3歳で捨てられた件

玲羅

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学院中等部 9学年生

夏期休暇前

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 ミーア先生が困ったように笑う。

「それはねぇ。学院の方針なのですよ。デリケートな内容ですからね」

「それに、女性の妊娠出産に至る過程と、危険性はお話しされませんでしたのね?」

「それも学院の方針ですよ。ここは貴族学院。結婚して時期が来れば、妊娠出産し家門を繋げていく。そういった事以上は、そのお家の方針でやってもらうしかないのです」

 学院の方針か。それならミーア先生に何を言っても、ミーア先生を困らせるだけだ。

「この夏期休暇にお家の方で話があると思いますよ」

「そうなのですか?」

「えぇ。各家には通達が行っているはずです」

わたくしの知っている事を友人に話しても?」

「良いですよ。正しい知識は身を守りますからね」

「あの、先生。さっきのマイクさんは?」

 私達と一緒に入室した、さっき覗いていた同学年生が聞く。

「帰っていただきましたよ」

「帰っちゃったんですかぁ?」

「えぇ、帰っていただきました。毎年こういう生徒がいるのですけれど、貴族学院の品位を貶める真似はおよしなさい」

「あの方って男娼だと聞いたんですけど」

「あの方は劇団員です。男娼だなんて嘘を信じていては、自分の品位を落としますよ。お止めなさい」

 劇団員?劇団員って接客業なの?

 ぶつぶつ言っていた同学年生が、イザベラ様とガブリエラ様に連れられて出ていった。マイクさんに会って何をしたかったのかは知らないけれど、短絡的な行動はやめてほしい。自分の身を危険にさらす事になる可能性が高いから。

「フェルナーさん、良かったら何を聞きたかったのか、足りないと思ったその部分は何だったのかを、教えてもらえないかしら」

 ミーア先生が聞く。リリス様は私の側に居てくれた。

わたくしが足りないと思ったのは、女性の妊娠出産に至る過程と、そこに潜む危険性です。性行為すべてが危険ではないと思いますし、妊娠出産も同じくです。でもどちらも結局苦しむのは女性です。ですから正しい知識を身に付けてもらいたいと思ったのです」

「妊娠出産に至る過程って、その、男性の閨教育のような事を言っているのかしら?」

 あぁ、やっぱり男性の閨教育は実践だったんだ。

「いいえ。そうではなく、性行為をして、その後の話です。どうやってお腹の子が育っていくかという」

「それは……。難しいわねぇ」

「やはり難しいですか?」

「あぁ、いいえ。フェルナーさんが言っている事は分かるし、必要性も分かるのよ。産科学も広まってきているわ。ただ、誰がどういう風に教えるのか、という部分ね。夏期休暇中にお家の方で話してはもらうけれど、その内容を統一してというのがね。私達も苦労しているのよ。政略結婚は少なくなってきているけれど、まだまだ無くなっていないし、双方の合意の元での夫婦生活が送れないご夫婦も多いの」

 そうして望まれない子が生まれる可能性も、高くなっていくわけね。

「でもそうね。学院長先生に相談してみましょう。フェルナーさんが卒業するまでに間に合わないかもしれないけれど、良いかしら?」

「はい。もちろんです。お手数をおかけいたします」

「それはそうと、フェルナーさん、貴女、月の物は?」

「まだですわ」

「「え?」」

 ミーア先生とリリス様の声が重なった。

「そう。心配ね」

「このまま待つしかないかと。どうする事も出来ませんし」

「何か相談事があったら聞きますからね?いつでもいらっしゃい」

「ありがとうございます」

 結局、それ以上の事は話せなかった。

「キャスリーン様……」

「リリス様には知られてしまいましたわね。でもご心配なさらないで?先生にも言いましたけれど、どうする事も出来ませんから」

「お身体の不調などは?」

「特には……。他の要因の不調はございますが。待つしかないのですわ」

「そうなのですね」

 救護室を出る。マリアさんはずっと側にいてくれたけど、いつの間にか居なくなっていたダニエルさんが待っていてくれた。

「お嬢ちゃん、気は済んだか?」

「手を広げすぎれば取りこぼす物が多くなる、か」

「お嬢ちゃん?」

「あれもこれも欲張りすぎですわね、わたくしは」

「そんな事はございませんわ。むしろキャスリーン様はもっと欲を出していいと思います」

「リリス様」

「キャスリーン様は私の憧れなんです。1学年の時に声をかけていただいて、友人になっていただいて、私なんて子爵の娘だし最初は断ろうと思ったんです。でも……」

「イザベラ様が身分なんて関係ないって、仰いましたわね。懐かしいですわ」

「お兄様もお義姉様も、キャスリーン様が気付いてくださったおかげで、シーケリア家の跡継ぎに恵まれたって、感謝してるんです」

「あら、それはわたくしの手柄ではございませんわ。リリス様が行動してくださったからこそですのよ?」

「そういうところです」

 ん?

「感謝してるんです。キャスリーン様のお側に居られて嬉しいんです。キャスリーン様は自分の手柄じゃないなんて仰いますけど、キャスリーン様が気付かなければ、私は行動出来なかったんです。キャスリーン様はもっと威張って良いんです」

「あらあら、威張ってもよろしいの?」

「はいっ」

 「はいっ」って元気よく言われても……。

 戸惑っていると、マリアさんにニコリと微笑まれた。最近、マリアさんは、私の姉のような表情をするのよね。

 でもそっか、私はそう思われていたのか。威張る事はしないけど、もう少し欲深くなっても良いのかしら?でも、欲深くって、特に欲しい物はないのよね。欲しいのは虐げられる子供が、弱者が逃げ込める場所。それも、私ひとりでは手に入れられないし、そもそも私の『モノ』じゃない。

「キャスリーン様?」

 気が付いたら寮の前まで来ていた。

「あら?」

「あら?じゃ、ありませんよ?キャスリーン様。お疲れなのでは?」

「疲れてはおりませんが。少し考え事を」

「考え事ですか?私が話しかけましたら、ごく自然にお返事されてましたけど?」

「え?」

「寮の前まで来たのに、そのまま行きすぎようとされたので、さすがに変に思ってお声をかけました」

「ありがとうございます」

 なんと考え事をしながら、普通に返事していたらしい。まぁ相づちや「そうですわね」なんて返事ばかりだったみたいだけど。

「本当にお疲れなのではないのですね?キャスリーン様は大丈夫と仰りながら、大丈夫じゃない場合があるので、心配です」

 リリス様にまで言われてしまった。だってねぇ。「大丈夫?」って聞かれたら反射的に「大丈夫です」って言ってしまうものでしょ?そういう時は「無理そう?」って聞かないと。

 いやいや、違う。そういう事じゃない。私が大丈夫と言ってしまうのは、心配をかけたくないからだ。とか言っておいて、結局心配をさせてしまうんだけど。見栄を張りたいというか、虚勢を張りたいというか。うーん。

「キャスリーン様、また何かを考えていらっしゃいますわね?」

「えっと……。はい。すみません……」

 リリス様にちょっと怒った風に言われてしまった。リリス様ってば、普段は気弱な所もあるんだけど、お世話焼き気質というか、甘えない事を許してくれないのよね。

「キャスリーン様は今年、医師資格試験を受けられますのよね?」

「そのつもりですわ。夏期休暇中に色々な書類を揃えないといけませんわね」

「私の時に、教えてくださいませね?」

「もちろんですわ」

 リリス様も来年以降に受験するって明言してるからね。知識は十分有ると思うけど、医師資格試験には実技があるから、そちらの自信が無いらしい。







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