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捨てられて救われて
聖恵魔法
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「キャシーちゃんったら。でも心配ね」
「転生者だから珍しかったんだと思いますけど。珍獣扱いですね」
「キャシーちゃんは可愛いわよ?」
「ありがとうございます」
本気にせずにお礼を言うと、同じテーブルのみんなにため息を吐かれた。
お茶会が終わると、お義父様とお義母様が足早に近付いてきた。
「キャスリーン、帰るぞ」
「そうね。早く帰りましょう」
私の手を引いて、急いで馬車溜まりに向かう。
「お義父様?お義母様?」
「まったく、『テンセイシャ』だから王家に迎え入れたい?キャスリーンをバカにしている」
「同感ですわ。侯爵領に隠してしまおうかしら」
どうやら大人の話し合いで私が転生者だからと、王子様の妃にという話が出たらしい。断っても断ってもしつこくて、対策を講じる必要があるのだとか。
「養子の手続きの際にもキッパリと断ったのに、いつまでも蒸し返しおって」
お義父様が激オコだ。
「宰相閣下、落ち着いてください」
「キャスリーン……」
「転生者だから王家に取り込みたいんですよね?私を気に入ってじゃないんですよね?」
「キャスリーンに宰相閣下と言われると、父親として認めていないって言われたような気になるな」
「すみません。役職名で呼んだ方が冷静になれるかと。それでどうなんです?」
「キャスリーンの事も気に入っているな、あれは。第4王子は側妃腹だし、後ろだてという意味でもフェルナー侯爵家はちょうど良い。キャスリーン、確認しておくが、王子妃になる気は?」
「ありません」
「キャシーちゃんなら何とかなりそうだけど。私達の自慢の娘ですもの」
「お義母様……」
王家のお茶会から我が家宛に公爵家、侯爵家、伯爵家からのお茶会の招待が増えた。お義母様宛だけれど、私を一緒に、と添え書きがしてあるから、実質は私目当てだ。公爵家のお茶会では当て擦りを、侯爵家のお茶会では牽制を、伯爵家のお茶会では痛くもない腹を探られた。
「嫌になってきました」
「そうね。でも、キャシーちゃんは頑張ってるわ」
「お義母様、こうなっては侯爵領に逃げる事も出来ませんわよね?」
「そうね。逃げたら悪評をたてられると思うわ」
「ですよね」
「それに……」
「護衛の数が増えたのと関り合いがありますか?」
「ごめんなさいね」
「お義母様もお義父様も悪くはございませんわ」
遅れに遅れた魔法の先生がやって来たのは、そんな時だった。水魔法の先生は、お義父様の弟、私の義叔父様に当たるジルベール様、光魔法の先生は、ブランジット公爵様の弟君。つまりは王家に連なるお方だ。名前はサミュエル様。
「キャスリーン、すまない」
「お義父様は悪くございませんわ。王家の要望でございましょう?」
「そうなんだが、すまない。断りきれなかった」
「魔法を教えてくださるだけなら、構いません。王家に縁付けだとか恩を着せないのであれば」
最初にこれをサミュエル様の前でやった。サミュエル様は苦笑してたけど、魔法は真摯に教えてくれた。
「キャスリーン、今日は水魔法と光魔法の複合魔法を使ってみようか」
ジルベール叔父様とサミュエル先生が揃っているなと思ったら、今日は混合魔法らしい。
「参考までに聞きたいんだけどね。前世ではカンゴシだったんだよね?」
「はい。専門職ですね。医師の指示の元、患者のお世話をする仕事です」
「あぁ、だから治癒魔法が早いんだ」
最初の光魔法の授業で、スッパリと腕を切ったサミュエル先生が言う。
「早いですか?」
「私が腕を切っても取り乱さなかったし」
「あの程度なら慣れてますから」
「どの程度までなら冷静でいられる?」
「そうですね。腕一本、足一本無くなったとか?押し潰されたとかでしたら」
「相当な怪我だと思うけど?」
「そうですね。1級の障がい者認定が出ます」
災害救助の現場に、看護師が直接出ることは少ない。前世の最後の記憶でどうして現場に居たのかは分からないけれど、ER勤務も経験があるから、そちら関連は慣れている。
「イッキュウノショウガイシャニンテイが何か分からないけど、光魔法は神聖魔法とも呼ばれている事は言ったよね?」
「はい」
「その神聖魔法を広範囲にと考えて作り出されたのが、ブレシングだ。水魔法と光魔法を混合して、1ヶ所に集めればブレシングアクア、広範囲に作用させればブレシングフォグとかブレシングレインになる」
「ウォーターボールに光魔法を作用させればブレシングアクアに、レインに作用させればブレシングレインに、フォグに作用させればブレシングフォグですか?」
「そうだね。複合魔法は難しいから、焦らなくて良いよ」
イメージは出来る。手のひらにウォーターボールを出しながら、光魔法を溶け込ませていく。光魔法のイメージは治癒。組織が正常になるようにと祈りを込めた。
「出来ました」
「「え?」」
「いやいや、本当に?」
サミュエル先生が戸惑ったように言う。ジルベール叔父様は呆れたように私を見た。
「確かめなきゃ分からないよね」
「また切るんですか?」
「それが一番手っ取り早いからね」
「えっと、折れちゃった花とかに試してみるのは?」
まさに指を切ろうとしていたサミュエル先生が止まった。
「ジルベール様、外に出ましょうか」
「そうですね」
出した水をコップに入れて、庭に出る。庭師のおじいさんに頼んで、折れて処分寸前の花を1株貰った。
折れた部分にそっと私の水をかける。巻き戻ったように花が元気になった。
「えぇっと……」
「予想外だね」
ジルベール叔父様とサミュエル先生が同時に呟く。ポカンとしていると、ジルベール叔父様とサミュエル先生が何か話し合いを始めた。十中八九、私のブレシングについてだろう。長引きそうなので魔法の練習をしながら待つ。
「キャシーちゃん、王家は嫌いなんだよね?」
「王家そのものは特に好きでも嫌いでもありません。取り込まれるのが嫌なだけです」
「教会は?」
「もしかして奉仕活動でしょうか?」
「奉仕っていうか……、まぁ、奉仕だね。報酬は出ないし。王家からは出来るだけキャスリーン嬢の意向に添うようにと指示されている。そのね、キャスリーン嬢のブレシングアクアを教会に預けてみないかい?」
「私の名前が出ないのでしたら。もちろんお義父様とお義母様に相談していただけますよね?」
「う、うん。もちろんだよ」
ひきつっているという事は、相談無しでやろうとしてたんだろうな。
その後のお義父様、お義母様を交えた話し合いで、私のブレシングアクアは数量限定で重症患者に使用してみる事になった。報酬は貰わない。治験の扱いになる。効果が分からないから、どの程度までの使用かは教会に任せる事にした。サミュエル先生が公爵家を通じて悪用されないように見張りを付けてくれるらしい。結局王家に頼る事になるのかな。
嫌だと思っても権力者の保護下に入るのが一番安全だ。取り込まれる事だけは絶対的に拒否するけど。
「もうすぐ夏期長期休暇ね。ローレンスとランベルトも帰ってくるみたいよ。去年は忙しくて大変だったみたいだけど、今年は大丈夫そうね」
去年の夏期長期休暇は、王家の側近候補にローレンスお義兄様が、騎士コースの推薦にランベルトお義兄様が選ばれてしまい、タウンハウスに泊まったのはわずか4日だった。今年は長く泊まれるみたい。
今年の貴族学院の夏期長期休暇は、賑やかになりそうだ。
「転生者だから珍しかったんだと思いますけど。珍獣扱いですね」
「キャシーちゃんは可愛いわよ?」
「ありがとうございます」
本気にせずにお礼を言うと、同じテーブルのみんなにため息を吐かれた。
お茶会が終わると、お義父様とお義母様が足早に近付いてきた。
「キャスリーン、帰るぞ」
「そうね。早く帰りましょう」
私の手を引いて、急いで馬車溜まりに向かう。
「お義父様?お義母様?」
「まったく、『テンセイシャ』だから王家に迎え入れたい?キャスリーンをバカにしている」
「同感ですわ。侯爵領に隠してしまおうかしら」
どうやら大人の話し合いで私が転生者だからと、王子様の妃にという話が出たらしい。断っても断ってもしつこくて、対策を講じる必要があるのだとか。
「養子の手続きの際にもキッパリと断ったのに、いつまでも蒸し返しおって」
お義父様が激オコだ。
「宰相閣下、落ち着いてください」
「キャスリーン……」
「転生者だから王家に取り込みたいんですよね?私を気に入ってじゃないんですよね?」
「キャスリーンに宰相閣下と言われると、父親として認めていないって言われたような気になるな」
「すみません。役職名で呼んだ方が冷静になれるかと。それでどうなんです?」
「キャスリーンの事も気に入っているな、あれは。第4王子は側妃腹だし、後ろだてという意味でもフェルナー侯爵家はちょうど良い。キャスリーン、確認しておくが、王子妃になる気は?」
「ありません」
「キャシーちゃんなら何とかなりそうだけど。私達の自慢の娘ですもの」
「お義母様……」
王家のお茶会から我が家宛に公爵家、侯爵家、伯爵家からのお茶会の招待が増えた。お義母様宛だけれど、私を一緒に、と添え書きがしてあるから、実質は私目当てだ。公爵家のお茶会では当て擦りを、侯爵家のお茶会では牽制を、伯爵家のお茶会では痛くもない腹を探られた。
「嫌になってきました」
「そうね。でも、キャシーちゃんは頑張ってるわ」
「お義母様、こうなっては侯爵領に逃げる事も出来ませんわよね?」
「そうね。逃げたら悪評をたてられると思うわ」
「ですよね」
「それに……」
「護衛の数が増えたのと関り合いがありますか?」
「ごめんなさいね」
「お義母様もお義父様も悪くはございませんわ」
遅れに遅れた魔法の先生がやって来たのは、そんな時だった。水魔法の先生は、お義父様の弟、私の義叔父様に当たるジルベール様、光魔法の先生は、ブランジット公爵様の弟君。つまりは王家に連なるお方だ。名前はサミュエル様。
「キャスリーン、すまない」
「お義父様は悪くございませんわ。王家の要望でございましょう?」
「そうなんだが、すまない。断りきれなかった」
「魔法を教えてくださるだけなら、構いません。王家に縁付けだとか恩を着せないのであれば」
最初にこれをサミュエル様の前でやった。サミュエル様は苦笑してたけど、魔法は真摯に教えてくれた。
「キャスリーン、今日は水魔法と光魔法の複合魔法を使ってみようか」
ジルベール叔父様とサミュエル先生が揃っているなと思ったら、今日は混合魔法らしい。
「参考までに聞きたいんだけどね。前世ではカンゴシだったんだよね?」
「はい。専門職ですね。医師の指示の元、患者のお世話をする仕事です」
「あぁ、だから治癒魔法が早いんだ」
最初の光魔法の授業で、スッパリと腕を切ったサミュエル先生が言う。
「早いですか?」
「私が腕を切っても取り乱さなかったし」
「あの程度なら慣れてますから」
「どの程度までなら冷静でいられる?」
「そうですね。腕一本、足一本無くなったとか?押し潰されたとかでしたら」
「相当な怪我だと思うけど?」
「そうですね。1級の障がい者認定が出ます」
災害救助の現場に、看護師が直接出ることは少ない。前世の最後の記憶でどうして現場に居たのかは分からないけれど、ER勤務も経験があるから、そちら関連は慣れている。
「イッキュウノショウガイシャニンテイが何か分からないけど、光魔法は神聖魔法とも呼ばれている事は言ったよね?」
「はい」
「その神聖魔法を広範囲にと考えて作り出されたのが、ブレシングだ。水魔法と光魔法を混合して、1ヶ所に集めればブレシングアクア、広範囲に作用させればブレシングフォグとかブレシングレインになる」
「ウォーターボールに光魔法を作用させればブレシングアクアに、レインに作用させればブレシングレインに、フォグに作用させればブレシングフォグですか?」
「そうだね。複合魔法は難しいから、焦らなくて良いよ」
イメージは出来る。手のひらにウォーターボールを出しながら、光魔法を溶け込ませていく。光魔法のイメージは治癒。組織が正常になるようにと祈りを込めた。
「出来ました」
「「え?」」
「いやいや、本当に?」
サミュエル先生が戸惑ったように言う。ジルベール叔父様は呆れたように私を見た。
「確かめなきゃ分からないよね」
「また切るんですか?」
「それが一番手っ取り早いからね」
「えっと、折れちゃった花とかに試してみるのは?」
まさに指を切ろうとしていたサミュエル先生が止まった。
「ジルベール様、外に出ましょうか」
「そうですね」
出した水をコップに入れて、庭に出る。庭師のおじいさんに頼んで、折れて処分寸前の花を1株貰った。
折れた部分にそっと私の水をかける。巻き戻ったように花が元気になった。
「えぇっと……」
「予想外だね」
ジルベール叔父様とサミュエル先生が同時に呟く。ポカンとしていると、ジルベール叔父様とサミュエル先生が何か話し合いを始めた。十中八九、私のブレシングについてだろう。長引きそうなので魔法の練習をしながら待つ。
「キャシーちゃん、王家は嫌いなんだよね?」
「王家そのものは特に好きでも嫌いでもありません。取り込まれるのが嫌なだけです」
「教会は?」
「もしかして奉仕活動でしょうか?」
「奉仕っていうか……、まぁ、奉仕だね。報酬は出ないし。王家からは出来るだけキャスリーン嬢の意向に添うようにと指示されている。そのね、キャスリーン嬢のブレシングアクアを教会に預けてみないかい?」
「私の名前が出ないのでしたら。もちろんお義父様とお義母様に相談していただけますよね?」
「う、うん。もちろんだよ」
ひきつっているという事は、相談無しでやろうとしてたんだろうな。
その後のお義父様、お義母様を交えた話し合いで、私のブレシングアクアは数量限定で重症患者に使用してみる事になった。報酬は貰わない。治験の扱いになる。効果が分からないから、どの程度までの使用かは教会に任せる事にした。サミュエル先生が公爵家を通じて悪用されないように見張りを付けてくれるらしい。結局王家に頼る事になるのかな。
嫌だと思っても権力者の保護下に入るのが一番安全だ。取り込まれる事だけは絶対的に拒否するけど。
「もうすぐ夏期長期休暇ね。ローレンスとランベルトも帰ってくるみたいよ。去年は忙しくて大変だったみたいだけど、今年は大丈夫そうね」
去年の夏期長期休暇は、王家の側近候補にローレンスお義兄様が、騎士コースの推薦にランベルトお義兄様が選ばれてしまい、タウンハウスに泊まったのはわずか4日だった。今年は長く泊まれるみたい。
今年の貴族学院の夏期長期休暇は、賑やかになりそうだ。
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