ヨクルと奇妙な森

フオツグ

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第五話

三日目・一芝居

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 三日目。
 日が昇り、キャラバンメンバーが起き出してくる。俺達は朝の挨拶を交わした。ヨクルは温かいスープを振る舞った。

「予定通りであれば、霜降り町へは今日中に到着するでしょう」
「おお、本当ですか!」
「この二日間、全く前に進んでる気がしなかったんですが、もう到着するんですね!」

 良かった、良かったと商人達は笑い合った。

「辺境伯様、ありがとうございます!」

 ザーネンはヨクルに頭を下げた。

「お礼を言うのは、街に到着してからにして下さい。……ああ、そうだ。『全員いらっしゃいますか?』」

 ヨクルが前日と同じ言葉を言った。それが、作戦開始の合図だ。
 ザーネンは点呼をとる。一、ニ、三──そして、七。

「ああ、七人……え?」

 ザーネンは一度納得しかけた。が、すぐに自分を含めていない数であることに気づいた。
 キャラバンのメンバーはザーネン含めて七人。だが、今は八人になっていた。
 一人増えている──これが、昨夜ヨクルに教えて貰った、既に発生している異変だ。
 ザーネンはもう一度、点呼をし直す。しかし、何度数えてもキャラバンの人数は八人だった。

「ひ、一人多い……!? どういうことだ!?」
「おや、この異変は……」

 ヨクルはぽつりと呟いた。

「そ、そうだ。一人、知らない奴がいるはずだ!」

 誰だ、誰だ、とキャラバンのメンバーへと疑いの目を向ける。不思議なことに、知らない人物はいない。

「どうなってる!」

 ザーネンが叫び、現場は更に混乱した。

「森は感覚を狂わせる……。見知らぬ人物を我々はキャラバンの仲間だと誤認してしまっているようですね」

 そうでなければ、増えた時点で気づいてるはずだ。
 この異変自体に害はない。森を抜ければ、増えた一人はいなくなる。
 しかし、一度言及してしまえば、混乱は免れない。

「増えた一人を探すより、異変の原因を断つのが一番でしょう」
「原因はなんなんですか!?」

 ヨクルはザーネンに目を向けた。

「ザーネンさん、もう一人、キャラバンに参加している方がいらっしゃいますね」

 ザーネンは目を泳がせた。

「な、何のことでしょう……」
「隠さなくて結構です。この異変は数えられなかった仲間の念によって引き起こされるもの。木箱の中にいらっしゃるのでしょう? もう一人の客人が……」
「あ……!」

 ヨクルは有無を言わさず、木箱を開けた。
 木箱の中には、ボロ切れ一枚着た少年がいた。口に布を噛まされ、手足を縛られて、床に転がされていた。
 驚いたことに、彼の頭には三角の耳がついていて、腰には白い尻尾があった。人間であり、動物でもある……こんな生き物、俺は見たことがなかった。
 少年は唸りながら、俺達を睨みつけている。

「こいつは……」
「世にも珍しい人間と動物の混血種──異形ですよ」

 ザーネンは諦めて、そう話した。

「異形……!?」

 俺は驚いた。少年は確かに人間ではない。しかし、俺の知っている異形の姿とは全く異なっていた。
 本物の異形は見ているだけで身の毛がよだつものだが、彼にはそれがない。むしろ、人間に近しい姿だからか、好意的に感じる。

「この異形を欲しがってる物好きな貴族がいましてねえ。私らは運良く、捕えることが出来たのです! こいつを売れば、莫大な金が手に入る。一生遊んで暮らせる額だ!」

 ザーネンは人当たりの良い紳士の画面を外し、薄汚い犯罪者の顔でニタニタと笑っていた。

「辺境伯様も貧乏なんでしょう? これを上手く売り捌けたら、分け前を差し上げますよ。ですから……ね?」

 金をやるから見逃せ、と言いたいのだろう。

 大事な商品ならば、もっと丁重に扱うべきだ。拘束して、世話もせず、ただの木箱の中に転がしておくだなんて、同じ人間のすることとは思えない。
 少年は耳や尻尾こそ生えているが、ほぼ人間だ。だからこそ、俺は彼の扱いに嫌悪感を抱いたのかもしれない。
 ヨクルはどう答えるのだろうか? 彼のことだから、金に目が眩むことはないだろうが、争いごとを避けるため見逃すことは十分にあり得る。
 俺はヨクルに従う騎士だ。ヨクルの決定には従うしかない。

「この月のように白い毛は【月追い狼】ですね」

 ヨクルは少年をまじまじと見て、そう言った。

「へ、辺境伯様? 話を聞いてましたか……?」

 ザーネンは戸惑っていた。
 俺はザーネンを無視して口を開いた。

「人間と月追い狼の混血ってことか?」
「いえ、月追い狼は元々、人間と狼の間に生まれた種族です。生命力が強く、寒さをものともしません。二日も放置されて生きていられたのはそのおかげでしょう」

 ヨクルは剣を抜き、狼の少年に歩み寄った。狼の少年の目に恐怖で見開いた。

「ま、待て。殺すな! 辺境伯──!」

 ザーネンは叫んだが、遅かった。ヨクルは剣を振り下ろしていた──狼の少年の手を拘束していた縄が向かって。
 手が自由になると、狼の少年は目をぱちぱちとさせ、手をじっと見つめた。

「いくら生命力が強いとはいえ、このままでは命が尽きてしまいます」

 ヨクルは少年に背を向け、剣を収める。

「朝食のスープが残っていましたね。ティリルさん、彼にそれを差し上げて下さい──」
「退け!」

 ヨクルが狼の少年は足の縄を引きちぎり、ヨクルを押し退けて、森の中へと駆け出した。

「な……!」

 予想外の出来事に、キャラバンメンバーは驚いて動けないようだった。

「待て!」

 俺は一番初めに駆け出し、狼の少年のあとを追った。
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