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妖裁級
ルールと気持ち
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彰一と幡羅さんの戦いは呆気なく終わった。
幡羅さんは怪我一つしていなく、笑みを浮かべる余裕さえある。逆に彰一はお腹を抱えて床に倒れ込んでいた。
咳き込み、体をよじりながら痛みに耐えている。そんな彰一を目の前にし口角を上げ、人を馬鹿にするような言葉を吐き捨てながら幡羅さん。
「はい、これで終わり。大したことねぇな上級」
「っ、ごほっげほっ。クソがっ」
ちょっ、なにやってんの。彰一が起き上がろうとしてんだから、足で押さえつけるなよ。
「あの、あれってやりすぎなんじゃ」
近くにずっと立っていてくれた明神さんに聞いても反応がない。いや、なんか反応してくださいよ。
「もう一回やるか? ニシシ」
竹刀を肩に担ぎ、余裕の笑みで彰一の頭を踏みつけながら見下ろす幡羅さん。
もう一回やったところで、多分結果は変わらない。それくらいの実力差が出ていた。あれが、私達が所属する妖殺隊の最後の砦、妖裁級。絶対に勝てるわけが、ないよ。
※
彰一の攻撃で幡羅さんは壁まで飛んで行った。けど、それは無意味。吹っ飛ばされた幡羅さんは、体を回転させ両足を壁に付けダメージをなくす。そのまま次の動作へ移行。
雷神のごとき速さで彰一へと突っ込み、攻撃の隙すら与えず終了。彰一の懐に入った瞬間、溝内に思いっきり蹴りを食らわせてみたい。なんとか発砲はしていたが、早すぎて一発も当たる事はなかったみたい。
幡羅さんの戦い方はどうやら”速さ”を活かすものらしい。目で追いつけないほどのスピードで避けたり、距離を詰めたり、攻撃を仕掛けたりなど。
自身の体を最大限活かした戦い方をしていると、明神さんが教えてくれた。
凄すぎる。
※
「どうすんだ、上級さん」
いや、早くその足をどけてくださいよ。人を足で踏むなんて。もう勝負は終わっているじゃないですか。
「やめてください。彰一はもう立てません。貴方の勝ちです!!」
こんな光景を見て我慢なんて無理。早く、辞めさせないと!!
「へぇ、それは嬉しいな。だが、おめぇがそう言ってもこいつはどうなんだろうなぁ。俺は今こいつと戦って、話してんの。外野が口出ししてんじゃねぇーよ」
「なら、早くその足をどけてください。どけたら何も言いません」
いくら強くて、上位クラスだからってやっていい事と悪いことがある。それすら分からないのかこの人。ふざけるな。
「人を足蹴になんてしないでください!! いくら貴方が妖裁級なのだとしても、それは人間としてやってはいけない行為です」
私が言うと、何故か意外そうな顔を浮かべた幡羅さん。私があなたに対して叫んだからそんな顔を浮かべているんですか? そんなの当たり前ですよ。大事な人が足蹴にされているんですから怒鳴るのは当然です。
って、え。さっきまでとは違う真面目な表情をいきなり浮かべないでください。なんですか。まるで、私の心を読んだようなタイミングなんだけど……。
「──わかった」
あれ、普通に足をどけてくれた。意外に素直な人だな。もっと色々言ってくると思ってた。
よかった。足が退かされたから、彰一はお腹を抱えながらも立ち上がることが出来る。
とりあえず、この勝負はこれで終わ──
────ドゴン!!!!
「…………え」
な、にが起きたの。いきなり、何かが横切った? 何が横切ったの? 髪が揺れるほどの勢い。それに、後ろから勢いよく壁にぶつかった音が聞こえた。
「あ、きひ……と?」
なんで、彰一が後ろの壁に背中をつけてり気絶しているの? それに、壁には赤い液体。あれは、血? 彰一の?
