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第一話
目覚めのホットミルクをどうぞ
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ぱちぱちと火の弾ける音が聞こえる。
俺が重い瞼を開けると、全く知らない天井が見えた。
青白い光がゆらゆらと揺れている。
身を捩ると、ギシリ、とベッドのスプリングが軋む音がした。
俺はどうやらベッドに寝ているらしい。
布の擦れる音が聞こえて、首を動かし、そちらの方を見る。
窓辺に、白い人影が立っていた。
その人は窓の外の雪を眺めていた。
月光に照らされた銀色の髪が、雪のように光を反射している。
聖人、天使、神様……ぼんやりとそんな言葉達が頭に浮かんだ。
ふと、瞳孔のない薄紫色の瞳がこちらを見た。
俺は驚いて一瞬だけ目を閉じた。瞬きと言って良い。
「お目覚めになられましたか」
次に目を開けたとき、かぼちゃ頭が俺の目の前にあった。
「ふっ……フロスティ辺境伯……!」
俺は驚いて、飛び起きた。
直後、こめかみを突き刺すような痛みが遅い、俺はベッドに逆戻りすることになった。
「ああっ」とヨクルは声を漏らした。
「いきなり起き上がってはいけません。まだ本調子ではないはずですから」
ヨクルはそっと俺に布団を掛け直した。
頭が重く、上手く思考がまとまらない。
まずは、大事なことを確認しなくては。
「俺はティルヴィング・イアリ、銀竜騎士団の騎士。騎士団長の命令で、奇妙な森に派遣された……で合ってますか?」
「ええ。合ってますよ」
俺は一先ず安心した。
だが、自分が何故ベッドの上にいるのかは思い出せない。
ヨクルと共に異形を倒したところまでは覚えているのだが……。
「俺に何があったんです……?」
「瘴気を浴び過ぎたようですね。長旅の疲れもあって、意識を失ってしまったのでしょう」
「瘴気……」
瘴気は異形が放つ空気のようなもので、人間の体に悪い影響を与える。
異形と戦えば、多少は浴びてしまうものだが……。
たった数分戦った程度で意識を喪失することは滅多にない。
銀竜騎士団の騎士として、不甲斐ない限りだ。
「この程度なら、一晩休むだけで回復すると思いますよ」
しかも、主君に世話されるなんて。ますます自分が情けなくなった。
「本当に申し訳ありません……。貴方は大丈夫なんですか」
「僕は瘴気の影響をあまり受けない体質でして。多少、浴びても平気なんですよ」
なんて羨ましい体質だ、と俺は恨めしげな目でヨクルを見た。
瘴気の影響は簡単に取り除けるものではない。
俺はそれを身をもって知っている……。
「言ったでしょう。『この森は危険』だと。生身の人間が暮らせるような場所ではありません」
「じゃあ、何故、騎士の派遣を断らなかったんです?」
「森の雪達は新しい風が吹くのを好みます。変わり映えのない毎日では、退屈してしまいますからね。ですから、僕は派遣された騎士を一時的に受け入れることしているんです」
「それで、すぐに追い返すんですか」
「出て行ってしまう、と言った方が正しいですね」
大体の人間は幻聴や幻覚といった異変に恐怖し、数日経たずに逃げ出すそうだ。
俺のように異形と相対して、瘴気の被害に遭い、治療のために森を離れることもあるという。……おそらく、体の良い口実だろうが。
どちらも、痛い目を見て去っていくのは同じだ。
「騎士団の方も、根性を叩き直す──新人教育の一環として、命令違反をした者や態度の悪い若い者を寄越してきます。つまりは、利害の一致ですね」
確かに、問題児の教育にはうってつけの場所だ、と俺は自嘲した。
紫色の霧に幻聴と幻影、しかも、頻繁に異形が湧き出すのだ。
俺もヨクルがいなければ、すぐにここから逃げ出していたことだろう。
辺境の地で人知れず異形と戦う者がいる……。彼は逃げ出さずに使命を果たしていた。
俺はふと、暖炉の方に目を向けた。
ランプと同じ、青白い炎が燃えている。
「ここの炎は青白いんだな……。これも異変ですか?」
「異変と言えば、異変ですね。特に害はありません。この森の特色のようなものです。赤い炎より、視界を広げること、人肌を温めることに長けています」
「こんな優しい異変もあるんだな……」
青白い炎は、冷たい色なのに温かい。
「ホットミルクでも飲まれますか?」
俺が暖炉を見つめていると、ヨクルは言った。
返答を聞く前に、ヨクルは戸棚を開け、マグカップ、スプーン、スキムミルクと蜂蜜の瓶を取り出して、テーブルの上に置いた。
スキムミルクをマグカップに三杯入れた。
暖炉のそばに置かれていたケトルから湯を注いだ。
スプーンで軽く混ぜ、仕上げに蜂蜜を三掬いほど入れる。
俺は一連の動作をぼんやりと眺めていた。
「起き上がれますか」
ヨクルが問う。
俺はゆっくりと起き上がった。今度は頭痛に襲われることはなかった。
「どうぞ」と差し出された蜂蜜入りホットミルクを俺は受け取り、少しでも冷めるように息を吹きかけた後、ゆっくりと口をつけた。
温かさと甘さが舌に広がり、思わず身を震わせた。
「お味はどうでしょう」
「甘ったるいですね」
俺は少し笑いながら言った。
