16 / 93
五章
1、お月さましか見ていないから
しおりを挟む
夜中、ソフィは喉が渇いて起き上がった。隣のベッドでは、アランがよく眠っている。
そっと屈みこんでアランの顔を覗きこむ。自分自身のことを、すぐにおじさんって言うけれど。冷涼とした月光に照らされたアランの横顔は端正で。ずっと眺めていられるほど。
さらりと肩から落ちた髪がアランの顔に触れそうで、慌てて手で押さえた。窓から差し込む月明りは、宝石のヘリオドールを溶かしたようなレモン色。
そろそろ満月が近いのだろう。
ソフィはためらいがちに手を伸ばして、アランの頬にそっと触れた。熟睡しているのか、気付く様子もない。
見た目の印象よりも長い睫毛が、わずかに震えた気がしたけれど。多分気のせいね。
(どうして今日は、あんなに変だったの? アランらしくもない)
勇気を出して、指を左に移動させる。ふわりと風のようにアランの唇を指で撫でた。
かさついた唇の感触に、胸が早鐘のごとく賑やかな音を立てる。
顔が火照って熱い。
うん、アランに触れると顔も耳も熱くなる。
これって、恋してるってことだよね?
ソフィは夜風に当たろうと、少し窓を開けた。夜の木々の香りのする風が、一枚の紙をひらりと床に落とす。
『エルヴェーラ・キルナ嬢の情報を求む』と記された紙だ。かなりの額の報奨金付き。五年くらいは遊んで暮らせるのではないだろうか。
「キルナってカシアとの国境の地よね。確か地名がそのまま辺境伯の姓となっている。それくらい強大な力を持っていたって、学校で習ったわ」
でも確か、キルナ辺境伯の一族は滅ぼされたのではなかったか。
エルヴェーラ嬢の年齢は、生きていれば十三歳。髪色は銀色で目は深い蒼。
「世の中には似た人がいるのね」
ソフィは紙を机に戻した。どうやらアランの本に挟んであったようだ。栞として使っていたのだろうか。
窓を閉めてベッドに戻ろうとしたが、今も指先のかさついた感触が抜けない。
いつまでも子ども扱いするくせに、挨拶のキスをしてくれなくなったアラン。
今ここで眠っている彼にキスをしたら、変態って怒られるのかな。
「怒られてもいいよ」
ソフィは隣のベッドに膝をかけて、身を乗りだした。
誰も見ていないなら……ほんの少しだけ。
銀の髪に月の光を宿しながら、ソフィは瞼を閉じた。
いつもあごや頬のひげを触っているけれど。本当は口づけてほしかった。恋人みたいなキスを望んでいた。
伯父と姪は恋人にはなれないって、分かっているけど。
軽くアランと唇を重ねる。指で感じたのと同じ、かさついた感触だ。
髪が彼にかからないように手で押さえながら、すぐに顔を離した。
アランの寝息に変化はない。大丈夫、ばれてない。
(おやすみ、アラン)
自分のベッドに戻り、布団にもぐりこんでソフィは眠った。
誰にも内緒、アランにも秘密。
大丈夫、お月さまにしか見られてないから。
そっと屈みこんでアランの顔を覗きこむ。自分自身のことを、すぐにおじさんって言うけれど。冷涼とした月光に照らされたアランの横顔は端正で。ずっと眺めていられるほど。
さらりと肩から落ちた髪がアランの顔に触れそうで、慌てて手で押さえた。窓から差し込む月明りは、宝石のヘリオドールを溶かしたようなレモン色。
そろそろ満月が近いのだろう。
ソフィはためらいがちに手を伸ばして、アランの頬にそっと触れた。熟睡しているのか、気付く様子もない。
見た目の印象よりも長い睫毛が、わずかに震えた気がしたけれど。多分気のせいね。
(どうして今日は、あんなに変だったの? アランらしくもない)
勇気を出して、指を左に移動させる。ふわりと風のようにアランの唇を指で撫でた。
かさついた唇の感触に、胸が早鐘のごとく賑やかな音を立てる。
顔が火照って熱い。
うん、アランに触れると顔も耳も熱くなる。
これって、恋してるってことだよね?
ソフィは夜風に当たろうと、少し窓を開けた。夜の木々の香りのする風が、一枚の紙をひらりと床に落とす。
『エルヴェーラ・キルナ嬢の情報を求む』と記された紙だ。かなりの額の報奨金付き。五年くらいは遊んで暮らせるのではないだろうか。
「キルナってカシアとの国境の地よね。確か地名がそのまま辺境伯の姓となっている。それくらい強大な力を持っていたって、学校で習ったわ」
でも確か、キルナ辺境伯の一族は滅ぼされたのではなかったか。
エルヴェーラ嬢の年齢は、生きていれば十三歳。髪色は銀色で目は深い蒼。
「世の中には似た人がいるのね」
ソフィは紙を机に戻した。どうやらアランの本に挟んであったようだ。栞として使っていたのだろうか。
窓を閉めてベッドに戻ろうとしたが、今も指先のかさついた感触が抜けない。
いつまでも子ども扱いするくせに、挨拶のキスをしてくれなくなったアラン。
今ここで眠っている彼にキスをしたら、変態って怒られるのかな。
「怒られてもいいよ」
ソフィは隣のベッドに膝をかけて、身を乗りだした。
誰も見ていないなら……ほんの少しだけ。
銀の髪に月の光を宿しながら、ソフィは瞼を閉じた。
いつもあごや頬のひげを触っているけれど。本当は口づけてほしかった。恋人みたいなキスを望んでいた。
伯父と姪は恋人にはなれないって、分かっているけど。
軽くアランと唇を重ねる。指で感じたのと同じ、かさついた感触だ。
髪が彼にかからないように手で押さえながら、すぐに顔を離した。
アランの寝息に変化はない。大丈夫、ばれてない。
(おやすみ、アラン)
自分のベッドに戻り、布団にもぐりこんでソフィは眠った。
誰にも内緒、アランにも秘密。
大丈夫、お月さまにしか見られてないから。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
784
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる