3歳で捨てられた件

玲羅

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学院初等部編

トラブルの後始末

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 しばらくして、ランベルトお義兄様が戻ってきた。

「キャシー、サミュエル先生が呼んでいる」

「野犬は?」

「音楽棟に入り込んだのと学院周辺にいた2頭を始末したそうだ」

「そうですか」

 可哀想だとは思う。何事もなければ失われなかった命。狂犬病に感染したから命を絶つしか出来なくて。

「気にするな」

「うん」

 ランベルトお義兄様に案内されて中等部校舎に向かう。サミュエル先生がそこの救護室で呼んでいるらしい。

「来たね。キャシーちゃん」

 案内された先にはサミュエル先生とダニエル様、中等部の光魔法使いの先輩が居た。

「キャシーちゃん、ブレシングアクア聖恵水の生成を頼む。緊急事態だ。ここにいる全員には内密にしてもらう」

「先生、フェルナー嬢のブレシングアクア聖恵水って、他と違うんですか?」

 中等部の光魔法使いの、ラファエル・バージェフ先輩が聞いた。この先輩とは光魔法の授業で一緒になるけど、話した事は無いんだよね。どことなく「自分は特別な選ばれた人間」感を出していて苦手だし、私達の事も見下している感じがする。

「特別なんだ。キャシーちゃんのブレシングアクア聖恵水は。治癒効果が従来の物と比べようがないほど高い」

「フェルナー嬢のがねぇ」

 サミュエル先生と先輩の会話を聞きながら、ブレシングアクア聖恵水を生成する。

「サミュエル先生、治癒で良いんですよね?」

「今はね」

 今はという事は、この先で違う効果のブレシングアクア聖恵水が必要になるのか。

 ブレシングアクア聖恵水を次々と生成する。用意してあるビンに入れるとダニエル様が栓をしてくれた。

「先生、どの位必要ですか?」

「あぁ、うん。必要な分は用意出来たみたいだね」

「え?もう?」

 先輩が唖然として聞いた。

「本当にでたらめな早さだよねぇ」

 何かの機械に私のブレシングアクア聖恵水を入れて、サミュエル先生が笑う。

「先生、その機械は?」

「物質の純度とその効果を暫定的に見る魔道具。昔の『テンセイシャ』が作ったと言われているね」

「へぇぇ」

 なんだか簡易型の血液解析装置みたい。

 ピーっという音と共に印字された紙が出てくる。感熱紙っぽいし、魔道具って不思議だ。

「あいかわらずでたらめな純度だね」

「でたらめなってやめてください。お前はおかしいって言われている気分になります」

「ごめんごめん。ダニエル、これを至急怪我人の元へ」

 ダニエル様がブレシングアクア聖恵水を持って出ていった。先輩はサミュエル先生から渡された私のブレシングアクア聖恵水の分析表と何かを見比べている。

「さて、キャシーちゃん。もうひとつ頼めるかな?」

「なんでしょう?」

「前に生成したでしょ?解呪効果のあるブレシングアクア聖恵水。あれを頼める?」

「……分かりました」

 解呪効果って事は呪いが関係してる?ディスペル呪いの浄化なんだよね?

 解呪効果のあるブレシングアクア聖恵水は、いつものブレシングアクア聖恵水より時間と集中力と魔力を使う。

「解呪効果のあるブレシングアクア聖恵水?そんなの、聞いた事がない」

「だよねぇ。私も実際に見るまで信じられなかったよ」

 少しずつ大きくなっていく水球。それを見て先輩と先生が何かを言っている。

 汗が滲んできてわずらわしい。両手を使って水球を生み出しているから拭う事が出来ない。

「ランベルト君、すぐに休めるようにしておいて」

「用意は出来てます」

「最初のブレシングアクア聖恵水より時間が掛かってませんか?」

「今のところキャシーちゃんにしか出来ないんだけどね、解呪効果のあるブレシングアクア聖恵水って。私も挑戦したんだけどかなりの魔力と集中力を使うんだよ。彼女の水魔法の先生と協力して2人でやっても出来なかった。特殊魔法なのかもしれないね」

