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第六話「そう言えば、星祭りってもうすぐですよね」
しおりを挟む数日後。
シュネーとスタッグは王都から少し離れた海辺にいた。
そこは魔獣の目撃情報も少なく、釣りをするには絶好の穴場である。
かくいうシュネーとスタッグは、ごつごつとした岩場に腰を下ろし、釣りをしていた。
「シュネーさん! 海ですよ、うーみー! いやぁ、やはり心躍りますねぇー」
スタッグは楽しそうにそう言った。
海賊であるスタッグには、やはり陸よりも海の方が居心地が良いのだろう。普段よりもイキイキとしているようにシュネーには見えた。
「私も海の近くに来たのは久しぶりですねぇ」
「そうなんですか」
「買い物以外だと、馬車で王城と家を行き来するのがほとんどでしたので」
「あー」
なるほど、とスタッグは笑った。
さて、二人がここで何をしているかと言うと。
ただ食料を獲りに来た、というわけではない。もちろんそれもあるにはあるが、一番の目的は記憶である。
シュネーが魔法を使うには、相手の中に自分の記憶を貯める事が必要だ。
スタッグに掛けられた石化の呪いを解くための薬や道具の準備は出来たが、一番の問題は記憶である。
どのくらい必要か、というのは魔法使いの感覚によるので、はっきりと言葉には出来ないが。
それを出来るだけ早く貯めようと、こうして想い出作り、のような事をしているのである。
あと、ふわっとした記憶よりは、はっきりとした記憶の方がエネルギー的な意味では良かったりする。
とは言え。シュネーの『想い出作り』のレパートリーは少ない。
女の子同士ならば買い物とか、趣味が合えば本の話をしたりだとか、そういう事をすれば良いのだが。
如何せんスタッグのような大人の男性と、遊ぶという経験がシュネーにはなかったので、とりあえず海関係を引っ張り出してみた、という事である。
魚も釣れて一石二鳥、なんて事をシュネーは少し思った。
魚が連れたら鍋にしようか、それともシンプルに焼き魚にしようか、色々迷う所である。
今日の夕ご飯を想像してシュネーがワクワクしていると、ふっと美味しそうに食べてくれるスタッグの姿が浮かんだ。
――――シュネーさんの料理美味しかったので、昨日の晩からワクワクしていました。
先日言われた言葉を思い出して、シュネーの顔に、にへら、と締まりのない笑顔が浮かぶ。
また、美味しいって言って貰えるだろうか。美味しいって言って貰えるといいな。シュネーは想像して、ソワソワした気持ちになった。
ちらり、と隣のスタッグを見上げれば、彼は鼻歌を歌いながら、釣糸の先を眺めている。
「大きいの釣れると良いですねぇ」
「ですねぇ。いやぁ、僕、夕ご飯のために頑張りますよ」
「スタッグさん、魚料理はどんなのが好きですか?」
「僕ですか? そうですねぇ、焼いたのも良いですけれど、鍋も捨てがたい……刺身もいいなぁ……」
スタッグは「ううむ」と悩み始める。
その様子が何だか可愛くて、シュネーは小さく笑った。
「作れるものでしたら、作りますよ」
「えっ本当ですか! やった、ちょ、ちょっと待って下さいね! 考えますから!」
シュネーの提案に、スタッグはパッと顔を輝かせる。
さきほどよりも真剣に考えだしたスタッグを見ながら、喜んでくれているようだ、とシュネーは嬉しく思った。
さて、喜んでくれるのならば、頑張って魚を手に入れなければならない。
万が一、魚が手に入らなかった時は王都で買って帰ろう。そう考えながら、シュネーは釣竿を握り直した。
そうして今度は釣糸の先を眺めた。
見えるのはどこまでも続くかのような水平線と青い空だ。海と空の境界を、海鳥がゆったりと飛んでいる。
ふと、その空に、昼間にも関わらず星が見えた。
海の女神の星、と呼ばれるものだ。毎年この時期になると、昼夜問わずに輝いて見える星である。
そう言えば、とシュネーは思った。
「そう言えば、星祭りってもうすぐですよね」
星祭りとは海の女神に感謝を捧げる祭りの事だ。
海の女神の星が見えるこの時期に行われる、他所で言う所の収穫祭のようなものである。
神事のように仰々しい事はしないが、町中が飾り付けられ、様々な屋台が並び、とても賑やかな一日になるのである。
誰もが笑顔で、誰もが楽しそうであったと、シュネーは記憶している。
星祭りと聞いて、スタッグも大きく頷いた
「あ、いいですねぇー星祭り! 王都でってわけじゃないですけど、こっそり混ざってるんですよ、僕らも」
「おお、そうなんですか」
「はい。ほら、花火とか綺麗ですし! あと屋台とかも美味しいですし!」
「イカヤキ食べたいですねぇ」
「あっいいですねぇー食べにいきましょうかー」
「ですねぇー」
シュネーとスタッグは、星祭りの話題で盛り上がる。
行こう、とスタッグは言ったが、その頃には魔法が完成し、スタッグは忘れている事だろう。
けれどシュネーは行きたいな、と思ったので笑顔で頷いた。
「そう言えば、星祭りってあれですよね。花火の光を好き合う二人が浴びたら末永く結ばれるって言うじゃないですか」
ふと、スタッグが思い出したようにそんな事を言い出した。
星祭りにまつわる伝説の一つだ。実際どうかはともかくとして、星祭りの日に恋人同士になったという話はあちこちで聞く。
星祭りで、花火の下、という最高のシチュエーションだ。ここぞと決めて告白する人は多いのだろう。
シュネーは「ええ」と頷いた。
「運命って奴じゃないですか。憧れますねぇー」
「そうですねぇ」
運命に憧れる、と話すスタッグ。意外とロマンチストのようだ。ふふ、とシュネーは微笑む。
良い人だ、とシュネーは思った。シュネーはこの大柄な海賊を好ましく思っている。
だから。
だから出来る限り力になりたいと、そう思った。
シュネーは微笑んでいた顔を、真面目なそれに戻す。
「……ところで、スタッグさん、前から聞きたかった事があるんですが」
「はい」
「お仲間はどうされました?」
「――――」
シュネーの言葉に、スタッグは固まった。驚いているのだろう。
じっと見つめるシュネーの眼差しに、スタッグは少しあたふたしたあと、観念したように息を吐いた。
「……僕に仲間がいるって、いつから気付いていました?」
「いやぁ、だってスタッグさん、一人で海賊やってそうじゃないから。それに今、僕らって言っていたじゃないですか」
シュネーがそう言うと、スタッグは「しまったなぁ」と頭の後ろに手を当てた。
そして少しして、
「……僕の仲間は全員、バシリスクによって石化してしまいました」
と話し出した。
「気付かなかった。本当に、それだけです。うっかりしていました。それで、この様です」
スタッグは右腕を撫でる。その声には後悔の色が強く滲み出ていた。
「情けない話ですよね。そして僕だけ、生き残っちまいまして」
「……それは、私の家に来た日ですか?」
「えっと……前々日くらいですね」
スタッグの言葉にシュネーは顎に手を当て考える。
シュネーの家にスタッグが来た前々日。それならば、まだ二週間は経っていない。
バジリスクの石化の呪いは、まともに受ければ直ぐに身体は石になる。だが、それは直ぐに死ぬ、というわけではない。
即死、ではなく、毒に近い。バジリスクの石化の呪いは、じわじわと相手を殺すタイプのものなのだ。
体が石化しても、体の機能の活動が止まるには、ひと月ほどの猶予がある。
シュネーが急かしたのは、石化したあとでは記憶を貯める事が出来ないからだ。
つまり。
「行きましょう」
「え?」
「それならば、まだ間に合う可能性があります!」
ひと月経っていないのならば、スタッグの仲間はまだ生きているはずだ。助けられる可能性があるのである。
シュネーは立ち上がり、スタッグに手を差し出す。スタッグはその手とシュネーを交互に見比べる。
「でも、記憶が……」
「魔法を使う内容が同じなら?」
「範囲を広げられる!」
ハッとしてスタッグはその手を取った。そして立ち上がる。
スタッグの顔にはっきりと、希望の色が見えた。
助けなければと、助けたいとシュネーハ思った。
その時。
「――――どこへ行くつもりです?」
いるはずのない声が聞こえた。
シュネーとスタッグが振り返ると、そこには数人の兵士を従えたコールマンの姿があった。
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