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番外編
アーサーと女騎士〜Arthur and Swordswoman 2
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田舎の貧乏子爵子息のアーサー・オディールが、鬼の副団長クレイトン男爵の秘蔵の娘、ステファニー・クレイトンに練習パートナーを申し込んだ、という話は騎士団の中に瞬く間に広まった。
ステファニーの腕前は相当のもので、長い黒髪のその一筋すら乱すことなく、また汗ひとつもかかずに訓練生達を打ち負かすその姿は、まるで一輪の黒薔薇のようであった。
そのステファニーに負けても負けても挑み続けるアーサーは、まるで巨大な風車に挑む愚かで身の程知らずだと、そんな噂が騎士団や見習い訓練生の間で流れるようになったが、アーサーは全く気にしていなかった。
「クレイトン、練習の相手を頼む」と、毎日試合を申し込み、毎日負けているのだ。
初めは「パートナーになったからには練習相手はしてやるが、もっと強くなってから来い」と、面倒くさそうにしていたステファニーだったが、毎日相手をして毎日打ちのめして、それでも毎日やってくるアーサーに慣れてきたようだ。
転がっても多少の怪我をしても、アーサーは根を上げなかった。
なにしろ、王都にいられるのは1年だけ。もう既に5ヶ月が経っていた。
訓練自体は厳しいがやり甲斐がある。
アーサーは王都に来て以来、身長が少し伸びて、華奢だった身体は細身ながら筋肉質になっていた。
訓練生全体による走り込み、基礎練習や他の訓練生との模擬戦で、アーサーは上位に食い込むようになった。
まさに訓練と本人の意地の賜物であるが、肝心のステファニーからは一本も取る事ができなかった。
「アーサー、お前頑張るよなあ」
訓練生の仲間たちは、ひたむきに練習に取り組むアーサーに感心していた。
「クレイトンに勝つのは厳しいぞ。お前だけじゃなく、俺らの誰も勝てねぇ。あいつはこの中じゃ最強だ」
「それにしても不憫だよなあ。クレイトンにはお前の気持ちは届いてないんだな……」
アーサーが強くなりたい目的は、ステファニーに釣り合う男になりたいという不純なもので、周りの仲間たちにはその恋心は丸わかりなのだ。いつも打ちのめされて相手にもしてもらえないアーサーを、彼らは温かく見守っていた。
*
見習い訓練は本人の希望する限り何年でも在籍できるが、一年以内に結果を出せないというのはすなわち、才能が無いということだ。
訓練生たちはそれぞれ、この一年で入団資格を得る為に懸命に励んでいた。
その入団資格を手に入れるための第一弾として、来月のトーナメント戦が行われる。
見習い訓練生達でグループ勝ち抜きトーナメントを行い、勝ち残った4名が、騎士団の若手騎士達と模擬戦を行なう。
この模擬戦は王都でも名物になっており、かってはロックフィールド家の長男アランも、その護衛騎士クリフも出場した事があった。伝統的な行事でもあり、市民たちも観覧できる。
模擬戦に出場できるのは栄誉といえる。
さて、トーナメント戦の組み分けで、アーサーはステファニーとは別の組になった。
16名ずつが4組に分かれて競い合う。
アーサーとステファニーはそれぞれの組で、無事に代表に勝ち残った。
ステファニーから一本取りたい、その一心で厳しい訓練に耐え、公爵家の護衛騎士たちと打ち合わせをして鍛えていたアーサーは、知らぬ間に随分と剣の腕を上げていたのだった。
選ばれた4名と若手騎士による模擬戦は2週間後に決まった。
*
そんな中、アーサーの気持ちを揺るがす事件が起きた。
模擬戦を控えてステファニーとの練習を続けているところへ、騎士服を着た若者が近づいてきたのだ。
「ステファニー、まだこんな事をやっているのか?
そんな事をしても無駄無駄。お前はお飾りの妻になるんだから、刺繍とかダンスとか、そういった女らしいことをしていればいいんだよ」
やたらと失礼な物言いの男にアーサーはムッとした。
「随分と失礼ではありませんか?見たところ騎士団の方のようだが。」
「ん?人に尋ねる前には自分から名乗ることだな。まあいい。今回は特別に教えてやろう。
俺はヘンリー・モルガン。モルガン伯爵家の嫡男だ。それで、この女は俺の婚約者だ。なあ、ステファニー?」
「そのお話は無くなったはずです。モルガン様には好いた女性がいらっしゃるのは有名です。常に連れ歩いていらっしゃる。わたくしは一度たりとモルガン様からエスコートされた事もございません。
父からモルガン伯爵様に婚約のお断りを申し上げたはずですが?」
「クレイトン副団長ごときが、断れると思っているのか? クレイトンが男爵になれたのは、寄親である我が父の推薦があったからこそ。その恩を忘れたとでも?
