28 / 93
六章
10、不信感
しおりを挟む
「お久しぶりね、マクシミリアン」
一瞬にして、アランの体がこわばるのが伝わってきた。ソフィが顔を上げると、彼の琥珀の瞳は凍ったように冷たい。
「元気とは言い難いけど、無事でいてくれて嬉しいわ」
「人違いなのでは? 俺はアランだ」
「そうね、アランって呼ばせてるのね。そちらのお嬢さんは姪だと聞いたわ。私、知らなかったわ、あんたに妹や姪がいたなんて」
「あなたが手当てをしてくれたのか。ありがとう。だが初対面のあなたが、俺の何を知っているというんだ」
険悪な雰囲気に、ソフィはおろおろとアランとグンネルの両者を見遣った。
アランはぶっきらぼうだし、粗雑なところがあるけど。初対面で親切にしてくれた人に、こんな無礼な態度をとるとは思えない。
キスのこといい、二人ともとても不自然だ。それに薬湯は長時間煎じないといけないと聞いたのに。グンネルはたいして時間をかけていない。
(邪魔なんだ、わたし)
居たたまれなくなったソフィは「外に出てるから」と立ち上がった。
「ここにいてくれ」
だが腕をアランに掴まれ、立つことも叶わない。指先が肌に食い込むほどの力強さだ。
「でも……わたしがいたら、話ができないでしょ」
「たとえソフィを邪魔者扱いする奴がいたとしても、俺にとってのソフィはそうじゃない」
部屋から出ていくつもりだったのに、ソフィは結局アランの腕の中に閉じ込められてしまった。まるでそこが彼女の居場所であると、アランはグンネルに示しているかのようだ。
(おかしいよ、アラン)
仲の良い伯父と姪であることを見せつけるような態度を、アランは滅多にとらない。普段は、むしろソフィが甘えすぎることを嫌がるほどなのに。
「ご両親が知ったら驚くでしょうね。あんたに妹と姪がいたってことと。別人になって生活してるってこと。もうずっと実家に帰ってないんでしょ。顔を見せてあげなさいよ」
「妙なことを言わないで頂きたい」
グンネルの言葉に、アランは眉間に深い皺を刻む。そしてソフィを抱きしめる腕の力も、ますます強くなる。
「あれから十三年か。あんたも誰かを育てるくらいには大人になったってことよね。木の蔓にぶら下がって湖に落っこちたり、積もった雪の中をざかざかと歩いて迷子になってたのが、遠い昔のことみたいだわ。あんたが熱を出すたびに、この薬湯を煎じてあげたっけ」
「……勘違いではないですか」
取りつく島のないアランに、グンネルは肩をすくめた。それでもその瞳の鋭さは、アランから真実を引き出そうと画策しているようだ。
怖い。有無を言わせない彼女の迫力が。
年の差もあるけれど、それだけじゃない。クラーラのお母さんや、卵売りのハンナとは明らかに違う凄みが、グンネルにはある。
「まぁいいわ。あんたも家に帰って休みなさいよ。私もついていくわ。姪御さんからお招きを受けたからね」
「は?」
「ちゃんと馬車もあるのよ。カスパルと言ったかしら、彼が送ってくれるらしいわ」
「待て、何を勝手に。カスパルは関係ないだろ」
身を乗りだすアランに向かって、グンネルは「ふふん」と顎を上げて笑った。
「それでいいのよ。他人行儀なあんたなんて、気持ち悪いものね」
一瞬にして、アランの体がこわばるのが伝わってきた。ソフィが顔を上げると、彼の琥珀の瞳は凍ったように冷たい。
「元気とは言い難いけど、無事でいてくれて嬉しいわ」
「人違いなのでは? 俺はアランだ」
「そうね、アランって呼ばせてるのね。そちらのお嬢さんは姪だと聞いたわ。私、知らなかったわ、あんたに妹や姪がいたなんて」
「あなたが手当てをしてくれたのか。ありがとう。だが初対面のあなたが、俺の何を知っているというんだ」
険悪な雰囲気に、ソフィはおろおろとアランとグンネルの両者を見遣った。
アランはぶっきらぼうだし、粗雑なところがあるけど。初対面で親切にしてくれた人に、こんな無礼な態度をとるとは思えない。
キスのこといい、二人ともとても不自然だ。それに薬湯は長時間煎じないといけないと聞いたのに。グンネルはたいして時間をかけていない。
(邪魔なんだ、わたし)
居たたまれなくなったソフィは「外に出てるから」と立ち上がった。
「ここにいてくれ」
だが腕をアランに掴まれ、立つことも叶わない。指先が肌に食い込むほどの力強さだ。
「でも……わたしがいたら、話ができないでしょ」
「たとえソフィを邪魔者扱いする奴がいたとしても、俺にとってのソフィはそうじゃない」
部屋から出ていくつもりだったのに、ソフィは結局アランの腕の中に閉じ込められてしまった。まるでそこが彼女の居場所であると、アランはグンネルに示しているかのようだ。
(おかしいよ、アラン)
仲の良い伯父と姪であることを見せつけるような態度を、アランは滅多にとらない。普段は、むしろソフィが甘えすぎることを嫌がるほどなのに。
「ご両親が知ったら驚くでしょうね。あんたに妹と姪がいたってことと。別人になって生活してるってこと。もうずっと実家に帰ってないんでしょ。顔を見せてあげなさいよ」
「妙なことを言わないで頂きたい」
グンネルの言葉に、アランは眉間に深い皺を刻む。そしてソフィを抱きしめる腕の力も、ますます強くなる。
「あれから十三年か。あんたも誰かを育てるくらいには大人になったってことよね。木の蔓にぶら下がって湖に落っこちたり、積もった雪の中をざかざかと歩いて迷子になってたのが、遠い昔のことみたいだわ。あんたが熱を出すたびに、この薬湯を煎じてあげたっけ」
「……勘違いではないですか」
取りつく島のないアランに、グンネルは肩をすくめた。それでもその瞳の鋭さは、アランから真実を引き出そうと画策しているようだ。
怖い。有無を言わせない彼女の迫力が。
年の差もあるけれど、それだけじゃない。クラーラのお母さんや、卵売りのハンナとは明らかに違う凄みが、グンネルにはある。
「まぁいいわ。あんたも家に帰って休みなさいよ。私もついていくわ。姪御さんからお招きを受けたからね」
「は?」
「ちゃんと馬車もあるのよ。カスパルと言ったかしら、彼が送ってくれるらしいわ」
「待て、何を勝手に。カスパルは関係ないだろ」
身を乗りだすアランに向かって、グンネルは「ふふん」と顎を上げて笑った。
「それでいいのよ。他人行儀なあんたなんて、気持ち悪いものね」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
784
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる