【R18】どう見てもついて行ってはいけない系のお兄さんにペロッと食べられてしまった私の顛末

レイラ

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本編

02 シャツと液体

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 瞬間、すべてがスローモーションに見えた。
 ゆっくりとグラスから躍り出る、色のついた液体。そしてあやめの席の、すぐ隣を通ろうとする人影。

 ぱしゃ。

「ん?」
「!!!!」

 見ず知らずの人の真っ白なシャツに、褐色の液体が盛大にかかってしまっている。

「ごっ、ごめんなさ……! あの、おしぼりで拭きます、ので……!」

 動転しながら見上げ、固まってしまった。
 背の高い二人組の、前を歩いていた男の人の服にドリンクをかけてしまったのだが。

「うわっ! 藤さん、大丈夫ですか? ちょっとあんた、これどうしてくれんの?」
「ひっ……! す、すみません! わざとじゃなくて、人とぶつかってしまって……!」

 後ろの席を振り返ったが、そこにいた男性は明らかに知らないふりをしていた。関わりたくないのだろう。それもそのはず。

「あ? じゃぁおめーのせいで藤さんの服汚れたってことか?」

 後ろを歩いていた方の男があやめの話を聞き、ぶつかってきた人物に詰め寄った。

 人は見た目で判断してはいけない。それはあらぬ噂を広められているあやめが重々承知していることだ。
 けれど、今はそんなことを言っている場合じゃないと思う。

 見上げたあやめの目に飛び込んできた、藤と呼ばれた男の黒くて少し癖のあるマッシュヘア。その額を出したセンター分けから覗くのは、薄い色付きの丸眼鏡。
 大きく空いたピアスと、オーバーサイズの白シャツにシンプルなプレートのネックレスが存在感を放っている。
 ゆったりとした黒いボトムスに緩くサンダルを合わせ、柄物の派手なパーカーを肩を抜いて着崩していた。そして手足の爪にはバチバチの黒ネイル。
 まさにアングラ系を彷彿とさせる男の出で立ちに、そんな人にドリンクをぶちまけてしまったのかと、あやめは血の気が引いていく思いがした。

 そしてもうひとりのよく喋る男も、当然のように柄が悪い。
 つまり、今まで真っ当に生きてきたあやめが関わったことのないような人たちなのだ。

「えっと、あの……クリーニング代を……」
「お、おれは何もしてねえよ! その女がドジってひっかけたんだろ。もう行こうぜ!」
「おい!」

 席を立った後ろのグループに、今にも掴みかかろうとする男。だが。

「やめとき」

 ドリンクをかけられた、藤と呼ばれる男ががそれを止める。
 驚くほど澄んだ声だった。

「でも藤さん」
「別にええてこんくらい。お前血の気多いねん。ほれ、お姉ちゃんもビビッてもうてるやん。あ、ほら。奥に座り?」

 にっこりと、だが有無を言わさぬ圧を感じて奥へ席を詰めれば、あろうことか男はそのままあやめの隣に腰を下ろしてしまった。
 噛みつかれそうになっていた男たちが、その間にそそくさと店から出ていくのが視界の端に映る。

「あの、あの……ほ、本当にすみません。わざとじゃなくて」
「さっきも言うたやろ、ええんやってこれくらい~でもなんでお姉ちゃんひとりなん? 向かいに皿あるし、誰か座ってたっぽいけど。もしかしてデート中に彼氏帰ってもうたとか? あっそこのお兄ちゃん、生中ひとつ~」
「ちょっと藤さん」
「なんやお前まだおったん。もう帰ってええで、俺このお姉ちゃんと飯食って帰るから」

 なー? と返事を求められ、曖昧に笑う。今すぐにお金を置いて逃げたいくらいなのに、壁側の椅子に座らされてしまっているため通路に出られない。
 泣きそうになっていると、思わぬところから助け舟が出された。

「何言ってんですか。そんなのその子の迷惑でしょうよ。居心地悪いし、もう帰りますよ」
「せやからお前ひとりで帰り言うてるやん。なんやこの子訳ありみたいやし、ちょっとお話していくわ」
「い、いえ、あの私ももう帰るところでしたので」
「んー?」

 ぐっと距離が縮まり、下から顔を覗き込まれてしまう。薄く色づいた丸いグラス越しに見える瞳が細められ、背中がぞわりと粟立った。
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