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婚約破棄編
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当たり前という様なリディアの返しにエリスは唖然となる。が、ここはお茶会の場。衆目の中で争っていては自分達は良い噂話の元になる。一呼吸置いて冷静になれば少し考える余裕も出てきた。そして、二人を諌める為に声を掛けた。
「ここでは皆様のご迷惑になります。今日のお茶会はこれで…」
エリスの声を遮る様に突然ユリウスの声が響く。
「エリス、 私は君との婚約を破棄する!」
静まり返る会場。何が起きたのか分からず一瞬皆が呆然とする。その後どよめきと悲鳴が起きた。
「な、なんですって! ユリウス、これがどういう事なのか分かって言っているの?」
怒りと侮辱に肩を震わせ詰め寄ろうとした時。
「何をしている!」
庭園に鋭い声が響く。声のした方へ視線を向けると兄のエリオットが入り口で拳を握りしめ佇んでいる。兄は鋭い視線で会場を見渡していた。そしてエリスを見つけるといっそう冷ややかになる。
「お兄様…」
エリオットの姿に息を呑み、恐怖心から身震いする。兄を怒らせると何があるか分からない。エリスが動けずにいると今度は真逆の冷静な顔でエリオットが此処に向かって来る。そしてエリス達の近くで会場の来賓に謝罪をした。
「皆様に、ご迷惑とご不快な思いをおかけしましたこと、深くお詫び申し上げます。どうか今日此処で起こった事は御内密にてお願い致します。主催家として多大なご迷惑をお掛けし、致し方ありませんが、お茶会はこれにてお開きとさせて頂きます。お詫びは後日改めて致します。が私達はここで退席させて頂きます。お見送り出来ず申し訳ありません。誰か、お客様をお送りする様に」
エリスは目を見開く。
あの兄が。侯爵家の跡取りが。宰相の息子が。非を認めて大勢に頭を下げている。
貴族がしかも嫡男がだ。目の前の光景が信じられなかった。
周りも目を見開き動揺している。
未だ動揺している令嬢達に状況を掻い摘んで説明し、控えているメイドや従僕達に指示した。それからエリス達に来いとでも言う様に目で促し、エリスの手を引っ張り掴むと入り口とは違う別の出口に向かって歩き出した。エリオットとエリスの後をリディアとユリウスが追いかける。
「お、お兄様。お離しになって下さいまし。私恥ずかしいですわ」
エリスは抗議の声を上げる。しかしエリオットは振り向く事無く、エリスを連れて屋敷の中へ戻った。
幾つもの部屋や廊下を過ぎ、やがて重厚な扉の前で足を止める。
そこはこの屋敷の当主である侯爵の執務室の部屋だった。
◇
「なんて事をしてくれたんだ…」
侯爵は頭を抱えて唸った。
執務室の部屋には簡易的ではあるが、来客用の応接スペースがあった。
上座で一人がけの年代物のソファーに座り、頭を抱えているのがこの家の当主、ハインツ・グラナドである。
プラチナブロンドの短髪にすっと通った高い鼻梁。切れ長の碧い瞳。元から甘い造形の顔つきだったが、年嵩を増し精悍さが出て来た。母とは政略結婚ではあったが、母が父を好きになり結婚してからは父に迫って落とすのに必死だったらしい。
ここだけの話ですよと私がデビュタントした歳になった辺りに私付きの侍女から母の話を聞かせてもらった。
侍女は乳母から聞いたという。この経緯を聞いた時驚いた。あの自尊心が高く他人を見定め貴族の女性を体で表している母からは想像出来ない事だったのだ。お高く留まっていても母も女性だったのだと当時思ったものだ。
その父が庭園で起きた『婚約破棄騒動』の経緯を聞いて動揺している。大勢の目の前であってはならない『婚約破棄』が起こったのだ。
醜聞はあっという間に社交界に知れ渡るだろう。私だけではなく、侯爵家の品位に関わってくる。
「お前達は何をしたか分かっているのか!」
侯爵はリディアとユリウスを問い詰める。
「大勢の前で恥を晒して! どうするつもりだ!」
拳を握りしめ捲し立てた。そんな父親に我関せずリディアが言う。
「エリスにはユリウスは勿体無いし、私ユリウスの事が好きなの。それに姉妹が入れ替わるだけで、家同士の契約は変わらないもの。反故にはならないし、ね、ユリウスは婚約者が私でも問題ないわよね?」
「リディアなんて事を…。エリスはもうすぐ婚姻するんだぞ!!」
一方的な物言いに侯爵は呆れたが、思案顔で考えている。姉妹は入れ替わってしまうが、家同士の契約は変わらない。ユリウスはリディアを選んだ。好き合う同士ならば離す事は無い。醜聞は無くならないが、そのうち周囲は二人を認知するだろう。
エリスには酷だが、致し方無い。
「エリスそれで良いよね? 私がユリウスの婚約者になるわ」
「良いわけ無いじゃない! 私達の婚約は子供の頃に決めた事で私もユリウスが好きよ! それにお姉様の婚約者はどうなるの? 裏切りだわ!」
一気に捲し立てた為、気持ちを言ってしまった事に気付いていない。少し間を置いて冷静になれば周りの自分を見る生暖かい視線にはっとなった。
「エリス…」
ユリウスの呟きに否定する様に手を振る。
「ち、違うの。私何も言って無いわ!」
「今頃言っても遅いんだから。ユリウスは渡さないわ! それにレオナルドは分かってくれるわ」
何が分かると言うのだろう。相手を蔑ろにして失礼だわ。裏切りよ!
慌てふためくエリスを見てリディアがユリウスに腕を絡ませる。雰囲気は親しい恋人同士の様だ。
姉の行動に嫌気がさし睨みつけるエリスに、リディアは唇を引き上げ笑みを浮かべた。
「ここでは皆様のご迷惑になります。今日のお茶会はこれで…」
エリスの声を遮る様に突然ユリウスの声が響く。
「エリス、 私は君との婚約を破棄する!」
静まり返る会場。何が起きたのか分からず一瞬皆が呆然とする。その後どよめきと悲鳴が起きた。
「な、なんですって! ユリウス、これがどういう事なのか分かって言っているの?」
怒りと侮辱に肩を震わせ詰め寄ろうとした時。
「何をしている!」
庭園に鋭い声が響く。声のした方へ視線を向けると兄のエリオットが入り口で拳を握りしめ佇んでいる。兄は鋭い視線で会場を見渡していた。そしてエリスを見つけるといっそう冷ややかになる。
「お兄様…」
エリオットの姿に息を呑み、恐怖心から身震いする。兄を怒らせると何があるか分からない。エリスが動けずにいると今度は真逆の冷静な顔でエリオットが此処に向かって来る。そしてエリス達の近くで会場の来賓に謝罪をした。
「皆様に、ご迷惑とご不快な思いをおかけしましたこと、深くお詫び申し上げます。どうか今日此処で起こった事は御内密にてお願い致します。主催家として多大なご迷惑をお掛けし、致し方ありませんが、お茶会はこれにてお開きとさせて頂きます。お詫びは後日改めて致します。が私達はここで退席させて頂きます。お見送り出来ず申し訳ありません。誰か、お客様をお送りする様に」
エリスは目を見開く。
あの兄が。侯爵家の跡取りが。宰相の息子が。非を認めて大勢に頭を下げている。
貴族がしかも嫡男がだ。目の前の光景が信じられなかった。
周りも目を見開き動揺している。
未だ動揺している令嬢達に状況を掻い摘んで説明し、控えているメイドや従僕達に指示した。それからエリス達に来いとでも言う様に目で促し、エリスの手を引っ張り掴むと入り口とは違う別の出口に向かって歩き出した。エリオットとエリスの後をリディアとユリウスが追いかける。
「お、お兄様。お離しになって下さいまし。私恥ずかしいですわ」
エリスは抗議の声を上げる。しかしエリオットは振り向く事無く、エリスを連れて屋敷の中へ戻った。
幾つもの部屋や廊下を過ぎ、やがて重厚な扉の前で足を止める。
そこはこの屋敷の当主である侯爵の執務室の部屋だった。
◇
「なんて事をしてくれたんだ…」
侯爵は頭を抱えて唸った。
執務室の部屋には簡易的ではあるが、来客用の応接スペースがあった。
上座で一人がけの年代物のソファーに座り、頭を抱えているのがこの家の当主、ハインツ・グラナドである。
プラチナブロンドの短髪にすっと通った高い鼻梁。切れ長の碧い瞳。元から甘い造形の顔つきだったが、年嵩を増し精悍さが出て来た。母とは政略結婚ではあったが、母が父を好きになり結婚してからは父に迫って落とすのに必死だったらしい。
ここだけの話ですよと私がデビュタントした歳になった辺りに私付きの侍女から母の話を聞かせてもらった。
侍女は乳母から聞いたという。この経緯を聞いた時驚いた。あの自尊心が高く他人を見定め貴族の女性を体で表している母からは想像出来ない事だったのだ。お高く留まっていても母も女性だったのだと当時思ったものだ。
その父が庭園で起きた『婚約破棄騒動』の経緯を聞いて動揺している。大勢の目の前であってはならない『婚約破棄』が起こったのだ。
醜聞はあっという間に社交界に知れ渡るだろう。私だけではなく、侯爵家の品位に関わってくる。
「お前達は何をしたか分かっているのか!」
侯爵はリディアとユリウスを問い詰める。
「大勢の前で恥を晒して! どうするつもりだ!」
拳を握りしめ捲し立てた。そんな父親に我関せずリディアが言う。
「エリスにはユリウスは勿体無いし、私ユリウスの事が好きなの。それに姉妹が入れ替わるだけで、家同士の契約は変わらないもの。反故にはならないし、ね、ユリウスは婚約者が私でも問題ないわよね?」
「リディアなんて事を…。エリスはもうすぐ婚姻するんだぞ!!」
一方的な物言いに侯爵は呆れたが、思案顔で考えている。姉妹は入れ替わってしまうが、家同士の契約は変わらない。ユリウスはリディアを選んだ。好き合う同士ならば離す事は無い。醜聞は無くならないが、そのうち周囲は二人を認知するだろう。
エリスには酷だが、致し方無い。
「エリスそれで良いよね? 私がユリウスの婚約者になるわ」
「良いわけ無いじゃない! 私達の婚約は子供の頃に決めた事で私もユリウスが好きよ! それにお姉様の婚約者はどうなるの? 裏切りだわ!」
一気に捲し立てた為、気持ちを言ってしまった事に気付いていない。少し間を置いて冷静になれば周りの自分を見る生暖かい視線にはっとなった。
「エリス…」
ユリウスの呟きに否定する様に手を振る。
「ち、違うの。私何も言って無いわ!」
「今頃言っても遅いんだから。ユリウスは渡さないわ! それにレオナルドは分かってくれるわ」
何が分かると言うのだろう。相手を蔑ろにして失礼だわ。裏切りよ!
慌てふためくエリスを見てリディアがユリウスに腕を絡ませる。雰囲気は親しい恋人同士の様だ。
姉の行動に嫌気がさし睨みつけるエリスに、リディアは唇を引き上げ笑みを浮かべた。
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