ましたが、それでも魔物の撃退や討伐など到底出来そうにありません。

 少女も村の大人達から守られながら、必死に逃げ惑いました。
 しかし当然ですが、逃げ惑うだけでは状況は好転しません。

 寧ろ、悪化していると言えるでしょう。

「どうして……こんな事になってしまったの?」

 少女は嘆きます。

「さっきまで、あんなに幸せな時間を過ごしていたというのに」

 目に涙を浮かべ、恐怖を美しい容貌に貼り付けながら、少女は嘆きます。

 しかし、いくら嘆いても、もしも夢ならば早く覚めてと願っても、現実は非情で、1人また1人と大好きだった皆が物言わぬ屍へと変わっていきます。

「いやだ、こんな現実はいやだ」

 少女は現実を受け入れる事などできず、目を瞑り、耳を塞ぎながら、闇雲に逃げ惑います。
 何度何度も嘆きながら、必死に逃げ……しかし逃げ切る事など出来ず、非常にも魔物に殺されそうになった──その瞬間。

 音が、色が消え──世界が停止し、少女の元へと不気味な声が聞こえてきました。

『……みんなを救いたいのでしょう? ならば私と契約をなさい。……そうすれば、あなたの望みを叶えてあげる』

 少女は怪しいと思いました。

 だってそうです。目の前の何かはまるで人間とは思えない容姿をしていて、いや寧ろ『死神』と言っても何らおかしくないような容姿をしていたのですから。

 しかし、それでも少女は契約を望みました。

 ほんの少しでも両親を、村の人々を救える可能性があるのなら、それにかけてみたいとそう思ったからです。

「私と契約をしてください。そして、みんなを助けてください」

 ──その後の事は何も覚えていません。

 ただ、気がつくと村を襲っていた魔物は一匹残らず駆逐されていました。

 ……よかった。

 少女はその事に安堵の息を吐きました。

 そしてすぐに、ハッとすると両親の無事を確かめに走りました。

 ……結果的に両親は無事でした。魔物に襲われたのでしょうか、少し怪我はしていましたが、命に別状はないようでした。

  「……お母さん! お父さん!」

 少女はその姿を確認すると、肩を支え合いながら座る両親の元へ、一心不乱に走りました。

 よかった、無事だった!

 その事を心から喜び、早く抱きしめて欲しい。その思いのままに、全力で。

 笑顔で力強く抱きしめてくれるとそう思って。

 しかし、少女の姿を目に収めた両親の表情は、笑顔では無く、化け物を見るかのような引き攣ったものでした。
 そして肩を寄せ合いながら、少女の姿を見て一言。

「ヒッ……! く、くるな化け物が!」

「………………え」

 少女は絶句しました。

 なんで、なんで私の顔を見てそんな顔をするの?

「おかあさ……「こ、こないでっ!」」
「お、おとお……「く、くるな!」」

「な、なんで……」

 訳がわかりませんでした。だってそうでしょう。
 今の少女の容姿には特に変わった所など無く、至極いつも通りなのですから。

 ……きっと突然魔物に襲われてびっくりしちゃったんだ。大丈夫、少し時間を置けばまたいつもの2人に戻る。

 そう無理矢理に結論付け、一度両親の元を離れると、少女は仲の良い友人や、大好きな皆の所へと向かっていきました。

 ──しかし、結果は同じでした。

 皆一様に、少女の顔を目にした瞬間に、恐怖の表情を浮かべ、叫び声を上げたのです。
 そして終いには、石ころを投げられる始末。

 なんで……どうして……。

 訳が分からず、また現実を受け入れられず。

 しかしまだ希望を捨てきれなかった少女は、半ば追い出される形で1人村を離れ、近くの街へと赴きました。
 が、そこで彼女を待っていたのは、やはり悲鳴と罵倒、そして明確な殺意でした。

 なんで、どうして。やっぱり死神に力を借りたのは間違いだったの……?

 そう考えながらも、一抹の希望を胸に街を転々とし、しかしその全てで拒絶されていきました。

 その後、自身が死神による呪いにかかり、周囲の人間には自身の容貌が『その人が本能的に思う、最も恐怖や嫌悪感を与えるモノ』に見えている事を理解した少女は、フードを被り、容姿を隠すようになりました。

 また、現状のままでは事態が好転する事はないと悟った少女は、自身に降りかかった呪いを解く方法を探し歩くようになりました。

 子供だと思われないよう口調を改め、背伸びしている事を理解しながらも努めて大人っぽく振る舞い、簡単な依頼などを受け日銭を稼ぎ街を転々とする毎日。

 途中で傷ついた魔物を救い、自身にテイムの力があると理解した彼女はその魔物をテイムし、コロと名付けたりと、これまでの人生では考えられない程激動の日々を過ごす事──1年と数ヶ月。

 きっと、私に救いの手を差し伸べてくれる人などいないんだ……と、どこか諦めすらも覚え始めていたその頃。少女は王都で死神が出たという噂を耳にしました。

 ──死神ならば、私と同じ死神ならばもしかしたら私の呪いを解く方法を知っているかもしれない。

 そう考えた少女は、救いがあるかもしれないと、今までよりも格段に力強い足取りで王都を目指します。

 死神の呪いにより、全てを失った少女の、唯一と言っても過言ではない、希望となり得る存在と出会う為に──。
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