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第3章 美しい転校生
⑤ オリン・ゲーム(1)
しおりを挟むオリン・ゲームは、初級・中級・上級レベルに分かれて、順番に行われる。
参加するのは、スポーツの時間にオリン・ゲームを選択した生徒と、
大会へ出てみたい希望者。
競技に参加しない生徒達は、オリン・ゲームの手伝いや、応援をするようになっている。
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初級レベルのゲームは、5人1組でスクール内に設置されたチェック・ポイントを通り、
ゴールまでを競う。
チェックポイントはすべてスクール内で、練習した時と同じ位置にあり、
制限時間が決まっているし、ゲームが終わると、すぐに中級レベルの応援に駆り出される。
時間内にゴールできず、中途半端なところで打ち切りになり、くやしい思いをする生徒も多いが、
そのことが、次の年に参加するオリン・ゲームのゴールへとつながるよう、指導されている。
▼△ ▼△ ▼△ ▼△ ▼△ ▼△ ▼△ ▼△ ▼△ ▼△
中級レベルのゲームは、コメット・ステーション広場がスタート地点。
人通りの少ない時間帯に、スタート時間が設定されている。
ゲームでは、問題が出題されるチェック・ポイントもある。
学習意欲を向上させるのが目的なのだが、勉強の苦手なキラシャは、
いつもこの点数でチームの足を引っ張っていた。
予選会の成績は、チームのタイムと、3人の問題の正解数が、総合成績として記録に残る。
個人成績としては、チームのタイムと自分の正解数が、単位を取得するための評価の対象となる。
エリアの大会では、タイムの方が重視される。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
上位20位までの出場権を獲得したチームのうち、上位30位までの選手と入れ替え可能で、
新しいチームを結成し、大会に臨む。
オリン・ゲームの開始時間が近づき、大勢の選手がスタート地点に集まった。
時間になると、スターターの先生が合図を送り、チームのリーダーにゲーム用のマップを送信。
マップを受信したリーダーは、モアの先に3Dホログラムで街のマップを広げ、
同じチームの3人でチェックポイントを確認する。
今回のチェックポイントは8ヶ所で、そのうち問題が設定してあるのは、広場にある3ヶ所。
そして、ゴール地点はスクールのトレーニング場。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
出発するのはいつでも良い。チェックポイントを通る順番を決めたら、
すぐに飛び出すチームもいるし、じっくり考えて走り出すチームもいる。
同じクラスの子達も、広い通路の両側で、手を振りながら応援している。
キラシャのチームの場合、スタート地点の広場のチェックポイントは後回しにして、
少し離れたボックスへ一緒に飛び込み、次の階のチェックポイントへと進んだ。
オリン・ゲームの極意は、なるべく人の少ないルートを探すこと。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
モアが混雑情報を伝えてくれるので、わざと寄り道して、ゴールに近いチェックポイントを
先に通過することも、上位のチームは積極的にやっている。
キラシャもタケルと組んだ時は、そうやってチームの総合成績に貢献していた。
タケルの場合、成績は悪いのに、勝負となるといろんな知恵を出して来る。
「次は、ここの人のいないボックスを使って、2階上のチェックポイントを目指そうぜ。
その次は、こっちのチェックポイントだからな」
キラシャとマキの手を引っ張って、走り出すタケル・・・。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
キラシャがタケルの背中を見つめていると、いつの間にかケンの後姿になっていた。
ケンはキラシャの視線に気が付いたのか、ニヤッと笑った。
「オレがタケルだったら良かったのになぁ」
思わず顔を赤くして、足がもつれそうになるキラシャ。
マイクもニヤッと笑っていたが、キラシャを見ていたのではないようだ。
「パール イタ。オレ ガンバル!」とうれしそう。
『そういえば、ユウキ先生とジョンとパールが、通路で声援を送ってたっけ。
そうか、マイクは本気でパールにイイトコ見せようとしているんだ・・・』
パールを探そうと、後ろを振り返るキラシャの手を握って、マイクはあわてて引っ張った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「タイムだけでも、20位内を目指そう!」
3人は声をかけ合いながら、チェックポイントを目指して、ボックスへと急いだ。
せまい場所のチェックポイントは、通路沿いに設置してあるので、
近づきながら証拠のメールを受信すれば良い。
このチェックポイントのメールは、チームが10mくらいまで近づかないと、
受信できないように設定してある。
チェックポイントの近くには、ニセモノも設置してある。マップで確認しながら、
ホンモノかどうかメールを受信しないとわからない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
広場のチェックポイントでは、問題を受信して答えなくてはならない。
この順番をどうつなげていくかが、勝敗を決めるポイントだ。
常に移動するパトロール・ロボットにも、チェックポイントが仕掛けられている。
このロボットもクセ者だ。ニセのロボットも何台かうろついている。
これもメールを受信できる位置まで近づいて、確かめなくてはならない。
キラシャのチームは、せまい場所のチェックを優先して、問題が出題されるチェックをなるべく後回しにした。
このメンバーでは、問題の正解率に期待ができない。
早くから問題に取り組んで、落ち込んでしまったら、後を引いてしまうからだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
4番目のチェックポイントをクリアし、パトロール・ロボット2機が、近くで移動中だとわかった。
「どうする?」とケンは、キラシャとマイクにたずねた。
「パトロール・ロボットは、ホンモノを見つけるのがやっかいだし、後回しにしようか」
タケルなら、自分の判断でルートを決めてしまい、マキがOKを出したら、
キラシャが意見を言ってもすぐ却下されていたが、ケンはすぐ2人にたずねてくる。
『考えてると、時間がロスしちゃうんだけど・・・』
マイクも判断がつかなくて迷っている。みんな、疲れて頭が働かない様子だ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「休憩所でドリンクをもらって、考えようか?」
いつもは頼りないが、時々、素晴らしく気の利いたことを言ってくれるケン。
パスボーでも、最近シュートが成功する確率が上がって、少しは自信が出てきたようだ。
3人はボックスを使って、休憩所へと移動した。
休憩所は、ボランティアでドリンクをサービスする大人と、それを手伝う子供達と、選手でいっぱいだ。
下級生達に、「キラシャ、がんばって!」と声をかけられ、急いでドリンクをもらって、一息ついた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
マキのチームは休憩が終わって、キラシャのそばを通り過ぎようとした。
「マキ、何ヶ所終わった?」とキラシャがたずねると、
「4ヶ所だよ。問題は全部答えたし、あとはロボットと、
3か所のチェックポイントでメールをキャッチするだけ」
とマキは余裕で答えた。
「うちも4ヶ所だけど、まだロボットと問題が3つ残ってるンだ。
マイクがあの転校生の応援で、ナンだか異常に張り切っちゃって。ゴールまで持つかな?」
マイクが真っ赤な顔をして、キラシャの口を覆った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
マキは「お先に・・・」と軽く手を振って、次のポイントへ向かい始めた。
後を追うコニーとカシューは、ちょっとふくれ気味で、イライラしているようにも見える。
ケンはその様子を見て、「マキのペースに合ってないンじゃないかな、あの2人」とつぶやいた。
今日はやけに張り切っているマイク。
「ツギノ ポイント ドコ?」とケンにたずねた。
「ロボットの周りは、どこも人が多いから、残しておいた最初の問題を目指そう!」
ケンの案に、2人も同意した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「マイク!まだ走れる?」
「OK!」
「よし、じゃあがんばろうぜ!」
3人は手をつないで、混雑していないボックスへ向かった。
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