「な、なんで?」
彰一の近くには手に持っていた二丁拳銃が転がってる。壁についてる血って、もしかして彰一、頭をぶつけた? 膝に血が落ちてるように見えるんだけど。
それに、壁がなんでへこんでるの。ぶつかった衝撃? 何が起きたの、わからない。
「お前、ルールしっかり聞いてた?」
っ、後ろから、不機嫌そうな幡羅さんの声。いや、なにしてくれたんですか。なに、不機嫌そうに立っているんですか。貴方がそんな顔を浮かべるのはおかしいでしょう。
「ルールって、どういうことですか」
「ルールは相手を行動不能にすること。さっきまでのあいつはまだ自分で動けてた。降参すれば俺もこれ以上はやらなかったが、あいつはしないだろう。ニシシッ」
手を頭の後ろに回し、そう説明している幡羅さん。いや、そんな説明されても私は全く納得することが出来ないんだけど。
彰一は確かに自分で立ち上がってはいたし意識も飛んでいなかった。でも、確実に勝負は決まっている状態だった。なのに、なんでここまでやるの。ここまでやる必要は絶対にないはずなのに。
それなのにこの人は、溝内を殴り足蹴にしただけでなく、彰一を反対側の壁まで吹っ飛ばせ気絶させた。そんなの、絶対に許せない。
「聞いてるか?」
唇を尖らせ、子供のように拗ねた口調の幡羅さんだったが、私にはどうでもいい。
「次は私と、殺ってください。幡羅さん」
自身の腰に差していた刀に手を添えて、挑んでやった。もう怒った、本気で。許せない。
相手は竹刀だけどどうでもいい。彰一にこんなことしたんだ、こっちは刀を使っても問題ないはずだろう。
幡羅さんは不思議そうに首を傾げている。もしかしたら、なんで私がこんなに怒っているのか分からないのかもしれない。
チラッと彰一の方を見ると、海偉さんと茉李さんが彰一の怪我を見てくれていた。良かった、安心だ。
「なんで俺がお前の相手もしないといけないんだよ。大体、お前の相手はもう決まってんじゃん。俺が相手になる訳ないだろ」
やれやれと、わざとらしく肩を落とすなよ。その余裕そうな行動一つ一つにも腹が立つ。
「何怒ってんの? ルールをしっかり聞いていればこんな事態直ぐに想像つくじゃん。俺があんな弱いのに負けるわけないしさ。ちゃんと殺る前にルールぐらいは理解しとけよなぁ」
「妖裁級だから何やってもいいんですか? 強いから何してもいいんですか? 何を言っても許されるんですか? そんなの、私は絶対に嫌です」
殺意の込めた目を幡羅さんに向けながら、私は刀を鞘から抜く。水色に輝く刀を幡羅さんに向け、刃先を突きつけた。
私は本気だ。本気で、許せない。
「まったく。おい海偉、いいのか? 俺が相手して」
「ここまで怒っているなら何を言っても意味なさそうだしね。僕はいいよ」
「いいのかよ。嫌だって言ってくれた方が俺としては助かったのになぁ」
余裕そうに頭を掻きながら、幡羅さんは受け答えしてる。それに対しても腹立つな。もう、何でもいいからやろうよ。早く、早く……。
私のこの、心に渦巻く恨みを、発散させて――……
「──殺りましょう」
「お前のまんまか、まぁいいや。すぐに終わらせてやるよ」
今回は入れ替わらないよ。私が、やりたいの。たとえ、一瞬で終わったとしても。やらないと、気が済まない。
「……ふぅ」
いや、落ち着け。戦闘はどれだけ冷静に考え、行動できるかにかかっている。乱れている心で勝てるわけが無い。
一定のテンポを意識して呼吸。
「あ」
さっきまで海偉さんが立っていた場所に、今度は明神さんが無表情で立ってる。
勝手をしてすいません、ありがとうございます。
幡羅さんは怪我一つしていなく、笑みを浮かべる余裕さえある。逆に彰一はお腹を抱えて床に倒れ込んでいた。
咳き込み、体をよじりながら痛みに耐えている。そんな彰一を目の前にし口角を上げ、人を馬鹿にするような言葉を吐き捨てながら幡羅さん。
「はい、これで終わり。大したことねぇな上級」
「っ、ごほっげほっ。クソがっ」
ちょっ、なにやってんの。彰一が起き上がろうとしてんだから、足で押さえつけるなよ。
「あの、あれってやりすぎなんじゃ」
近くにずっと立っていてくれた明神さんに聞いても反応がない。いや、なんか反応してくださいよ。
「もう一回やるか? ニシシ」
竹刀を肩に担ぎ、余裕の笑みで彰一の頭を踏みつけながら見下ろす幡羅さん。
もう一回やったところで、多分結果は変わらない。それくらいの実力差が出ていた。あれが、私達が所属する妖殺隊の最後の砦、妖裁級。絶対に勝てるわけが、ないよ。
※
彰一の攻撃で幡羅さんは壁まで飛んで行った。けど、それは無意味。吹っ飛ばされた幡羅さんは、体を回転させ両足を壁に付けダメージをなくす。そのまま次の動作へ移行。
雷神のごとき速さで彰一へと突っ込み、攻撃の隙すら与えず終了。彰一の懐に入った瞬間、溝内に思いっきり蹴りを食らわせてみたい。なんとか発砲はしていたが、早すぎて一発も当たる事はなかったみたい。
幡羅さんの戦い方はどうやら”速さ”を活かすものらしい。目で追いつけないほどのスピードで避けたり、距離を詰めたり、攻撃を仕掛けたりなど。
自身の体を最大限活かした戦い方をしていると、明神さんが教えてくれた。
凄すぎる。
※
「どうすんだ、上級さん」
いや、早くその足をどけてくださいよ。人を足で踏むなんて。もう勝負は終わっているじゃないですか。
「やめてください。彰一はもう立てません。貴方の勝ちです!!」
こんな光景を見て我慢なんて無理。早く、辞めさせないと!!
