18 / 31
第三話
寂しがりやの神様
しおりを挟む
静雪の村では村人達全員が俺達の帰りを待っていた。
「お兄ちゃん!」
フレイヤが最初に俺達に気づいた。
足をもつれさせながら俺達に駆け寄ってくる。
俺がフレイを背中から下ろすと、フレイヤはフレイに抱きついた。
「良かった……! 無事で良かった……!」
「フレイヤ……」
フレイは顔を歪めて泣き出した。今までずっと我慢していたのだろう。恐ろしい魔女に出会い、無理矢理お菓子を食べさせられ、魔女に食べられるところだったのだ。泣きたくなかった訳がない。
「良かった……。お前も無事で……!」
双子は互いの無事を確かめ合うように抱き締め合った。
そんな双子に、父のニョルズが鬼の形相で近づいた。
「フレイ……!」
「と、父ちゃん……」
フレイは怯えたような顔でニョルズを見上げた。
「この馬鹿! 森に入るなって散々言ったろ!」
「ごめ、ごめんなさい~!」
フレイは声を上げて泣き出した。フレイヤも同じように泣いた。
「心配かけさせて……! 明日になったら説教だ! 今日はいっぱい泣け! ……父ちゃんも泣く!」
ニョルズは抱き合う双子を抱き締めて、おいおいと泣き始めた。
「無事で良かったね」と他の村人達は彼らを優しく見守った。
親子っていうのはあんな感じなのだろう。親を忘れた俺には一生わからないものだ……。
「ティリルさん、先程はお見苦しいところをお見せしました。申し訳ありません」
ヨクルが少しうなだれてそう言った。
おそらく、かまどの中で魔術が上手く使えなかった時のことを言っているのだろう。
「暑いのが苦手なのか?」
「お恥ずかしながら、僕は寒冷地から出たことがなく……。暑いと普段出来ていることが出来なくなってしまうのです」
魔術の発動が上手くいかなかったり、頭が回らなくなるのもその一つだという。
「これは僕の一族の性質と言いますか、克服出来そうもない弱点でして……。本当にお恥ずかしい限りで……」
ヨクルは俯きがちにそう言った。恥ずかしいというより、情けないといったような様子だった。
俺はむしろ、ヨクルにも弱点があることを知れて良かったと思った。
人間離れした雰囲気と魔術の腕を持つ森の監視者。全く手の届かない存在だと思っていた彼が、こんなにも身近に感じる。
俺は思わず、笑い声を漏らした。
「ヨクルが剣を振れないときは、俺が代わりに剣を振るう。俺はそのために来たんだ。だから、どんどん頼ってくれ」
「……頼もしいですね」
ヨクルはふふ、と笑った。
「ヨクル様、騎士さん、お兄ちゃんを助けてくれてありがとう」
フレイヤがお礼を言った。
ニョルズがその後ろで鼻水を啜りながら感謝を述べた。文字一つ一つに濁点がついているような声でとても聞きづらかったが、思いは伝わった。
「これが僕の役目ですから」
ヨクルは堂々とした態度で答えた。
「お父上も役目を果たしてくれました。鐘の音がお菓子の家まで届きましたよ。そのおかげで魔女を討つことが出来ました」
その言葉に、ニョルズが更に声を上げて泣いた。
「あと……」
フレイとフレイヤは少しもじもじとした後、二人同時に頭を下げた。
「パンプキンヘッドなんて言ってごめんなさい」
双子だからか、息がぴったりだった。
どう答えるのだろうと、俺はヨクルの返答を待った。
「気にしていません」
ヨクルの声は酷く冷たいものだった。
フレイとフレイヤは突き放されたように感じたのだろう。ショックを受けたような顔をしていた。
俺は小声でヨクルに尋ねた。
「ヨクル、実は結構怒ってたり……?」
「何故怒る必要が?」
ヨクルは心底不思議そうに言った。
「子供の言うことに一々目くじらを立てていては大変ですよ。彼らは生まれて間もないですからね。他人が危険を排除しているからこそ、成立している平和な世界しか知らない。──雪のない場所があることすら、ね」
ヨクルは本当に気にしていないようだ。しかし、子供達にはそれがわからない。
