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目的地の広場

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 元々、この場所を目指して歩いていた冨岡たち。事前にこの場所に屋台を出してもいいかを確認していた。
 大通りを抜けただけだというのに、何もない広場。不自然なほど家も店もないのには理由がある。
 この広場を抜けた場所には衛兵の兵舎が建っている。
 昨夜、その話を聞いた時、冨岡は「兵舎があるというだけで屋台を出さないのはどうしてですか?」とアメリアに問いかけた。
 するとアメリアは表情を曇らせてこう答えたのである。

「その場所にある兵舎は正規兵用の兵舎ではなく、傭兵兵舎なのです」
「傭兵兵舎だと何か問題が?」
「ええ・・・・・・なんと言いますか、正規兵ではない方々は安い賃金で命を懸けおられます。それを選んだというよりは、それ以外に生きる道がなかった方々・・・・・・その、言い掛かりと言いますか・・・・・・目障りだと襲われた屋台もあったそうです。お金を請求されることも」

 端的に言えば圧倒的に治安が悪いということだ。安く雇われた傭兵が小銭を稼ごうと因縁をつけてくる可能性があるらしい。
 では何故、大通りは襲われないのか。冨岡はそれもアメリアに問いかける。
 
「先日もお話しした通り、大通りの市場はほとんどが貴族様の所有地です。いかに世を捨てるような心持ちの方でも貴族様の所有地で暴れれば、その罪は家族まで被ることになるでしょう。ですから大通りが襲われることはないのです」

 アメリアは悲しげにそう答えた。
 この国、この街に蔓延る闇の部分なのだろう。
 戦力として傭兵は必要。傭兵としてしか生きられない者がいる。そして傭兵は罪に問われない限りは何でもする。
 そんな闇に怯えなければならないのはどの世界でも力なき市民だ。
 貴族たちは自分たちの土地と『襲われない安心』をセットにして貸し出している。
 まるで社会の縮図のようだ、と冨岡は小さな嫌悪を覚えるがそれもこの世界のルール。ならばそれを逆手に取ってやろうと考えた。
 いつでも移動できる屋台であれば何かあった時、すぐに逃げ出すことができる。さらにこの広場は商売禁止などの規則はなく、誰かの所有地というわけでもない。
 移動販売『ピース』だからこそ打てる手だった。

 広場の真ん中で屋台を停めた冨岡は改めてついてきた客の数を確認する。

「すごい、本当に二百人くらい居るな」

 パンが足りないことは明白だった。
 すぐさまカウンターからアメリアに声をかける。

「アメリアさん、じゃあ俺行ってきますから、少しの間だけお願いします」
「は、はい!」

 胸の前で両拳を握り締め、返事をするアメリア。
 そんなアメリアに背を向けて冨岡は客たちに指示を出す。

「すみません、一列に並んでお待ちください!」
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