「へぇ、それは嬉しいな。だが、おめぇがそう言ってもこいつはどうなんだろうなぁ。俺は今こいつと戦って、話してんの。外野が口出ししてんじゃねぇーよ」
「なら、早くその足をどけてください。どけたら何も言いません」
いくら強くて、上位クラスだからってやっていい事と悪いことがある。それすら分からないのかこの人。ふざけるな。
「人を足蹴になんてしないでください!! いくら貴方が妖裁級なのだとしても、それは人間としてやってはいけない行為です」
私が言うと、何故か意外そうな顔を浮かべた幡羅さん。私があなたに対して叫んだからそんな顔を浮かべているんですか? そんなの当たり前ですよ。大事な人が足蹴にされているんですから怒鳴るのは当然です。
って、え。さっきまでとは違う真面目な表情をいきなり浮かべないでください。なんですか。まるで、私の心を読んだようなタイミングなんだけど……。
「──わかった」
あれ、普通に足をどけてくれた。意外に素直な人だな。もっと色々言ってくると思ってた。
よかった。足が退かされたから、彰一はお腹を抱えながらも立ち上がることが出来る。
とりあえず、この勝負はこれで終わ──
────ドゴン!!!!
「…………え」
な、にが起きたの。いきなり、何かが横切った? 何が横切ったの? 髪が揺れるほどの勢い。それに、後ろから勢いよく壁にぶつかった音が聞こえた。
「あ、きひ……と?」
なんで、彰一が後ろの壁に背中をつけてり気絶しているの? それに、壁には赤い液体。あれは、血? 彰一の?
「な、なんで?」
彰一の近くには手に持っていた二丁拳銃が転がってる。壁についてる血って、もしかして彰一、頭をぶつけた? 膝に血が落ちてるように見えるんだけど。
それに、壁がなんでへこんでるの。ぶつかった衝撃? 何が起きたの、わからない。
「お前、ルールしっかり聞いてた?」
っ、後ろから、不機嫌そうな幡羅さんの声。いや、なにしてくれたんですか。なに、不機嫌そうに立っているんですか。貴方がそんな顔を浮かべるのはおかしいでしょう。
「ルールって、どういうことですか」
「ルールは相手を行動不能にすること。さっきまでのあいつはまだ自分で動けてた。降参すれば俺もこれ以上はやらなかったが、あいつはしないだろう。ニシシッ」
手を頭の後ろに回し、そう説明している幡羅さん。いや、そんな説明されても私は全く納得することが出来ないんだけど。
彰一は確かに自分で立ち上がってはいたし意識も飛んでいなかった。でも、確実に勝負は決まっている状態だった。なのに、なんでここまでやるの。ここまでやる必要は絶対にないはずなのに。
それなのにこの人は、溝内を殴り足蹴にしただけでなく、彰一を反対側の壁まで吹っ飛ばせ気絶させた。そんなの、絶対に許せない。
「聞いてるか?」
唇を尖らせ、子供のように拗ねた口調の幡羅さんだったが、私にはどうでもいい。
「次は私と、殺ってください。幡羅さん」
自身の腰に差していた刀に手を添えて、挑んでやった。もう怒った、本気で。許せない。
相手は竹刀だけどどうでもいい。彰一にこんなことしたんだ、こっちは刀を使っても問題ないはずだろう。
幡羅さんは不思議そうに首を傾げている。もしかしたら、なんで私がこんなに怒っているのか分からないのかもしれない。
チラッと彰一の方を見ると、海偉さんと茉李さんが彰一の怪我を見てくれていた。良かった、安心だ。
「なんで俺がお前の相手もしないといけないんだよ。大体、お前の相手はもう決まってんじゃん。俺が相手になる訳ないだろ」
やれやれと、わざとらしく肩を落とすなよ。その余裕そうな行動一つ一つにも腹が立つ。
「何怒ってんの? ルールをしっかり聞いていればこんな事態直ぐに想像つくじゃん。俺があんな弱いのに負けるわけないしさ。ちゃんと殺る前にルールぐらいは理解しとけよなぁ」
「妖裁級だから何やってもいいんですか? 強いから何してもいいんですか? 何を言っても許されるんですか? そんなの、私は絶対に嫌です」
殺意の込めた目を幡羅さんに向けながら、私は刀を鞘から抜く。水色に輝く刀を幡羅さんに向け、刃先を突きつけた。
私は本気だ。本気で、許せない。
「まったく。おい海偉、いいのか? 俺が相手して」
「ここまで怒っているなら何を言っても意味なさそうだしね。僕はいいよ」
「いいのかよ。嫌だって言ってくれた方が俺としては助かったのになぁ」
余裕そうに頭を掻きながら、幡羅さんは受け答えしてる。それに対しても腹立つな。もう、何でもいいからやろうよ。早く、早く……。
私のこの、心に渦巻く恨みを、発散させて――……
「──殺りましょう」
「お前のまんまか、まぁいいや。すぐに終わらせてやるよ」
今回は入れ替わらないよ。私が、やりたいの。たとえ、一瞬で終わったとしても。やらないと、気が済まない。
「……ふぅ」
いや、落ち着け。戦闘はどれだけ冷静に考え、行動できるかにかかっている。乱れている心で勝てるわけが無い。
一定のテンポを意識して呼吸。
「あ」
さっきまで海偉さんが立っていた場所に、今度は明神さんが無表情で立ってる。
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