輪廻を周り、恨みを払う刃となれ

桜桃-サクランボ-

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恨呪

主様

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 京夜さんのお兄さんに出会ってから数週間。私の左右非対称の目は一晩で元に戻った。何で目の色が変わってしまったのかわからない。

 あの後、京希さんがいち早くいなくなって、怪我した幡羅さんも自力で歩いて自分の寮へと戻ってしまった。
 あんなに怪我して普通に動けるなんて。怨呪より体、丈夫なんじゃないの。もしかすると、もう一人の私並み……。いや、それはないか。さすがに体真っ二つは死んでしまうよね。

 今回は私も彰一も、幡羅兄弟のおかげで怪我しないで済んだ。いや、恨呪《こんじゅ》からの怪我は誰もしてないか。京希さんだもんな、幡羅さんを怪我させたの。

 あの時の私は何もできなかった。驚いてばかりで、何もできなかった。武器を持っていなかったのもあるけど、それにしてもだ。ほかにも何かできたはずだ。

「戦うのはもう一人に任せているし、私にできること……」

 ……。え、私って、役立たず?
 部屋で寝っ転がっているのもなんか落ち着かない。

「そういえば恨呪って、今はどこまで情報を掴んでいるんだろう」

 もう一人の私は頭がそこまでよろしくないみたいだし、せめて今の私くらいは少しでも情報を調べた方がいいような気がする。

 よし、妖雲堂には調書室があるし。そこで、怨呪と恨呪について調べよう。

 ※

「初めて入ったけど、結構広いな」

 調書室の中は、一般的な図書館と同じ広さだ。六段式の本棚が軽く十個以上。本の数なんて、数えたくないほど沢山ある。

 調書室の出入口から入って、本棚ロードの真ん中を奥まで進む。
 壁に備え付けられている蝋燭が道を照らしてくれているし、少し気をつけるだけで問題は無い。

 真っすぐ続く道を歩くと、テーブルと椅子が何個もある場所についた。ここで気になった本とかを読むんだろうなぁ。持ち出し大丈夫なものは部屋に持ったいたりとか。
 
 にしても、ここはなんだか落ち着くなぁ。高級感が凄い。木製の建物だからか暖かい感じだし。ここなら集中して調べ物が出来そう。

「よし、調べるか」

 本棚から何冊か抜き取って、くつろぎスペースに。
 今日は私以外一人も居ないから自由に使える。ふふっ、こんなに快適で素敵な空間を私が独り占め。幸せな時間だぁ。調べ物だけど。

「えっと、怨呪と恨呪の違いが載っているのは──っと。あ、あったあった」

【怨呪】
 ・生き物の怨みが集まり、一匹の動物を狂暴化させる。
 ・人を襲い、食料としている?
 ・擬態能力あり、大きな怨みなら見つけるのは困難。
 ・朝昼夜関係なく出現するが、力は夜の方が増幅する。
 ・回復能力なし
 ・戦闘時に変化する場合がある。
 ・浄化する方法は癒白玉から出る光で包み込むこと。

【恨呪】
 ・人間が凶暴化し暴れ回る。
 ・人が制御しきれなかった恨みが溢れ出てしまい、自我を持ってしまう。
 ・人間を殺さなければ恨呪は現れない
 ・殺したところで浄化しなければ近くの人に乗り移る

 あ、最後は前回の恨呪についてだ。

 他にもこと細かく書いていたけど。でも、やっぱり怨呪より恨呪の情報の方が圧倒的に少ない。それに、殺すしか出来ないと書いてあるなんて。

「だから前回、京希さんは躊躇うことなく足を切り落とし、殺したのか……」

 京希さんはこれをわかって──いや、京夜さんも分かっていたはず。分かっていたはずなのに、救おうとしてたんだ。だから、すぐには殺さず他の方法を探してた。

 あの男の人と隊員を、救う方法を。

「やっぱり、京夜さんは優しいんだ。彰一にしたことは許せないけど」

 そっと本を閉じる。椅子の背もたれに思いっきり寄りかかり天井を見上げるけれど、あの時の光景が頭をよぎり落ち付かない。

 第二被害を出さないようにすぐに殺した京希さん。時間はかかっても新しい情報を引き出し、救おうとした京夜さん。
 どちらも間違えてない。でも、もし。私が京夜さんと同じ立場だったら、多分。同じく救おうとしていたと思う。

 まだ情報が少ないという事は、今まで出現していなかったってことになるんじゃ。なら、あの時は情報を抜き取るのに絶好のチャンスだったはず。
 まぁ、どっちにしろ。あの時は、殺すのが一番だったかもしれない。夜も近づいていたわけだし。

「京夜さん、体大丈夫かな……」

 結構な怪我していたし、今も医療の人のお世話になっているんだろうな……。



 ――――サラッ  

 ん? 頬に髪がかかる感覚が???




