キラシャの恋の物語

キラシャ

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第1章 未来社会

③ 子供達の生活

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キラシャの暮らすドームは、北半球の小さなエリアにある。


何度も地震や火山の爆発などに見舞われながら、長い年月に位置を移動し、

形を変えて、成り立ってきた島のエリアだ。


そのエリアは、磁力の働きが強いのが特徴で、マグネティックフィールド、

略してMFiーエムフィ・エリアと呼ばれている。


エムフィ・エリアは、点々とした島のドームで成り立っているが、

ごく微小なマシンを駆使した医療技術の発達で、

先進エリアと認められるようになっていた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


エムフィ・エリアでは、病気の治療のためだけでなく、

住民の身体の情報を収集するために、体内に液体状のマシンを注入している。

―エムフィの住民は、ピコ・マシンと呼んでいる―


長年の研究で、体内に注入しても無害なマシンが開発され、

それが子供の身体をケアしながら、その子の居場所もモアを通じて知らせてくれる。


モアは、体内のピコ・マシンのデータを一時的に整理して記録保管し、

ドームのボス・コンピュータへと送信する。


ひとりひとりの日々の身体の状態をデータ化し、感染症などの流行に対する

医療対策を早めに行うためだ。


〇●◎〇●◎〇●◎〇●◎〇●◎〇●◎〇●◎〇●◎


キラシャの暮らす子供の家の朝は、早い。


早い子は生まれてすぐ、遅い子でも3歳の誕生日を迎えるまでには、

子供の家に引き取られ、先生の指導によって、社会で働くための基本的なしつけを学ぶ。


保育コースの子供は、決められた時間に寝室から遊び場に移動すればよいのだが、

それでもまだ甘えていたいのか、ぐずぐずしている子が多い。


子供への指導で手いっぱいの先生を手伝う年若いスタッフが汗を流しながら、

子供の世話に明け暮れている。


▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△


ドームは地球に何が起きても頑丈だから、安全だと思う人もいるかもしれない。


ドーム自体は頑丈でも、地球上にあるいくつかのプレートは、

常に重なり合って、押し合いへし合いしながら動いている。


大地震で地盤が崩れてドームが傾き、中で使われている設備や人々にも、

たくさんの被害が及ぶことだってある。


地震や火山の噴火、台風や津波など、災害の多いこのエリアでは、

ドームでの非常事態にすぐ反応して、安全な場所へ移動するための訓練が必要だ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


どんな状況でも、すぐに自分のすべきことを考えて、行動できる習慣を身につけることが、

ドーム社会の必要不可欠な条件だ。


エムフィ・エリアの子供は、なるべくウィルス感染などを予防するために、体重が抑制されている。


軽い食事に、サプリや栄養ドリンクを摂ることが基本なので、やせた子が多い。


運動神経もいいので、子供同士で気に入らないことがあると、すぐにケンカになってしまう。


気がついた先生が止めようとしても、殴り合いになると歯が立たない。


そうなると、スクール内に待機している、エリア警察のパトロール隊員が止めに入って来る。


〇●◎〇●◎〇●◎〇●◎〇●◎〇●◎〇●◎〇●◎〇●◎〇●◎〇●◎〇●◎


エリアによって違いはあるが、エムフィ・エリアでは、子供でもケンカがこじれた場合は、裁判で解決する。


しかも、子供達にとって、もっとも貴重な休日に、子供専用の裁判が行われるのだ。


これは、子供同士のイジメを少しでも減らしたいという気持ちで、

休日にボランティアで裁判の仕事を引き受けてくれる人達のためだ。


子供同士がケンカをしてケガをした場合、病院でケガとその原因を特定してもらう。


被害を受けた子供やその保護者が、スクール裁判所宛にモアで被害の内容をメールで送信すると、

休日に時間を設定し、裁判用の個室で話し合いが行われ、加害者側に罰が言い渡される。


まぁ、ボランティアで行う子供用の裁判だから、早ければ2、30分で決着するし、

反省の態度次第で、罰も軽くて済む。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


例えば、廊下・トイレ・シャワー室の掃除や、幼い子の世話をするスタッフの手伝いなど。


ただし、イジメで相手に相当な精神的被害を与えたとか、殴り合いで大ケガをさせたとか、

集団で計画的・組織的にイジメを行ったとなると、本格的な裁判が行われる。


裁判の結果次第では、スクールに戻ることは許されない。


エムフィ・エリアでは、防犯のため、あちこちでカメラとボイスレコーダーが作動しているし、

パトロール隊員もすぐに駆けつけられるよう、校内を常に移動している。


それでも、裁判を受ける子供は後を絶たない。


活発なキラシャは、ちょっとしたことでケンカに巻き込まれることが多く、何度か裁判のお世話になっていた。


〇●◎〇●◎〇●◎〇●◎〇●◎〇●◎〇●◎〇●◎〇●◎〇●◎〇●◎〇●◎


同じ年の子供は、他のエリアからの移住者が多く、人種の違いや、生まれの違いによって、

子供同士の言い争いが絶えなかった。


とはいえ、キラシャの場合、イジメに遭う友達や年下の子をかばって、イジメの相手を責めてしまい、

ちょっと手が当たって、転けただけでも、ケンカの加害者にされてしまうのだ。


それに、罰としてスタッフの手伝いを言いつけられると、どんな子とも仲良く一緒に遊んでしまうから、

キラシャの罰がスタッフの手伝いだと喜ぶ子が多い。


裁判の結果にがっかりしているキラシャが、幼い子供のいる大部屋へ入ってゆくと、

「キラシャが来た!」という声が聞こえ、歓声がわあっと上がる。


あまりの歓声に、キラシャも今までのいやなことをすっかり忘れ、仕方がないなぁとテレながら、

遊びの中に入っていくのだった。
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