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90.誰一人欠ける事なく

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 結婚式が終わると、すぐに同じホテル内で披露宴が始まる。
 もう一度新郎新婦の入場から始まって、同じクラブチームの選手に乾杯の音頭をとってもらった。
 俺達は未成年だから、飲み物はノンアルコールのシャンパンだ。
 食事が出されて歓談の時間になると、次々と俺達に挨拶をしにやってくる。新郎新婦は食べる暇がないってホテルの人が言ってたけど、本当だな。
 間違えてビールを注いで来る人もいたけど、それは飲むフリだけして、全部足元のバケツの中へと入れた。ノンアルコールのシャンパンも、あんまり飲んでたらお腹がタプタプしてきたから、全部バケツの中だ。勿体ねぇな。
 病院の仲間も挨拶に来てくれるかと思ったけど、大人数だったからか遠慮してるみたいだった。別に来てくれたら良かったのになぁ。

 挨拶にやってくる人が途切れた所で、次のイベント……ケーキ入刀に移る。
 ケーキは、パティシエになった拓真兄ちゃんに頼んで作ってもらった。
 その拓真兄ちゃんが、大きなサービスワゴンに溢れんばかりのケーキを乗せて、一緒に入場してくる。
 ホテルの司会者が、『新郎颯斗さんのご友人、パティシエの池畑拓真様にお作り頂いたものです』と紹介してくれている。
 俺は思わず身を乗り出して見てしまった。すげぇな、超でけぇケーキ。長方形で、フルーツがてんこ盛り。ホワイトチョコのプレートには、ストロベリーチョコでバラのデコレートがされてる。その上には〝Happy Wedding Hayato & Manami〟の文字。
 俺はお菓子の事なんか全然分かんねぇけど、すげぇ気合い入れて作ってくれた物だっていうのは分かった。
 俺と真奈美は司会者に促されてケーキの前に立つ。その隣で拓真兄ちゃんはドヤ顔してる。

「すげーな、コレ! 拓真兄ちゃんサンキュー!!」
「おう。約束だったもんな! むしろ、俺に作らせてくれてありがとうな。結婚おめでとう、ハヤト!」

 曲が変わって、俺と真奈美でひとつのナイフを手に取る。
 沢山の人がカメラを構えているのを確認してから、司会者が『ケーキ入刀です』と声を上げた。俺達は同時に力を入れて、ケーキにナイフを入れる。カメラのフラッシュを沢山浴びて、気分は有名人だ。
 その後はお決まりのファーストバイト。お互いにケーキを食べさせる演出で、俺は真奈美の大量に取ったケーキに顔を突っ込むようにして食べる。
 鼻にクリームがついて、親指で拭き取ってペロッと舐めた。マジ美味いな、このケーキ。
 そのイベントが終わると、拓真兄ちゃんが出席者に行き渡るように綺麗に切り分けて、スタッフに配ってもらった。その美味しさに皆満足してたみたいだ。一番満足してるのは、拓真兄ちゃんみたいだったけど。

 ケーキ入刀が終わると、真奈美はお色直しをするために出て行った。
 俺はその間に席を立って、リナ達のテーブルに向かう。久々だからな、俺も話したい。

「ハヤトお兄ちゃん!!」

 テーブルに近付くと、リナが喜んで声を上げてくれた。香苗と同い年だから、小学六年生だな。
 めちゃくちゃ大きくなった。薄紫色のパーティドレスが、もっと大人っぽく見せてる。

「リナ、皆、楽しんでくれてるか?」
「はい。花嫁さんの真奈美さんはお綺麗だし、結婚式を堪能させて頂いてます」

 相変わらずしっかりした口調は、中学二年になった桃花だ。女の子ってすげぇな、元々美人になりそうな顔はしてたけど、超美人になってる。
 でもちょっと堅苦しい雰囲気は、昔のままで懐かしい。

「ハヤトお兄ちゃん、結婚おめでとう……っ」

 一生懸命に声を上げてくれたのは、当時はだんまりだったユキ。

「ありがとうな。でかくなったなぁ、ユキ。学校は楽しく行けてるか?」
「うん、行ってる。楽しい」

 その答えに、俺の顔から笑みが漏れる。小学五年生なら当たり前の事なんだろうけど、こうやって普通に話してくれるのは嬉しいな。
 次に俺は、二人の男子に目を向けた。

「守、祐介、久しぶりだな! 元気にやってるか?」

 祐介、守小学四年だ。四、五歳だった頃から考えると、びっくりするくらい大きくなってる。
 あの泣き虫だった祐介はキリっとしてるし、しっかり者の守は見るからに頭の良さそうな顔してるよ。

「元気だよー! 僕もサッカー始めたんだ。後でサイン頂戴!」
「おお、勿論!って祐介もサッカー始めたのか!」
「ハヤトくんの活躍を見て、すっかり憧れちゃって」

 木下さんが「いつまで続くか分からないけどね」と付け足しながら苦笑いしていた。でも、俺に憧れてサッカーを始めてくれるって、嬉しいな。

「けど祐介は将来、消防車になるんだろ?」
「へ? 消防車? 消防士の間違いじゃないの、ハヤト兄ちゃん」
「お前、昔は消防車になるって言ってたんだぜ」
「ええー?? 覚えてないよ!」

 このテーブル席で、笑い声が起こる。昔の事を言われた祐介は、少し困惑気味だ。

「守は今も、医者になりたいのか?」
「うん、なるよ」

 おお、すげぇ自信。きっぱり言い切ったよ。

「まもちゃん、すごく頭良いんだよ。塾も通ってるんだって!」
「普通だよ。ユウくんが勉強しなさ過ぎなんじゃない?」
「守、そんな事言わないの! それぞれのペースがあるんだから!」

 守の言葉に、斎藤さんが慌てて入って諌めている。
 何にしても、元気そうで良かった。
 あの時の仲間が、誰一人欠ける事なくここに揃ってる。
 それが、俺には奇跡にように感じて。
 こうして約束の再開を果たせた事に、心から感謝した。

 その後も結婚式は続いて、俺はもちろん、皆も満足そうな顔をしてくれていた。
 新たな旅立ちを、祝って貰えた幸せ。
 これからどんな運命が待ち受けていても、今の気持ちがあれば乗り越えられる気さえする。

 もちろん、一人の力でじゃない。

 一人じゃどうしようもなくて、どん底から抜けられなくなる時が絶対にある。それを俺は知っている。

 だから、助けて。助けられて。

 俺は、これからも進んでいく。

 真奈美や、家族……そして仲間達と一緒に。
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