突然ヒロインとなったマリアンナの恋愛事情〜女装の王子様に囲い込まれました

牧場のばら

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番外編

いつか王子様が〜Someday my Prince will come 1

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「世は全て事もなし、なんて嘘ばっかり。うまくいかない事の方が圧倒的に多いのだもの」

 ロレッタは読みかけの本を閉じるとため息をついた。

「まあまあ、お嬢様。ため息なんかついていると幸せが逃げていきますよ。家に閉じこもってばかりでなく、少しは気分転換に出かけるとかなさいませ」

 ロレッタはさらに大きなため息を吐く。

「ジェーン、外に出てもなーんにも良いことなんてないわ。良いことが落っこちてたら、わたくし全て拾い上げているわよ。
 デヴィッド様にはマリアンナ様がいらっしゃるし、この領地には『恋人たちの散歩道』に出てくるような、素敵な方は見当たらないわ」

「お嬢様、小説にのめり込むのは勝手ですけどね、現実をご覧にならないと幸せなんてやってきませんよ」

 ジェーンが冷たい、と愚痴をこぼしながらもロレッタは出かけることにした。家にいたらお父様とお母様と、それから侍女のジェーンの小言が待ってるばかりだもの……




 12歳で出会ったロレッタの王子様こと、デヴィッド・ロックフィールド公爵子息は、この度めでたくマリアンナという奥方を得て、公爵家の持つ爵位のひとつエインズワース子爵を受け継いで、当地の領主館へとやってきた。
 夢見る乙女ロレッタは、ちょっとしたやらかしをしてしまい、父から謹慎を命じられていたのだが、迷惑をかけた相手のマリアンナ夫人が、
「ロレッタ様とお友達だから怒ってはいない」と申し出てくれたこともあって比較的自由に過ごしていたのだが、本人がすっかり意気消沈して引き篭もり生活を続けているのだ。

 子どもの頃から仕えてくれる侍女ジェーンには、
「そんな事でどうするんです!お嬢様から好奇心を取ってしまったら、ただの美少女にすぎません」と小言を言われた。

 母からは見合いの釣り書きと絵姿を机にどっさり置かれたし、厳しい父からは、これ以上子爵家に迷惑をかけるようなら考えがあると脅かされていた。

「お父様は、わたしの事なんてお好きじゃないのよ。仕事しごとで」

「何ですか?今度は、どこぞの貴族の隠し子の美少女が虐げられて、王子様に助けられるのを待ってる、ごっこですか?
 お嬢様、今日は特別に本屋へ寄りますからね。ほら、楽しみが出来ましたでしょう?
 ただし町ではわたしや護衛から離れないように、くれぐれもお気をつけくださいよ」

「はぁい」

 ロレッタ・オルコック15歳、夢見る乙女は、いつか王子様が自分を迎えにくることを諦めてはいない。
 なぜなら、それが妄想とは言いきれないような、美少女なのだ。夢見るくらいは良いではないか。




 町へ出るのは久しぶりだ。

 侍女ジェーンは母のお使いで町へ赴くことがある。いつもはジェーンに買ってきてもらう少女小説であるが、今日は特別に本屋に連れて行ってくれるというので、ロレッタはウキウキしていた。

 銀髪にアメジストの瞳のデヴィッド様はそれはもう美しい方で、あんなに綺麗な方を見た事がないと思っていたが、たまに領地にいらっしゃる双子のお兄様のジェイムス様は当然として、その奥方のエルリーヌ様もまた本当に本当に美しかった。
 マリアンナ様だって絶世とは言えぬまでも、はっと目を引く整った顔立ちだし、王都から来る人たちの綺羅きらしさと比べて、ここの田舎なことと言ったら。

(こんな所に王子様がいるわけない)

 ジェーンを馬車の中で待ちながら、町を行き合う人々をぼんやり眺めていたロレッタだが、手持ち無沙汰になって外に出てみたくなった。
「ねえ、少しだけ出ても構わないかしら?先に本屋に行ってみたいの」
 ロレッタは護衛の男に声をかけた。

「いけませんな。せめてジェーン殿が戻られるまで待ちませんか?」

 ロレッタはむくれた。
 ひとりで出歩けないから、偶然の出会いなんてないのよね……


 
 『恋人たちの散歩道』のローレンス様とオリビエ様は、本屋で出会うの。
 2人が伸ばした指の先が触れるのよ。はっとして手を引くのだけど、熱が逃げなくて。
 それで、『申し訳ない、レディの指に許しもなく触れてしまいました。お詫びにお茶でも?』ってローレンス様が誘ってくれるの、ああ素敵。

 ロレッタが幸せな夢に浸っていると
「おいっ!ロレッタ・オルコック。先に買おうとしたのは俺だぞ」
 そんな妄想を破る声が耳元で響いた。

 ロレッタは胡乱げな顔で振り返った。案の定、そこには見知った顔があった。
 はぁ……ロレッタはひときわ大きなため息をついた。

「な、なんだよ」

「ローレンス・アーチャー。そんなに大きな声を出さなくても聴こえてますわ。
 あ、本ね。どうぞ。ご勝手に」

 ロレッタは踵を返して、本屋を出ようとする。ジェーンがさっと側に寄り、ローレンスに会釈をした。

「いいのか?お前、これが欲しかったんじゃないのか?」
 ローレンスは鼻白んで尋ねたが、答えたのはジェーンだ。

「アーチャー様、お嬢様には不要なようでございます。お手を煩わせましたことお詫び申し上げます」

 それは有無を言わさぬもので、ローレンスは所在無げに立ち尽くしたまま、去りゆくロレッタの背中を見ていた。

「ほんっと、最悪よ。よりによって、ローレンス・アーチャーに会うなんて。しかも『恋人たち外伝』を取り合おうとしたなんて。
 それにしてもあいつ、男のくせに恋愛小説を読んでるのね。ふふ、弱みを握ったわ!」

「お嬢様。言葉遣いが悪うございますよ」

「だって、ジェーン。ローレンスってばいつも生意気なのよ。わたしたち幼馴染ではあるけど、友達ってわけじゃないわ。なのにいつも突っかかってくるし、わたしのやる事なす事気に入らないみたいですぐ怒るの。一体何様のつもりなのかしら。
 第一、ローレンス様と同じ名前だというだけでも不愉快だわ。
 ローレンス様はね、金色の髪に青い目なのよ。あいつは、ただの茶色よ」

「お嬢様。アーチャー様はお父上の親友のご子息ですよ。滅多な事を仰ってはいけません」
 ジェーンは呆れたように言った。

「それに、ここだけの話ですけどね、ローレンス様にはたくさんの婚約の申し込みが来ているそうですよ。
 お父様のアーチャー男爵に似て、精悍なお顔付きをされてますものね。
 剣の腕前もかなりのものだと聞いておりますよ。ご領主様がローレンス様を気に入って、学校卒業後は子爵家の家臣になると伺っていますよ」

 ロレッタは、あら、そうなの、、と答えたが、内心は焦っていた。

(あのローレンスが婚約?そしてデヴィッド様の家臣に?)
 
 何故だか悔しくなり考え込んだロレッタの姿を、ジェーンは微笑ましく見つめていた。
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