ヨクルを馬鹿にして、バチが当たった。謝っても許して貰えないことが、どれだけ悲しいことか。
「子供には叱られたい時もあるんだ」
俺も子供の頃、危険を犯したことがある。そのことで、師匠にかなり叱られた。普段怒らない師匠が怒っていて、怖くて泣きながら謝った。最後に、「お前が無事で良かった」とホッとしたような顔をされて、ようやく許された気がした。
今のフレイとフレイヤも、その時の俺と同じ気持ちのはずだ。
「叱る……怒っていないのに、それは難しいですね」
ヨクルは思案した後、フレイとフレイヤの前に立ち、片膝をついて、二人の目線に合わせた。
「フレイさん、フレイヤさん」
二人は顔を上げた。不安そうな顔をしていた。
「僕がかぼちゃを被っているのは、静雪の村の方々と良き友人でいるためです」
「友達……?」
「ええ。僕はあなたがたが森に入り、怖い目に遭って欲しくないのです。ですから、御伽噺を作りました。『森に入ったら、怖いおばけがやってくるぞ』と」
「ヨクル様が作ったの……? どうして?」
「僕が森に住む悪い奴であればあるほど、子供達が森に入ることはないでしょう?」
「……それだと、あたし達がヨクル様を怖がって、友達になれないわ」
「今はそうでなくとも、大人になれば、自然と友達になってくれるものです」
「ヨクル様は寂しがりやの神様なのね」
フレイヤはくすくすと笑った。
「僕は神様ではありませんよ。かぼちゃのおばけです」
ヨクルは両手をだらんと垂らした、おばけのポーズをした。
それを見て、フレイとフレイヤは笑った。
「お兄ちゃん!」
フレイヤが最初に俺達に気づいた。
足をもつれさせながら俺達に駆け寄ってくる。
俺がフレイを背中から下ろすと、フレイヤはフレイに抱きついた。
「良かった……! 無事で良かった……!」
「フレイヤ……」
フレイは顔を歪めて泣き出した。今までずっと我慢していたのだろう。恐ろしい魔女に出会い、無理矢理お菓子を食べさせられ、魔女に食べられるところだったのだ。泣きたくなかった訳がない。
「良かった……。お前も無事で……!」
双子は互いの無事を確かめ合うように抱き締め合った。
そんな双子に、父のニョルズが鬼の形相で近づいた。
「フレイ……!」
「と、父ちゃん……」
フレイは怯えたような顔でニョルズを見上げた。
「この馬鹿! 森に入るなって散々言ったろ!」
「ごめ、ごめんなさい~!」
フレイは声を上げて泣き出した。フレイヤも同じように泣いた。
「心配かけさせて……! 明日になったら説教だ! 今日はいっぱい泣け! ……父ちゃんも泣く!」
ニョルズは抱き合う双子を抱き締めて、おいおいと泣き始めた。
「無事で良かったね」と他の村人達は彼らを優しく見守った。
親子っていうのはあんな感じなのだろう。親を忘れた俺には一生わからないものだ……。
「ティリルさん、先程はお見苦しいところをお見せしました。申し訳ありません」
ヨクルが少しうなだれてそう言った。
おそらく、かまどの中で魔術が上手く使えなかった時のことを言っているのだろう。
「暑いのが苦手なのか?」
「お恥ずかしながら、僕は寒冷地から出たことがなく……。暑いと普段出来ていることが出来なくなってしまうのです」
魔術の発動が上手くいかなかったり、頭が回らなくなるのもその一つだという。
「これは僕の一族の性質と言いますか、克服出来そうもない弱点でして……。本当にお恥ずかしい限りで……」
ヨクルは俯きがちにそう言った。恥ずかしいというより、情けないといったような様子だった。
俺はむしろ、ヨクルにも弱点があることを知れて良かったと思った。
人間離れした雰囲気と魔術の腕を持つ森の監視者。全く手の届かない存在だと思っていた彼が、こんなにも身近に感じる。
俺は思わず、笑い声を漏らした。
「ヨクルが剣を振れないときは、俺が代わりに剣を振るう。俺はそのために来たんだ。だから、どんどん頼ってくれ」
「……頼もしいですね」
ヨクルはふふ、と笑った。
「ヨクル様、騎士さん、お兄ちゃんを助けてくれてありがとう」
フレイヤがお礼を言った。
ニョルズがその後ろで鼻水を啜りながら感謝を述べた。文字一つ一つに濁点がついているような声でとても聞きづらかったが、思いは伝わった。
「これが僕の役目ですから」
ヨクルは堂々とした態度で答えた。
「お父上も役目を果たしてくれました。鐘の音がお菓子の家まで届きましたよ。そのおかげで魔女を討つことが出来ました」
その言葉に、ニョルズが更に声を上げて泣いた。
「あと……」
フレイとフレイヤは少しもじもじとした後、二人同時に頭を下げた。
「パンプキンヘッドなんて言ってごめんなさい」
双子だからか、息がぴったりだった。
どう答えるのだろうと、俺はヨクルの返答を待った。
「気にしていません」
ヨクルの声は酷く冷たいものだった。
フレイとフレイヤは突き放されたように感じたのだろう。ショックを受けたような顔をしていた。
俺は小声でヨクルに尋ねた。
「ヨクル、実は結構怒ってたり……?」
「何故怒る必要が?」
ヨクルは心底不思議そうに言った。
「子供の言うことに一々目くじらを立てていては大変ですよ。彼らは生まれて間もないですからね。他人が危険を排除しているからこそ、成立している平和な世界しか知らない。──雪のない場所があることすら、ね」
ヨクルは本当に気にしていないようだ。しかし、子供達にはそれがわからない。
ヨクルを馬鹿にして、バチが当たった。謝っても許して貰えないことが、どれだけ悲しいことか。
「子供には叱られたい時もあるんだ」
俺も子供の頃、危険を犯したことがある。そのことで、師匠にかなり叱られた。普段怒らない師匠が怒っていて、怖くて泣きながら謝った。最後に、「お前が無事で良かった」とホッとしたような顔をされて、ようやく許された気がした。
今のフレイとフレイヤも、その時の俺と同じ気持ちのはずだ。
「叱る……怒っていないのに、それは難しいですね」
ヨクルは思案した後、フレイとフレイヤの前に立ち、片膝をついて、二人の目線に合わせた。
「フレイさん、フレイヤさん」
二人は顔を上げた。不安そうな顔をしていた。
「僕がかぼちゃを被っているのは、静雪の村の方々と良き友人でいるためです」
「友達……?」
「ええ。僕はあなたがたが森に入り、怖い目に遭って欲しくないのです。ですから、御伽噺を作りました。『森に入ったら、怖いおばけがやってくるぞ』と」
「ヨクル様が作ったの……? どうして?」
「僕が森に住む悪い奴であればあるほど、子供達が森に入ることはないでしょう?」
「……それだと、あたし達がヨクル様を怖がって、友達になれないわ」
「今はそうでなくとも、大人になれば、自然と友達になってくれるものです」
「ヨクル様は寂しがりやの神様なのね」
フレイヤはくすくすと笑った。
「僕は神様ではありませんよ。かぼちゃのおばけです」
ヨクルは両手をだらんと垂らした、おばけのポーズをした。
それを見て、フレイとフレイヤは笑った。
0
あなたにおすすめの小説
冷遇された没落姫は、風に乗せて真実を詠う ─残り香の檻─
あとりえむ
恋愛
「お前の練る香など、埃と同じだ」
没落した名家の姫・瑠璃は、冷酷な夫・道隆に蔑まれ、極寒の離れに追いやられていた。夫の隣には、贅を尽くした香料を纏う愛人の明子。
しかし道隆は知らなかった。瑠璃が魂を削って練り上げた香は、焚く者の心根を映し出す「真実の鏡」であることを。
瑠璃が最後に残した香の種を、明子が盗み出し、手柄を偽って帝の前で焚き上げた瞬間。美しき夢は、獣の死臭が漂う地獄へと変貌する。
「この香りの主を探せ。これほど澄み切った魂が、この都に在るはずだ」
絶望の淵で放たれた一筋の香りに導かれ、孤独な東宮が泥の中に咲く白蓮を見つけ出す。
嘘と虚飾にまみれた貴族社会を、ひとりの調香師が浄化する、雅やかな逆転劇。
聖女の力は使いたくありません!