「……すみません。自分では飲まないもので。作り直します」
「いいや、これが良い」
俺はそう言って、もう一口飲んだ。
俺が重い瞼を開けると、全く知らない天井が見えた。
青白い光がゆらゆらと揺れている。
身を捩ると、ギシリ、とベッドのスプリングが軋む音がした。
俺はどうやらベッドに寝ているらしい。
布の擦れる音が聞こえて、首を動かし、そちらの方を見る。
窓辺に、白い人影が立っていた。
その人は窓の外の雪を眺めていた。
月光に照らされた銀色の髪が、雪のように光を反射している。
聖人、天使、神様……ぼんやりとそんな言葉達が頭に浮かんだ。
ふと、瞳孔のない薄紫色の瞳がこちらを見た。
俺は驚いて一瞬だけ目を閉じた。瞬きと言って良い。
「お目覚めになられましたか」
次に目を開けたとき、かぼちゃ頭が俺の目の前にあった。
「ふっ……フロスティ辺境伯……!」
俺は驚いて、飛び起きた。
直後、こめかみを突き刺すような痛みが遅い、俺はベッドに逆戻りすることになった。
「ああっ」とヨクルは声を漏らした。
「いきなり起き上がってはいけません。まだ本調子ではないはずですから」
ヨクルはそっと俺に布団を掛け直した。
頭が重く、上手く思考がまとまらない。
まずは、大事なことを確認しなくては。
「俺はティルヴィング・イアリ、銀竜騎士団の騎士。騎士団長の命令で、奇妙な森に派遣された……で合ってますか?」
「ええ。合ってますよ」
俺は一先ず安心した。
だが、自分が何故ベッドの上にいるのかは思い出せない。
ヨクルと共に異形を倒したところまでは覚えているのだが……。
「俺に何があったんです……?」
「瘴気を浴び過ぎたようですね。長旅の疲れもあって、意識を失ってしまったのでしょう」
「瘴気……」
瘴気は異形が放つ空気のようなもので、人間の体に悪い影響を与える。
異形と戦えば、多少は浴びてしまうものだが……。
たった数分戦った程度で意識を喪失することは滅多にない。
銀竜騎士団の騎士として、不甲斐ない限りだ。
「この程度なら、一晩休むだけで回復すると思いますよ」
しかも、主君に世話されるなんて。ますます自分が情けなくなった。
「本当に申し訳ありません……。貴方は大丈夫なんですか」
「僕は瘴気の影響をあまり受けない体質でして。多少、浴びても平気なんですよ」
なんて羨ましい体質だ、と俺は恨めしげな目でヨクルを見た。
瘴気の影響は簡単に取り除けるものではない。
俺はそれを身をもって知っている……。
「言ったでしょう。『この森は危険』だと。生身の人間が暮らせるような場所ではありません」
「じゃあ、何故、騎士の派遣を断らなかったんです?」
「森の雪達は新しい風が吹くのを好みます。変わり映えのない毎日では、退屈してしまいますからね。ですから、僕は派遣された騎士を一時的に受け入れることしているんです」
「それで、すぐに追い返すんですか」
「出て行ってしまう、と言った方が正しいですね」
大体の人間は幻聴や幻覚といった異変に恐怖し、数日経たずに逃げ出すそうだ。
俺のように異形と相対して、瘴気の被害に遭い、治療のために森を離れることもあるという。……おそらく、体の良い口実だろうが。
どちらも、痛い目を見て去っていくのは同じだ。
「騎士団の方も、根性を叩き直す──新人教育の一環として、命令違反をした者や態度の悪い若い者を寄越してきます。つまりは、利害の一致ですね」
確かに、問題児の教育にはうってつけの場所だ、と俺は自嘲した。
紫色の霧に幻聴と幻影、しかも、頻繁に異形が湧き出すのだ。
俺もヨクルがいなければ、すぐにここから逃げ出していたことだろう。
辺境の地で人知れず異形と戦う者がいる……。彼は逃げ出さずに使命を果たしていた。
俺はふと、暖炉の方に目を向けた。
ランプと同じ、青白い炎が燃えている。
「ここの炎は青白いんだな……。これも異変ですか?」
「異変と言えば、異変ですね。特に害はありません。この森の特色のようなものです。赤い炎より、視界を広げること、人肌を温めることに長けています」
「こんな優しい異変もあるんだな……」
青白い炎は、冷たい色なのに温かい。
「ホットミルクでも飲まれますか?」
俺が暖炉を見つめていると、ヨクルは言った。
返答を聞く前に、ヨクルは戸棚を開け、マグカップ、スプーン、スキムミルクと蜂蜜の瓶を取り出して、テーブルの上に置いた。
スキムミルクをマグカップに三杯入れた。
暖炉のそばに置かれていたケトルから湯を注いだ。
スプーンで軽く混ぜ、仕上げに蜂蜜を三掬いほど入れる。
俺は一連の動作をぼんやりと眺めていた。
「起き上がれますか」
ヨクルが問う。
俺はゆっくりと起き上がった。今度は頭痛に襲われることはなかった。
「どうぞ」と差し出された蜂蜜入りホットミルクを俺は受け取り、少しでも冷めるように息を吹きかけた後、ゆっくりと口をつけた。
温かさと甘さが舌に広がり、思わず身を震わせた。
「お味はどうでしょう」
「甘ったるいですね」
俺は少し笑いながら言った。
「……すみません。自分では飲まないもので。作り直します」
「いいや、これが良い」
俺はそう言って、もう一口飲んだ。
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