騎士団随一の実力者と縁続になるというのは、俺にとっても父にとってもおいしいからな。
俺がこの騎士団で上り詰めるには、お前の親父の後ろ盾が必要なんだよ。でなければ誰か好きこのんで、剣の腕しか取り柄のないガリガリのっぽを嫁にするか。
お前はお飾りでいればいいんだ。言う事をきいていれば、生活の不自由はさせないさ」
「貴様っ!」真っ赤になって憤慨するアーサーを、ステファニーは止めた。
「お話はそれだけですか?婚約の話は無くなったと聞いておりますので、わたくしにはこれ以上モルガン様のお話に付き合う義務はございません。練習に戻りますので失礼」
アーサーを引っ張って立ち去ろうとするステファニーに、ヘンリーはとどめの言葉を投げつけた。
「ああ、そうそう。今度の模擬戦な、俺も選ばれたんだよ。選ばれたっていうか、お前の親父を脅してねじ込んだ。
お前さあ、負けろよ。少なくとも俺に勝とうなんて考えるなよ。寄親の力は強いからな、お前の親父が副団長でいられるかどうか、よく考えるんだな」
*
「済まなかった。あんな場面に付き合わせて」
ステファニーはアーサーに頭を下げた。
「この事、黙っていて貰えるだろうか」
アーサーは怒った。
「何言ってるんだよ!あいつはクレイトンに八百長をしろ、って脅かしてるんだぜ。その理由が、婚約者だからって?はあ?大馬鹿野郎だ、あいつ。
クレイトンがそんな脅迫に乗る必要はない。これは騎士団を揺るがす事件だよ。君は心配するな、なんとかしてあいつを模擬戦に出られないようにする。
君に婚約者がいて、そいつがあんなに失礼な野郎で、おまけに騎士団員だってことが、許せん」
ステファニーは力無く項垂れた。
「父は、元々平民なのだが、戦で武勲をたてその功績から騎士爵を賜ったんだ。
父は部下たちから慕われていたので、騎士団幹部への推薦が上がっていた。しかし爵位が足りなかった。
そこへ口を出したのがモルガン伯爵なんだ。伯爵の口添えで父は男爵になった。そして副団長に抜擢された。
モルガン伯爵は、父に爵位の世話をする代わりに、息子のヘンリーを騎士団員として採用するようにと脅したんだ。
寄親の言うことがきけぬなら、娘のわたしの将来を潰すと脅されたそうだ。
公平明大なはずの父が、わたしのせいで伯爵の言いなりになってしまった。わたしのせいなんだ……」
アーサーは、涙をこらえるステファニーの肩をそっと抱いた。
「君は悪くない。お父上も悪くない。……悪いのはモルガン伯爵とその息子だ」
ステファニーの腕前は相当のもので、長い黒髪のその一筋すら乱すことなく、また汗ひとつもかかずに訓練生達を打ち負かすその姿は、まるで一輪の黒薔薇のようであった。
そのステファニーに負けても負けても挑み続けるアーサーは、まるで巨大な風車に挑む愚かで身の程知らずだと、そんな噂が騎士団や見習い訓練生の間で流れるようになったが、アーサーは全く気にしていなかった。
「クレイトン、練習の相手を頼む」と、毎日試合を申し込み、毎日負けているのだ。
初めは「パートナーになったからには練習相手はしてやるが、もっと強くなってから来い」と、面倒くさそうにしていたステファニーだったが、毎日相手をして毎日打ちのめして、それでも毎日やってくるアーサーに慣れてきたようだ。
転がっても多少の怪我をしても、アーサーは根を上げなかった。
なにしろ、王都にいられるのは1年だけ。もう既に5ヶ月が経っていた。
訓練自体は厳しいがやり甲斐がある。
アーサーは王都に来て以来、身長が少し伸びて、華奢だった身体は細身ながら筋肉質になっていた。
訓練生全体による走り込み、基礎練習や他の訓練生との模擬戦で、アーサーは上位に食い込むようになった。
まさに訓練と本人の意地の賜物であるが、肝心のステファニーからは一本も取る事ができなかった。
「アーサー、お前頑張るよなあ」
訓練生の仲間たちは、ひたむきに練習に取り組むアーサーに感心していた。
「クレイトンに勝つのは厳しいぞ。お前だけじゃなく、俺らの誰も勝てねぇ。あいつはこの中じゃ最強だ」
「それにしても不憫だよなあ。クレイトンにはお前の気持ちは届いてないんだな……」
アーサーが強くなりたい目的は、ステファニーに釣り合う男になりたいという不純なもので、周りの仲間たちにはその恋心は丸わかりなのだ。いつも打ちのめされて相手にもしてもらえないアーサーを、彼らは温かく見守っていた。
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見習い訓練は本人の希望する限り何年でも在籍できるが、一年以内に結果を出せないというのはすなわち、才能が無いということだ。
訓練生たちはそれぞれ、この一年で入団資格を得る為に懸命に励んでいた。
その入団資格を手に入れるための第一弾として、来月のトーナメント戦が行われる。
見習い訓練生達でグループ勝ち抜きトーナメントを行い、勝ち残った4名が、騎士団の若手騎士達と模擬戦を行なう。
この模擬戦は王都でも名物になっており、かってはロックフィールド家の長男アランも、その護衛騎士クリフも出場した事があった。伝統的な行事でもあり、市民たちも観覧できる。
模擬戦に出場できるのは栄誉といえる。
さて、トーナメント戦の組み分けで、アーサーはステファニーとは別の組になった。
16名ずつが4組に分かれて競い合う。
アーサーとステファニーはそれぞれの組で、無事に代表に勝ち残った。
ステファニーから一本取りたい、その一心で厳しい訓練に耐え、公爵家の護衛騎士たちと打ち合わせをして鍛えていたアーサーは、知らぬ間に随分と剣の腕を上げていたのだった。
選ばれた4名と若手騎士による模擬戦は2週間後に決まった。
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そんな中、アーサーの気持ちを揺るがす事件が起きた。
模擬戦を控えてステファニーとの練習を続けているところへ、騎士服を着た若者が近づいてきたのだ。
「ステファニー、まだこんな事をやっているのか?
そんな事をしても無駄無駄。お前はお飾りの妻になるんだから、刺繍とかダンスとか、そういった女らしいことをしていればいいんだよ」
やたらと失礼な物言いの男にアーサーはムッとした。
「随分と失礼ではありませんか?見たところ騎士団の方のようだが。」
「ん?人に尋ねる前には自分から名乗ることだな。まあいい。今回は特別に教えてやろう。
俺はヘンリー・モルガン。モルガン伯爵家の嫡男だ。それで、この女は俺の婚約者だ。なあ、ステファニー?」
「そのお話は無くなったはずです。モルガン様には好いた女性がいらっしゃるのは有名です。常に連れ歩いていらっしゃる。わたくしは一度たりとモルガン様からエスコートされた事もございません。
父からモルガン伯爵様に婚約のお断りを申し上げたはずですが?」
「クレイトン副団長ごときが、断れると思っているのか? クレイトンが男爵になれたのは、寄親である我が父の推薦があったからこそ。その恩を忘れたとでも?
騎士団随一の実力者と縁続になるというのは、俺にとっても父にとってもおいしいからな。
俺がこの騎士団で上り詰めるには、お前の親父の後ろ盾が必要なんだよ。でなければ誰か好きこのんで、剣の腕しか取り柄のないガリガリのっぽを嫁にするか。
お前はお飾りでいればいいんだ。言う事をきいていれば、生活の不自由はさせないさ」
「貴様っ!」真っ赤になって憤慨するアーサーを、ステファニーは止めた。
「お話はそれだけですか?婚約の話は無くなったと聞いておりますので、わたくしにはこれ以上モルガン様のお話に付き合う義務はございません。練習に戻りますので失礼」
アーサーを引っ張って立ち去ろうとするステファニーに、ヘンリーはとどめの言葉を投げつけた。
「ああ、そうそう。今度の模擬戦な、俺も選ばれたんだよ。選ばれたっていうか、お前の親父を脅してねじ込んだ。
お前さあ、負けろよ。少なくとも俺に勝とうなんて考えるなよ。寄親の力は強いからな、お前の親父が副団長でいられるかどうか、よく考えるんだな」
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父は部下たちから慕われていたので、騎士団幹部への推薦が上がっていた。しかし爵位が足りなかった。
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寄親の言うことがきけぬなら、娘のわたしの将来を潰すと脅されたそうだ。
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