元軍人、愛しい令嬢を育てます

絹乃

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十二章

6、守ってくれるんだろ

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 奥まった墓地にまで騒ぐ声が届いた。
 馬賊がこちらに向かっているのだろう。アランは気を引き締めた。

 弔いの門を出て、城を取り囲む運河の橋を渡ればいい。そうすれば外へ出られる。ソフィがソフィ自身で居られる場所へと戻ることができる。

「ソフィ。門の位置は頭に入っているな」
「うん」
「なら、門の隣に梯子があるはずだから。梯子をのぼって城壁に上がってくれ。そこから援護を頼む」

 腰に佩びた剣の柄に手をかけると、その腕をソフィにつかまれた。

「平気? わたしを追ってプーマラから来てくれたんでしょ。疲れてるよね」
「平気に決まってるだろ。俺の仕事を何だと思ってるんだ」
「用心棒とか護衛、だけど。でも……」

 口ごもるその様子から、ソフィが心配しているのはプーマラからキルナまでの道のりの遠さと、馬賊の方が城の構造に詳しいということだと、アランは察した。

 ソフィには話していないが、ベアタが描いてくれた見取り図は、すでに十三年前に頭に入っていた。弔いの門の隣に、金属製の梯子があることも記憶にある。錆びついて壊れていなければ、使えるはずだ。
 ソフィは蒼い瞳を不安そうに揺らめかせて、見上げてくる。

「……参ったな。俺、そんなに弱くないぞ」
「だって、アランが仕事してるとこ、ちゃんと見たことないもの」

 あのなー、職場っつーか仕事先に子どもを連れて行けるわけがないだろ。
 峠のカスパルこと、商家の若旦那の護衛だって、相手が馬賊でかなり危険だったんだぞ。それでも無事に切り抜けたんだ。
 などと説得する時間もない。

 ほどけてしまったソフィの包帯の端を、ちゃんと巻きなおしてやる。
 身長差があるので、アランは屈みこんでソフィの瞳を覗きこんだ。

「俺は背中をソフィに向ける。守ってくれるだろ」
「うん。守る。任せて」

 アランの言葉に、ソフィはうなずいた。そのまま梯子へと向かい、器用に城壁を登っていく。彼女が背負った植木鉢が、カチャカチャと硬い音を立てている。

 温室から持ってきた鍬を手にすると、道を横断するように溝を掘る。ぱっくりと地面が割れたように見えるのは、焦げ茶色の土と白い雪の対比のせいだ。いかにも警戒しろと言わんばかりに、溝は目立っている。
 これくらいの幅ならば、馬は軽々とジャンプするだろう。

「さて、本番はこっちだな」

 弔いの門へと続く道の両脇に生えた木。その両方の幹に縄を結んでおく。
 積雪に吸い込まれることのない、けたたましい馬の蹄の音が近づいて来る。アランは剣を構え、馬賊を待った。

「見つけたぞ」
「はっ! つまらん罠を張りおって。こんな溝など足止めになるものか」
(だろうな。馬賊さまにとっては、屁でもないだろうさ)

 アランは口の端で笑った。

 次々と溝を跳び越えた馬は、道に張った縄に脚をとられ、騎手を振り落とした。後方の馬賊はそれを警戒し、溝に続く縄も慎重に超える。
 だが縄は一か所ではなく、二か所に張ってある。
 残る馬賊も、次々に落馬した。
 
 それでも奴らはしぶとい。体勢を立て直し、武器を手にアランに向かってきた。
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