「やってみていいですか?」

「いいけど責任は取れないよ。自己責任でね」

 集中する事、1時間。

「出来ました」

 用意されたビン、5本分のブレシングアクア聖恵水を作り終えた。

「ありがとう。無理をさせたね。しばらく休んでいきなさい」

「お言葉に甘えます」

 サミュエル先生が出ていって、ランベルトお義兄様がカウチソファー寝椅子に座らせてくれた。

「横になるといい」

「でも……」

「大丈夫だ。兄貴が来るまでここにいるから」

 肘掛けに身体を預ける。

「飲んでおくといい」

 お義兄様の横からグラスが差し出された。中には薄いグリーンの液体が入っている。

「疲労に効くポーション水剤だ。私の自作で悪いが」

「先輩の?薬学も学んでらっしゃるのですか?」

「学んだというか独学だが、効果は保証する。味の保証は出来ないが。君は光魔法を使えると大変ではないか?」

わたくしは光魔法の行使は、制限していただいてますから」

「そうか。君はフェルナー侯爵令嬢だったな」

「先輩?」

「私は5歳で光魔法を使えると判明して以来、親や親族にいいように使われてきたんだ。ちょっとした怪我にも呼び出されて、光魔法を使わされた。わざとらしく持ち上げられ、魔力切れになると放置された。屋外でもね。だから疲労回復ポーション水剤を作ったんだ。最初は変な味でね。あぁそれはかなり改良して良くなっているよ。美味しいとまでいかないけど」

「先程ポーション水剤と仰いましたけど、もしかしてポーションビンに入っていたのを、移し変えてくださったのですか?」

 少し青臭いけど、香りは悪くない。味は苦味と酸味がある。少しずつ飲み込んだ。

「飲み込めなくはございませんが、苦味と酸味がありますね」

「そうなんだよ。どうしてもそれだけは取り除けないんだ」

「さっきの効果を暫定的に見る魔道具の使い道って、もしかして?」

「そうだよ。サミュエル先生に許可を頂いて、ここで効果を確かめている」

 そう言って先輩は不思議そうに私を見た。

「フェルナー侯爵令嬢は本当に8歳か?」

 ランベルトお義兄様が先輩に向き直った。

「キャシーは本当に8歳だ。妹は昔から勘が良くて、さらに一時期書庫にこもりっぱなしだった。この国の歴史は6歳で完璧に覚えてたし、他にも手を出していたよな?」

「お義兄様、手を出したなんて言い方、やめてくださいませ。少し興味があって、薬草と薬効の書物を手に取っただけではありませんか」

「それも5歳だっただろう?絵本に興味を示さないってフランが母上に泣き付いてたぞ」

「だって、絵が綺麗だったんですもの」

「そのついでに薬草を覚えたりはしないからな?」

「何度も見ていれば覚えるではありませんか。文字が読めれば文章も覚えます」

「俺は覚えられない」

「興味の方向性の違いですわ。興味が無ければ覚えられません。お義兄様はご興味が、剣術や体術に向いたのでございましょう?」

 お義兄様と言い合いをしていると、クククという笑い声が聞こえた。

「仲が良いんだね」

「はしたないところをお見せいたしました」

「良いと思うよ。しまったなぁ。先入観無しで話しかけておけば良かった」

「ラフ、キャシーが妹だと知らなかったのか?」

「知ってたけど。初等部1学年生だぞ?その年で私よりも難易度の高い術を使われてみろ。気位が高いんじゃないかと警戒して当然だ」

 先輩の疲労回復ポーションのおかげか、疲労感は抜けてきた。

「先輩、ありがとうございました。楽になってきました」

「それは良かった。ところでラドがさっき言っていたけど、薬草と薬効の書物ってまだ覚えてる?」

「はい。だいたいは」

「サミュエル先生に聞いてからになるけど、私の研究を手伝ってもらえないかな?共同研究でもいいけど」

「あ、あの?」

「返事は今すぐでなくていいよ」








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