突然ヒロインとなったマリアンナの恋愛事情〜女装の王子様に囲い込まれました

牧場のばら

文字の大きさ
34 / 49
番外編

アーサーと女騎士〜Arthur and Swordswoman 1

しおりを挟む
マリアンナの弟のアーサーのお話です。

++++++++++++++



 今日もまた負けてしまった。

 アーサーはがっくり項垂れていたが、いつまでもそうしていても仕方ないので、伸ばされた手を断ってひとりで起き上がった。

「残念だったなアーサー。踏み込みがまだ甘いな。わたしの連勝記録をまた伸ばしてしまった」
 
 アーサーはそう述べた相手をジロリと睨んだ。
「次は絶対に勝つからな」
「期待してるよ」肩をすくめて去っていく相手を見ていたが、やがて自分も帰り支度を始めるのだった。


 アーサーは今、姉の婚約者である公爵子息の屋敷に、姉共々世話になっている。
 先日その姉が拉致された時に、無事に姉を救い出した婚約者のデヴィッドと行動をともにした。その際に護衛騎士たちやデヴィッド本人の活躍を目の当たりにして、自分も剣技を磨きたくなったのだ。
 その事をデヴィッドに相談したら、父親の公爵閣下の好意で、王都騎士団見習いの訓練に参加できることになったのである。

 見習い訓練は身分に関係なく誰でも参加できる。
 その中で優秀なものは騎士団の入団試験を受ける資格を得る事ができた。訓練中に直接勧誘される者もいると聞く。また、アーサーのように、領地へ戻るまでの腕試しとして参加するものもそれなりにいた。

 アーサーは父子爵から1年間王都に残る許可を得て、訓練に参加することになっていた。
 王都滞在中は、ロックフィールド公爵家が面倒を見てくれることになり、田舎から出てきた少年の目には、何もかもがキラキラ眩しく映っていた。

 そして待ち望んだ訓練の初日、意気揚々と乗り込んだアーサーは、ある人物に釘付けとなった。
 新規参加者が集まる中で、ひときわ目立つ少女がいたのである。
 その娘は細身ですらりと背が高く、長い黒髪をひとつに束ねていた。瞳の色も黒のようだ。それに反して肌の色は透き通るような白で、整った顔立ちをしていた。

「姉上?」アーサーは、姉がそこにいるのかと見間違えてしまった。何しろ髪の色といい雰囲気が似ているのだ。
 アーサーが思わず漏らした声に、少女は振り返った。不躾にも少女をじっと見つめてしまう。

「わたしに何か?」
 口を開いたその声は少し低めで、しかし耳障りの良い声で。
「いや、君が姉に似てたものでつい声をかけてしまった、失礼した。
 僕はアーサー・オディール、16歳。君の名前は?」

 少女は一瞬躊躇ったが、ややあって名前を教えてくれた。

「ステファニー・クレイトンだ」

 それがアーサーの恋の始まりだった。  



 幼い頃から義理の姉マリアンナを慕っていたアーサーだが、姉は婚約者のデヴィッドと大変仲が良い。見ているこちらが恥ずかしくなるほどだ。

 アーサーは、男子のいないオディール子爵家に、跡取りとして3歳のころ養子に来た。去年までは、姉さんが学院を卒業して戻ってきたらプロポーズして、結婚後は2人で領地を支えていこうと思っており、他の女の子なんて全く興味がなかった。
 ところが、マリアンナには人間離れした美形のデヴィッドという恋人が出来た。今は婚約中である。
 
 2歳も歳下だとハンデがあるよなぁ、とがっくりしたものだが、アーサーは前向きな少年だった。
 きっとどこかに運命の出会いがあるに違いない、とそう思った。
 騎士団見習い訓練初日に出会った、黒髪の少女ステファニーこそが自分の運命の乙女だと、アーサーは思い込んだのである。
 訓練楽しみだなあ!
 アーサーはステファニーに毎日会える、その期待に胸が躍るのだった。

 見習い訓練開始から数日後、翌日からの訓練のペアを決める事になり、それぞれ自分の技量に合う相手を探して交渉していたが、アーサーは真っ直ぐにステファニーの元へと向かった。

「僕とパートナーを組まない?」

 周りから、はっと息を呑むような気配を感じたが、アーサーは気にならなかった。ステファニーしか目に入らなかったのだ。

 アーサーは知らなかった。
 ステファニーの父親が、第二騎士団の副団長であり、その実力は第三まである騎士団随一と言われていること、ただし家格が男爵位なので副団長止まりであること。
 そしてステファニー自身も幼い頃から父に剣の手解きを受け、類希れなる剣の才能を持つ少女だということを、アーサーは知らなかった。

 知らないがゆえの怖いもの知らずで、堂々とパートナーを申し込んだアーサーのことを、ステファニーは珍しいものを見るように見つめた。

「オディールだったな。わたしの噂とか父のことを知らないのか?」

「え?君の噂なんてあるの?知らないよ。僕は先月王都に出てきたところで、そういう噂とか疎くてね。
 何か不都合があるなら断ってくれたらいいよ。でも、パートナーになれなくても、友達にはなってくれるかな?」
 アーサーはにっこりと笑った。

 領地で父について回っている頃、なぜかアーサーは領民たちから好かれていた。
 目の覚めるようなとびきりの男前ではないが、淡いブラウンの髪に薄茶色の目をしており(本人曰く、薄い金色である)、それなりに整った顔立ちに気さくで明るい性格、誰とでもすぐ打ち解けて、誰からも好かれた。
 それはアーサーの特技といって良かった。