「よぉ、俺を名前で呼ぶくらい偉くなった中級君。ニシシ」



 ……ん?

「────────えっ。きょう……幡羅さん。こここここんにちは……。では、私はこれで失礼しま──」

 紫髪が視界に入った瞬間、私の頭に警告音が鳴り響いた。ここから逃げろと、じゃなければ殺されるぞと。
 その音に従うようにズルズルと椅子からゆっくり降り、地面に這いつくばり逃げる。

 まだ、私は殺されたくない!!

「ぐえ!!」
「俺から逃げれると思ってんのか? 俺も甘く見られたもんだな、ニシシッ」
「く、首が締まります幡羅さん」
「ニシシ。首根っこ掴まれたくらいで締まるなんてな。やっぱよぇな、お前」
「首根っこつかまれたら──こほ。普通に首締まります」

 って、苦しい。本気で苦しいです幡羅さん!!! 離してくださいよ!!

「いったい!!」

 離してほしいは思っていたけど、落とすことないじゃないですか!! お尻が痛い。

「なんでここにいるんですか。こほっ」
「前に言ってた用事だ。今回、銃使いは居ないらしいな。まぁいい。行くぞ」

 あの、少しは心配してくれてもよくないですか幡羅さん……、お尻結構痛いんですが……。

「やっぱり、この人優しくない」


 ※


「二度目ましての御屋敷ですね」
「置いてくぞ」
「あ、はい」

 前に呼び出された時以来の大きな古めかしいお屋敷。
 来る途中で幡羅さんが教えてくれたんだけど、このお屋敷は妖殺隊を作った主が住んでいるらしい。それだけではなく、妖裁級の人達用の部屋もあり暮らしているみたい。

 部屋の中を見た事がないからよく分からないけど、このお屋敷自体大きいし、部屋も広いんだろうなぁ。

 ここの御屋敷名は【妖裁堂ようさいどう】。
 多分だけど、妖裁級の人達が住んでるから──だよね。めっちゃ安直な名前だけど、いいのか?

 そんな疑問を口に抱けるほど、私は肝が座っていないためそのまま黙っておきますが……。

「あの、ところで私はなぜ呼ばれたのですか? 誰に呼ばれたのでしょうか」
「行けばわかる。それに、今名前言ったところでわかんねぇだろうがお前」

 うっ、たしかに。分かりません……。でも、そんなはっきり言わなくても。仕方がありませんが……。分からないのは事実ですしね。

 妖裁堂の廊下を歩いていると、見覚えのある庭が……。
 以前と変わらず、大きな木や池。自然を大事にしている庭だなぁ。誰が整備してんだろう。前とは違って、和やかな雰囲気だ。

 前回は幡羅さん含め。妖裁級の人達が威圧感丸出しで立っていたから、和やかな雰囲気は消えていたからなぁ。
 あの時は本気で殺されると思って、めちゃくちゃ怖かったよ……。もう、死んだと思ったね。

「ここだ」
「ここって……」

 前回とは違う部屋だ。でも前回より一際大きい襖だなぁ。

「ここは?」
「この中にお前を呼んだ主がいる。あと、数名の妖裁級もな」
「そうなんですか」

 ん? あれ。幡羅さん? 襖の前で片膝をつき頭を下げてどうしたんですか?

「主様。楽羅輪廻隊員を連れてまいりました」

 さっきまでとは違う、芯のある声。雰囲気もかわった。緊張感が漂い、動けなくなった。
 この中にいる人は、相当の権力保持者なのだろうか。

「入っておいで」

 返ってきた声は優しく、暖かった。それでいて、少し寂しい気持ちにもさせる。
 声だけだと言うのに、胸がざわつく。

 一体、中にいる人はどのような人なんだ。

 声が返ってきたのと同じタイミングで、幡羅さんがゆっくりと襖を開いた。
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