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タイミングを逃すな

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 他の店が販売している食べ物と比べても高くない。むしろ安いくらいだ。そんな移動販売『ピース』のハンバーガーが大通りをゆっくり進んでいく。
 一度興味を持ってしまえば、匂いを嗅いでしまえば、試食をしてしまえば、ついていくしかない。
 本能には抗えないのだ。
 屋台をひく冨岡。ハンバーガーを作り、匂いを立てるアメリア。可愛い笑顔を振り撒き、試食を進めるフィーネ。今できる最大限の販促行動を行いながら屋台は客を引き連れ始める。
 作戦『ハーメルンの笛吹き』は大通りにいる人間をそのままどこかに連れ去るのではないか、と思うほどの行列を作り進んだ。
 想定通り、いや予想外なほど人が集まる。どれほどの人数だろう。百か二百か。少なくとも今のフィーネに数えられる人数ではなかった。
 こうなれば心配すべきは売上ではない。ハンバーガーが足りるか、という心配。もうひとつ、冨岡の心の中に芽生えたのは『他の店から恨まれないか』という心配であった。
 そう思うほど文字通り一切合切の客を引き連れている。
 屋台をひきながら冨岡は状況に合わせた戦略を考え直す。

「用意したハンバーガーは百個か・・・・・・流石に足りると思ってたけど、これじゃあ足りなさそうだな。どうする・・・・・・売り切れになるのを前提にして希少さを売りにするか。いや、それじゃあファストフードにした意味がない。あくまでも薄利多売。いつでも食べられるし、安価だからいつでも買えるってのが良さだ。どうする・・・・・・」

 そう呟いてから冨岡は振り返らずに屋台の中にいるアメリアに声をかけた。

「アメリアさん!」
「はい!」

 アメリアもアメリアでハンバーガー作りに忙しい。手を止めずに返事をした彼女に冨岡は言葉を続けた。

「ハンバーグの材料はまだありますよね? ミンチとか玉ねぎとかスパイスとか」
「はい、その辺は予備で用意してもらっていた分があります。けど、パンが百個と少ししかなくて・・・・・・」
「そうか、そうですよね。えーっと、もうすぐ大通りを抜けますよね?」

 足を動かしながら思考する冨岡。
 背後の行列は見えないが、気配や声で大行列になっていることはわかる。ここでハンバーガーが認知されるかどうかは『ピース』の未来に大きく関わるだろう。
 逃すわけにはいかない。

「アメリアさん」

 冨岡はもう一度アメリアを呼んだ。

「なんでしょう?」
「大通りを抜けてすぐなんですけど、一度俺が抜けても大丈夫そうですか?」
「トミオカさんが、ですか? ハンバーガーの準備はほとんどできているので問題ないと思います」
「短時間で帰ってくるので、少しの間だけフィーネちゃんと販売に集中してください。俺が戻ってきたらハンバーガー作りに入りますから」

 冨岡がそう言い終えた頃に、屋台は大通りを抜け、少し開けた広場に出る。他の屋台などはなく、邪魔にはならないだろう場所だ。
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