 領地にある学校に通っていたころは、学校中の女の子がアーサーを慕っていた。家は貧乏子爵でお金の面ではいろんな苦労もあったが、そういう事を感じさせない明るさは、アーサーの持つ優れた性質と言える。

 実際、ロックフィールド公爵は、アーサーのその性格を才能として認め、将来国のために働かせようと考えていたので、身元保証人となって騎士団見習い訓練へと送り込んだのだった。

「今のところ、パートナーの申し出は君だけだ。……他に誰もいないのなら、君でいい」

「そうか!良かった!よろしく頼むよ。」アーサーは右手を出した。ステファニーは戸惑いながらも、差し出された手を握り返した。
(すごい剣ダコだな。でも手も小さいし指だって細い、やっぱり女の子だなあ)
 アーサーは嬉しくてにやけそうになったが、ぐっと堪えた。

 見守っていた見習い生たちは、あのステファニー・クレイトンが、剣の腕はさほどでもない、なまっちょろい男をパートナーとして受け入れた、という衝撃で固まっていた。

「お前、凄いな!あのクレイトンに訓練のパートナーを申し込むとは、怖いもの知らずだな!」と、なぜかアーサーは仲間に囲まれてその勇気と無謀さを讃えられた。

 アーサーがステファニー本人の噂を知るのはその夜のこと。
 夕食の席で今日の出来事を嬉々として語るアーサーに、
「クレイトンか。それはまた勇気を出したもんだね。父親は騎士団随一の剣士だ。娘は父親直伝の腕前で、騎士団は彼女が小さい頃からスカウトしていると聞いてるよ」と、ロックフィールド公爵が教えてくれたのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

婚約破棄された悪役令嬢、放浪先で最強公爵に溺愛される

鍛高譚
恋愛
「スカーレット・ヨーク、お前との婚約は破棄する!」 王太子アルバートの突然の宣言により、伯爵令嬢スカーレットの人生は一変した。 すべては“聖女”を名乗る平民アメリアの企み。でっち上げられた罪で糾弾され、名誉を失い、実家からも追放されてしまう。 頼る宛もなく王都をさまよった彼女は、行き倒れ寸前のところを隣国ルーヴェル王国の公爵、ゼイン・ファーガスに救われる。 「……しばらく俺のもとで休め。安全は保証する」 冷徹な印象とは裏腹に、ゼインはスカーレットを庇護し、“形だけの婚約者”として身を守ってくれることに。 公爵家で静かな日々を過ごすうちに、スカーレットの聡明さや誇り高さは次第に評価され、彼女自身もゼインに心惹かれていく。 だがその裏で、王太子とアメリアの暴走は止まらず、スカーレットの両親までもが処刑の危機に――!

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

エアコン魔法、全自動チョコレート製造魔法、魔法の無駄遣い? ――快適な生活のために、全部必要ですわ

鷹 綾
恋愛
「魔法の無駄遣いだ」 そう言われて婚約を破棄され、南方の辺境へ追放された元・聖女エオリア。 けれど本人は、まったく気にしていなかった。 暑いならエアコン魔法を使えばいい。 甘いものが食べたいなら、全自動チョコレート製造魔法を組めばいい。 一つをゆっくり味わっている間に、なぜか大量にできてしまうけれど―― 余った分は、捨てずに売ればいいだけの話。 働く気はない。 評価されても困る。 世界を変えるつもりもない。 彼女が望むのは、ただひとつ。 自分が快適に、美味しいものを食べて暮らすこと。 その結果―― 勝手に広まるスイーツブーム。 静かに進む元婚約者の没落。 評価だけが上がっていく謎の現象。 それでもエオリアは今日も通常運転。 「魔法の無駄遣い? ――快適な生活のために、全部必要ですわ」 頑張らない。 反省しない。 成長もしない。 それでも最後まで勝ち続ける、 アルファポリス女子読者向け“怠惰ざまぁ”スイーツファンタジー。

婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~

白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」  枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。  土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。  「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」  あなた誰!?  やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!  虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

退屈扱いされた私が、公爵様の教えで社交界を塗り替えるまで

有賀冬馬
恋愛
「お前は僕の隣に立つには足りない」――そう言い放たれた夜から、私の世界は壊れた。 辺境で侍女として働き始めた私は、公爵の教えで身だしなみも心も整えていく。 公爵は決して甘やかさない。だが、その公正さが私を変える力になった。 元婚約者の偽りは次々に暴かれ、私はもう泣かない。最後に私が選んだのは、自分を守ってくれた静かな人。

冷徹と噂の辺境伯令嬢ですが、幼なじみ騎士の溺愛が重すぎます

藤原遊
恋愛
冷徹と噂される辺境伯令嬢リシェル。 彼女の隣には、幼い頃から護衛として仕えてきた幼なじみの騎士カイがいた。 直系の“身代わり”として鍛えられたはずの彼は、誰よりも彼女を想い、ただ一途に追い続けてきた。 だが政略婚約、旧婚約者の再来、そして魔物の大規模侵攻――。 責務と愛情、嫉妬と罪悪感が交錯する中で、二人の絆は試される。 「縛られるんじゃない。俺が望んでここにいることを選んでいるんだ」 これは、冷徹と呼ばれた令嬢と、影と呼ばれた騎士が、互いを選び抜く物語。

処理中です...