三谷朱花
恋愛
目の前に並ぶ、婚約者と、気弱そうに隣に立つ義理の姉の姿に、私はめまいを覚えた。
ここは、私がヒロインの舞台じゃなかったの?
昨日までは、これまでの人生を逆転させて、ヒロインになりあがった自分を自分で褒めていたのに!
どうしてこうなったのか、誰か教えて!
※アルファポリスのみの公開です。
この度娘が結婚する事になりました。女手一つ、なんとか親としての務めを果たし終えたと思っていたら騎士上がりの年下侯爵様に見初められました。
毒島かすみ
恋愛
真実の愛を見つけたと、夫に離婚を突きつけられた主人公エミリアは娘と共に貧しい生活を強いられながらも、自分達の幸せの為に道を切り開き、幸せを掴んでいく物語です。
短編)どうぞ、勝手に滅んでください。
黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。
あらすじ)
大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。
政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。
けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。
やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。
ーーー
※カクヨム、なろうにも掲載しています
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
最強転生悪役令嬢は人生を謳歌したい!~今更SSクラスに戻れと言われても『もう遅い!』Cクラスで最強を目指します!~【改稿版】
てんてんどんどん
ファンタジー
ベビーベッドの上からこんにちは。
私はセレスティア・ラル・シャンデール(0歳)。聖王国のお姫様。
私はなぜかRPGの裏ボス令嬢に転生したようです。
何故それを思い出したかというと、ごくごくとミルクを飲んでいるときに、兄(4歳)のアレスが、「僕も飲みたいー!」と哺乳瓶を取り上げてしまい、「何してくれるんじゃワレ!??」と怒った途端――私は闇の女神の力が覚醒しました。
闇の女神の力も、転生した記憶も。
本来なら、愛する家族が目の前で魔族に惨殺され、愛した国民たちが目の前で魔族に食われていく様に泣き崩れ見ながら、魔王に復讐を誓ったその途端目覚める力を、私はミルクを取られた途端に目覚めさせてしまったのです。
とりあえず、0歳は何も出来なくて暇なのでちょっと魔王を倒して来ようと思います。デコピンで。
--これは最強裏ボスに転生した脳筋主人公が最弱クラスで最強を目指す勘違いTueee物語--
※最強裏ボス転生令嬢は友情を謳歌したい!の改稿版です(5万文字から10万文字にふえています)
※27話あたりからが新規です
※作中で主人公最強、たぶん神様も敵わない(でも陰キャ)
※超ご都合主義。深く考えたらきっと負け
※主人公はそこまで考えてないのに周囲が勝手に深読みして有能に祀り上げられる勘違いもの。
※副題が完結した時点で物語は終了します。俺たちの戦いはこれからだ!
※他Webサイトにも投稿しております。
【完結】前代未聞の婚約破棄~なぜあなたが言うの?~【長編】
暖夢 由
恋愛
「サリー・ナシェルカ伯爵令嬢、あなたの婚約は破棄いたします!」
高らかに宣言された婚約破棄の言葉。
ドルマン侯爵主催のガーデンパーティーの庭にその声は響き渡った。
でもその婚約破棄、どうしてあなたが言うのですか?
*********
以前投稿した小説を長編版にリメイクして投稿しております。
内容も少し変わっておりますので、お楽し頂ければ嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる