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恨力

千里眼

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 す、凄い。いや、もはやすごいという事しかわからない。

 相手を動きを完璧に封じ、大きな一発は狙わず地道に。それでも確実に削っていき相手を弱らせていく。
 
 男性が何か動きを見せる前に仕掛け、身動きすら取らせない。徐々に傷つき、血がしたたり落ちる。足、腕。次はどこを狙うのか。

 というか、どうやって男の先を読み攻撃を仕掛けているんだろう。予備動作? いや、男性にそんな動作はない。動く気配すらないから、いつの間に近付かれている。

「どこを見て相手の動きを先読みしているんだろう……」
「あれが京夜の恨力。簡単に言えば千里眼だ」
「千里眼?」

 千里眼って、遠くの光景を見たり、相手の思考や将来を見通すことが出来るってやつだったかな。

 ……………え。

「もしかして幡羅さんって、相手の考えていることが分かる感じですか?」
「その力なら主様も封じることが出来なかったらしく、普段から発動している。ちなみに、遠くを見る、未来を見るは封じているため普段は使われないぞ。だが、今は解放したらしく一時的に使用可能となっている」

 えっと。つまり幡羅さんの恨力は”目”。
 相手の思考を読み取る、何メートル先の景色を見ることができ、少し先の未来を見ることまで可能。

 え、最強じゃないですか。やばいっすね感動。

「だが、やはりずっと使っていると目が痛くなり眩暈が起きるらしい。頭痛もしてしまう為、長くても三十分。それ以上は無理だそうだ」

 三十分。短いな。今で何分何だろう、あとどのくらい持つのだろう。

 幡羅さんの戦術は少しずつ相手を削るもの。時間制限がある恨力との相性が悪い。でも、それもわかって幡羅さんは戦闘を行っているはず。この戦闘、終わりが、わからない。

「お前さんはやはり強い。おじさんも本気を出さなければならないねぇ~」
「なに? っしま――」


 ――――バタッ


「っ?! なっ……」

 幡羅さんが、空中でいきなり動きを止めて、そのまま地面に落ちた? 怪我をしたわけではないみたい。でも、動かない。

 私も、助けに行きたいのに、行けない。

 私達が居る方向だと背中しか見えないはずなのに。攻撃を仕掛けようと思えば出来る状況なのに。体を出来ない。

 幡羅さんは顔だけを上げるけど、その顔は真っ青。歯を食いしばり、男性を睨みつけている。

 なんだ、これ。怖い。
 今までとは段違いの重くのしかかる黒いオーラ。男性の近くだけ空気が重くなったように感じる。

「おじさんも力を封じていたんだよね。だって、この力を解放してしまうと、君を殺してしまうから」
「はっ、くそが!!」

 言いきった直後、幡羅さんは何かを足元から感じとったらしく、勢いよく空中へと跳んだ。う、動けたんですね??

「え、なにっ?!」

 元々幡羅さんがいた場所には煙が渦巻き、近くにあった木などが溶け跡形もなく無くなってしまった。

 あの煙って────

「ふぅ。やはり、これを使うと気分がいい。たまには違う煙草で気分を変えるのもいいかもしれないねぇ」

 そういうことか。多分だけど、煙草の種類を変えたらしい。でも、煙草に興味が無いからか。見た目は変わっていないように見えるなぁ……。いや、変えたということを悟らせないように、わざと同じ見た目にしているのか。

 空中に避けた幡羅さんに向かって、溶ける煙が襲いかかる。

「幡羅さん!!!!!」

 思わず大きな声で叫んでしまった。
 あ、あれ? なんか……。ワイヤー銃の銃口を美輝さんに向けてない?

 って、そのまま放った?!?! 危な!?!? なぜこっちに向ける!?!?!?

 慌てて避けようとするけど体は動かないまま。ワイヤーは私の横にいる美輝さんに放たれる。横目で見ると、美輝さんは冷静に両手剣にワイヤーを絡ませた?!
 確認すると、幡羅さんは煙に当たる直前にワイヤーを吸い取り、私達のところまで一瞬で移動してきた。

 うわお、こんな使い方が……。

「動けるのか?」
「斬れている腕をひっかいて拘束を解いた」

 え、腕をひっかいたの!? 聞いただけで痛い!!

「なるほどな。京夜、あれはなんだ」
「触れただけで溶かす酸のようなものだろうな。恐らく、あれが本来の男の恨力。力に制限があるため今まで使ってこなかったんだろう。ニシシッ、これはまずいぞ」

 口角を上げ男性を見ている幡羅さんだけど、額からは汗を流し、左右非対称の瞳には焦りが見え隠れしているように見える。

 …………幡羅さんの右目が黒くなってるの、なんかかっこいい。

「おい、見学料取るぞ」
「失礼いたしました幡羅様。どういたしましょうか」

 やば。そういえばこの人には思考がダダ漏れだったんだ。もしかして今までのも聞かれていたってこと?
 そういえば、何回か読心術みたいなものを感じてたけど、本当に思考を読んでいたってことか。

 …………恥ずかしすぎるんですけど!! よかった!! 幡羅さんが近くにいる間に雪那せつなさんと会わなくて!!!

「安心しろ。てめぇの恋心など俺にはどうでもいい」
「見抜かれていた!?」
「人を好きになるのは勝手だ。だが、忘れるんじゃねぇぞ。俺達はいつ死んでもおかしくない。そんな道に立っている。茨じゃねぇ。いつ、何時、何が起きるかわからない。崖っぷちの道を進んでいるということは、絶対に忘れんな」

 いつも人を小馬鹿にするような表情を浮かべているのに、その時だけは真面目で、見ただけで体がしびれ何も言えなくなる。

「とりあえず、今回がその試練だ。せいぜい崖から落ちないように気をつけるんだな」

 私から目を離し、幡羅さんは相手の男性へと顔を向き直してしまった。
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