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50.さんさたん
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酷い下痢と口内炎の症状は、二週間ほど続いた。
最初はこのままどんどん酷くなるんじゃないかと本当に怖かったけど、日が経つにつれて徐々に落ち着いてきた。
味覚障害の方はまだ続いてるけど、何とか食べられるようになっている。
「もしもし、敬吾か? うん、もう大丈夫そうだ」
あれから敬吾とは、二、三日置きに電話のやりとりを続けている。
お腹の痛みがなくなったと言うと、真底ホッとしたようで、吐き出す息が聞こえてきた。退院したら、マツバと敬吾の二人に会いに行かなくちゃな。
定期報告をして電話を切ると、ドンドンと扉の叩かれる音がした。誰だと思いながらベッドを降りる。
「ハヤトお兄ちゃんっ!」
「ハヤトおにちゃ! さんさたん来たー!」
「さんさたん?」
守と裕介の声だ。俺は扉のガラス窓からローカを見る。ガラスに張り付いているチビ達、そして少し離れたところで斎藤さんと木下さんがおしゃべりしていた。他には別に、誰も……
「ほら、見てー!」
そう言われて、俺は小窓に顔を押し付けて守の指差した清潔室の扉の方を見る。すると清潔室の向こうに、赤い服と帽子を被った、白ヒゲの老人がいた。
「うおお、サンタクロース!!」
「そう、さんさたーん!」
「サンタさんだろ、裕介」
「うん、さんたたん!」
サンタタン……なんかタルトタタンみたいになっちゃってるけど、まぁいっか。
「ハヤトお兄ちゃんにもプレゼントくれたよー!」
「お、マジで?」
よくよく見てみると、守と裕介の手には何やらプレゼントの袋がある。守は両手に二つだ。そのうちの一つが俺の分なんだろう。
「サンキュー! サンタさーーん!!」
俺が扉をバシバシ叩きながらそう叫ぶと、サンタクロースは手を振って帰って行った。
「サンタさん、ありがとう~!」
「さんさたん、明日も来てねー!」
守と裕介も嬉しそうに手を振っている。明日は来ないと思うけどな。来るのはまた一年後だ。
「サンタクロースに会えて良かったなー! 何貰ったんだ!?」
「んっとね~」
チビ達はそう言いながらごそごそと袋を開けている。中身が気になったのか、斎藤さんと木下さんもおしゃべりをやめてやって来た。
「あ! じゆうちょう~!」
何だ、ノートか。この分じゃ、俺のもまた勉強グッズが入ってそうだな~。
「お母しゃん、これ何~?」
ノートの他に、何か入ってるらしい。母親である木下さんが、裕介の手から何かを取り上げて見ている。
「あ、これ、アルバムかな? 写真を入れるやつだよ」
大きなものじゃなく、百円くらいで売ってそうな小さなアルバム入れだ。多分、俺にも同じような物が入ってるんだろう。
まぁプレゼントの中身よりも、サンタクロースに会って何かを貰ったっていうのが一番良い思い出になりそうだよな。守も裕介もめちゃくちゃ喜んでるし、そんな姿を見ると俺も嬉しい。
「ハヤトくんの分は、後で看護師さんに渡しておくね」
「うん、ありがとう斎藤さん」
俺はこの扉を開けられないので、そのプレゼントをすぐに受け取る事は出来ない。まぁ、今すぐ欲しいってもんじゃないから良いんだけど。
「そ、それでね、ハヤトくん……伝えなきゃいけない事があるんだけど……」
そう言って斎藤さんは何故か言いにくそうに眉を下げている。
え、なんだ? 怖い。
俺、なんかしたか?
「な、何?」
「言い出しにくいんだけど……」
「う、うん」
「実は……守、明日退院なの」
「……え!?」
予想外の言葉に、俺は目を丸くした。
退院って!! めでたい事じゃないか! なんで言いにかったんだ??
「ごめんね、ハヤトくんもユウくんも、まだまだ入院生活が続くのに、うちだけ……」
「何言ってんだよ! 退院、やったじゃんか! 良かったなー、守!! 家に帰れるんだぞ!」
「うんー!!」
そうやって笑う守とは逆に、斎藤さんの顔は申し訳なさそうに歪んでいる。
「もう、気にしないで良いって言ってるんだけど、さっきからこの調子!」
木下さんも守が退院するのは嬉しいんだ。多分、仲が良かったから斎藤さんが先に居なくなっちゃうのは寂しいんだろうけど。でもそれとこれとは別だ。俺も守と会えなくなるのは寂しいけど、退院するのは素直に喜べる。
やっぱり誰だって、家が一番だもんな!
「ごめんね、二人とも……ありがとう」
「あれ、でも守は骨髄移植しなくて大丈夫だったのか?」
確か裕介の方は臍帯血移植予定だって言ってた。二人は同じ急性リンパ性白血病だ。裕介はして、守はしないのか?
「うん、守は骨髄移植はしなくても治るんだって。でも退院してから二、三ヶ月毎にワンクールだけ抗がん剤治療しに来なきゃいけないんだけどね」
「っげ、マジ? 一回退院しておいて、また一ヶ月入院とか……大変だなぁ……」
「でも、まぁ、二人のように骨髄移植するよりは、楽、かな?」
骨髄移植はデメリットもあるけど、それで治れば入院はもうないからな。一クールの入院って結構長いから、その度に荷物を持って来たり持って帰ったりは絶対大変だ。一ヶ月近くもいたら、本当に住んでるのと同じだからな。
「とにかく、退院おめでとう!」
「ありがと。また戻って来ちゃうけどね」
斎藤さんはそう苦笑しながら言った。
同じ病気でも早く退院になったり、移植をしたりしなかったり、退院後また入院しなきゃいけなかったり……色々なんだな。
何にしても、守は正月を家で過ごせるって事だ。その辺はやっぱりちょっとだけ、守が羨ましかった。
最初はこのままどんどん酷くなるんじゃないかと本当に怖かったけど、日が経つにつれて徐々に落ち着いてきた。
味覚障害の方はまだ続いてるけど、何とか食べられるようになっている。
「もしもし、敬吾か? うん、もう大丈夫そうだ」
あれから敬吾とは、二、三日置きに電話のやりとりを続けている。
お腹の痛みがなくなったと言うと、真底ホッとしたようで、吐き出す息が聞こえてきた。退院したら、マツバと敬吾の二人に会いに行かなくちゃな。
定期報告をして電話を切ると、ドンドンと扉の叩かれる音がした。誰だと思いながらベッドを降りる。
「ハヤトお兄ちゃんっ!」
「ハヤトおにちゃ! さんさたん来たー!」
「さんさたん?」
守と裕介の声だ。俺は扉のガラス窓からローカを見る。ガラスに張り付いているチビ達、そして少し離れたところで斎藤さんと木下さんがおしゃべりしていた。他には別に、誰も……
「ほら、見てー!」
そう言われて、俺は小窓に顔を押し付けて守の指差した清潔室の扉の方を見る。すると清潔室の向こうに、赤い服と帽子を被った、白ヒゲの老人がいた。
「うおお、サンタクロース!!」
「そう、さんさたーん!」
「サンタさんだろ、裕介」
「うん、さんたたん!」
サンタタン……なんかタルトタタンみたいになっちゃってるけど、まぁいっか。
「ハヤトお兄ちゃんにもプレゼントくれたよー!」
「お、マジで?」
よくよく見てみると、守と裕介の手には何やらプレゼントの袋がある。守は両手に二つだ。そのうちの一つが俺の分なんだろう。
「サンキュー! サンタさーーん!!」
俺が扉をバシバシ叩きながらそう叫ぶと、サンタクロースは手を振って帰って行った。
「サンタさん、ありがとう~!」
「さんさたん、明日も来てねー!」
守と裕介も嬉しそうに手を振っている。明日は来ないと思うけどな。来るのはまた一年後だ。
「サンタクロースに会えて良かったなー! 何貰ったんだ!?」
「んっとね~」
チビ達はそう言いながらごそごそと袋を開けている。中身が気になったのか、斎藤さんと木下さんもおしゃべりをやめてやって来た。
「あ! じゆうちょう~!」
何だ、ノートか。この分じゃ、俺のもまた勉強グッズが入ってそうだな~。
「お母しゃん、これ何~?」
ノートの他に、何か入ってるらしい。母親である木下さんが、裕介の手から何かを取り上げて見ている。
「あ、これ、アルバムかな? 写真を入れるやつだよ」
大きなものじゃなく、百円くらいで売ってそうな小さなアルバム入れだ。多分、俺にも同じような物が入ってるんだろう。
まぁプレゼントの中身よりも、サンタクロースに会って何かを貰ったっていうのが一番良い思い出になりそうだよな。守も裕介もめちゃくちゃ喜んでるし、そんな姿を見ると俺も嬉しい。
「ハヤトくんの分は、後で看護師さんに渡しておくね」
「うん、ありがとう斎藤さん」
俺はこの扉を開けられないので、そのプレゼントをすぐに受け取る事は出来ない。まぁ、今すぐ欲しいってもんじゃないから良いんだけど。
「そ、それでね、ハヤトくん……伝えなきゃいけない事があるんだけど……」
そう言って斎藤さんは何故か言いにくそうに眉を下げている。
え、なんだ? 怖い。
俺、なんかしたか?
「な、何?」
「言い出しにくいんだけど……」
「う、うん」
「実は……守、明日退院なの」
「……え!?」
予想外の言葉に、俺は目を丸くした。
退院って!! めでたい事じゃないか! なんで言いにかったんだ??
「ごめんね、ハヤトくんもユウくんも、まだまだ入院生活が続くのに、うちだけ……」
「何言ってんだよ! 退院、やったじゃんか! 良かったなー、守!! 家に帰れるんだぞ!」
「うんー!!」
そうやって笑う守とは逆に、斎藤さんの顔は申し訳なさそうに歪んでいる。
「もう、気にしないで良いって言ってるんだけど、さっきからこの調子!」
木下さんも守が退院するのは嬉しいんだ。多分、仲が良かったから斎藤さんが先に居なくなっちゃうのは寂しいんだろうけど。でもそれとこれとは別だ。俺も守と会えなくなるのは寂しいけど、退院するのは素直に喜べる。
やっぱり誰だって、家が一番だもんな!
「ごめんね、二人とも……ありがとう」
「あれ、でも守は骨髄移植しなくて大丈夫だったのか?」
確か裕介の方は臍帯血移植予定だって言ってた。二人は同じ急性リンパ性白血病だ。裕介はして、守はしないのか?
「うん、守は骨髄移植はしなくても治るんだって。でも退院してから二、三ヶ月毎にワンクールだけ抗がん剤治療しに来なきゃいけないんだけどね」
「っげ、マジ? 一回退院しておいて、また一ヶ月入院とか……大変だなぁ……」
「でも、まぁ、二人のように骨髄移植するよりは、楽、かな?」
骨髄移植はデメリットもあるけど、それで治れば入院はもうないからな。一クールの入院って結構長いから、その度に荷物を持って来たり持って帰ったりは絶対大変だ。一ヶ月近くもいたら、本当に住んでるのと同じだからな。
「とにかく、退院おめでとう!」
「ありがと。また戻って来ちゃうけどね」
斎藤さんはそう苦笑しながら言った。
同じ病気でも早く退院になったり、移植をしたりしなかったり、退院後また入院しなきゃいけなかったり……色々なんだな。
何にしても、守は正月を家で過ごせるって事だ。その辺はやっぱりちょっとだけ、守が羨ましかった。
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