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婚約破棄編
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しおりを挟む「エリス、話がある」
遅れて来た婚約者は悪びれもせず関せずそう言う。
怒りを通り越して幾らか冷静になっている自分がいる。
遅れて来た事の謝罪、自分ではなく姉を連れている状況に視線で察しろと圧を掛けてきた事にエリスは信じられないと目を見開く。
昔はこうではなかった。
婚約者は小さな頃から一緒にいて気心知れてのんびりとした性格、いつも笑顔で家族からの見下げた態度でささくれ立ったエリスの心を癒やしてくれた。捻くれたエリスの唯一の拠り所だった。父親同士の交流もありすんなりと婚約は纏まった。
婚約者の名前はユリウス·ハイゼン。
茶色と金色が混ざった短髪に、榛色の瞳。端整な顔立ちに剣術や馬術で鍛え上げられた体躯。ハイゼン家は公爵家であり、ユリウスは嫡男だ。公爵家当主ユリウスの父親は国王の側近であり、エリスの父親は宰相で、王の家臣同士お互い家の利益だけでは無くプライベートでも個人的に交流があった。
幼少の頃は父親に連れられて公爵家を訪れていた。ユリウスとは同い年で父が難しい話をしている時は、二人でよく遊んだ。異性だからと気を使わず一緒に居て、楽しい時期を過ごした。
それからしばらくしてユリウスの家督を継ぐ為の教育とエリスの淑女教育も始まり、会う時間が段々と無くなっていった。ユリウスと会え無くて寂しかったエリスは父に公爵家に遊びに行きたいとお願いした。良い返事を返してくれなかったので、許しが欲しいエリスは何故行けないのと駄々をこねた。
家の為に離された事が理解出来なくて、泣いて抵抗したのだが、そんなエリスを両親は相手にせず、兄は冷ややかな目で、姉は自分を綺麗に魅せる事しか興味が無く、貴族の慣習を教える教師だけが気に掛けてくれていた。知らない国の人々の話や、不思議なお伽話を話してくれて寂しい気持ちを癒やしてくれた。
しばらくして二人は婚約を結ぶ。家同士で決めた政略結婚だ。公爵家は侯爵家を得て社交界や王宮で更に立場が強固になる。侯爵家も後ろ盾を得て人脈、事業も拡大していく。他家からしたら力を増していくニ家は脅威だった。
自分を呼び出した幼馴染で婚約者のユリウスが姉を連れている。二人は誰が見ても仲睦まじそうでまるで恋人同士の様に見えた。
エリスの懸念が現実になっている。何故気がつかなかった? 姉がユリウスに近づいたのかも知れない。今まで奪ったエリスの私物だけでは飽き足らず、妹の婚約者に興味を持った? ユリウスは実は地味な自分では無く、美人な姉の方が好みだったのか、と考えると惨めだった。
姉には自分の婚約者がいる。
侯爵家の長男、レオナルド・ダーウィン様だ。
美人で要領の良い姉は何処に行っても目立つ存在で釣書も幼少期から届き自分に来た釣書を見る度目を輝かせていたのを覚えている。そしてレオナルド様を選んだ。レオナルド様は姉の性格を知っていて、やることなすことに寛容だった。そして、姉は昔から気にいった物があれば私の物だろうと盗っていく癖があったので、ユリウスを気に入り目を付けたのかも知れない。悔しい。
ユリウスもユリウスだ。私の前では何も無いという顔をして、二人で騙していたのだから。
二人は皆の視線を浴びながら庭園を横切りエリスの前に来た。リディアはエリスを見ると勝ち誇った笑みを見せる。
「ユリウス、貴方どうしてお姉様と一緒にいるの?」
「……。」
エリスは尋ねた。だけどユリウスは答えない。
自分から呼び出した癖に大事な話は黙るなんて卑怯だわ。
「貴女にユリウスは勿体無いから私が貰っても良いかしら」
「⋯⋯。」
お茶会の席で当然の様にリディアは話す。その問いにはエリスは答えず、リディアに厳しい顔をする。
姉が妹の婚約者をというのは侯爵家の醜聞であるのに、皆の前で律儀に聞く事は本人は自覚が無いのかしら。あったとしても姉の欲しいという欲望の前には誰も逆らえ無いの? それとももしかして、リディアはまだユリウスに色仕掛けで最後まで手を出していないのかもしれない。
そう思うと沈んだ気持ちが少し上向きになった。
エリスはリディアに尋ねる。
「何故わざわざ聞くの?」
「今はまだ貴女の婚約者だからよ。だけどそれも時間の問題だわ」
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