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商人として

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「どうやら魔法が暴発したみたいですよ。大方、酒にでも酔っていたのでしょう。俺も流石に死んだ、と思ったのですがあの人の手がバババンと爆発してしまって・・・・・・おそらく周囲にいた人も見ているはずですよ。ねぇ?」

 どう考えてもアメリアは嘘をつくことに慣れていない。聖職者として生きてきたのだから当然だ。しかし、この場で正直に全てを話したくいない理由があって口籠ったのだろう。それを理解した冨岡は大嘘を吐いた。
 そもそもこの世界に酒があるかは確認していない。中世ヨーロッパ程度の文明だとするならば『あるはずだ』という推測で話しているだけだ。魔法が暴発するのかも知らない。全ては賭けである。
 そして最後にその話の現実味を増すために冨岡が周囲の人に話を振った。だが、他人ではない。心配になり冨岡たちの様子を見にきたメルルに、である。
 突然問いかけられたメルルは一瞬戸惑うが、慌てて冨岡に話を合わせた。

「へ? え、ええ、はい。そうですね。なんか、魔法の発動に失敗したみたいですよ。酔っ払って魔法式の構築に失敗したんじゃないですかね」

 どうやら魔法の暴発はあるようだ。魔法式などという言葉を冨岡に理解できるはずもないが、なんとなく魔法を発動するのに必要な要素であることはわかる。
 衛兵からすれば他人であり、観衆であるメルルの話は信憑性が高い。
 
「なるほどな、魔法の暴発か。うむ、理解した。仕方ないか・・・・・・男の身柄はこちらで預かろう。どうせしばらくすればこいつが所属している部隊が引き取りに来るだろうからな。それより、先ほども言ったがここで屋台を出していると、このような揉め事に巻き込まれやすい。しっかり対策を考えるんだな」

 衛兵にそう言われた冨岡は小さな声で「守ってはくれないか」と呟く。元々、期待していたわけではないが、ある意味想像通りだ。衛兵は一般市民のために動いてはくれないらしい。
 冨岡の嘘によって衛兵たちの質問から逃れ、難癖をつけてきた男の身柄も衛兵に回収された。アメリアやフィーネに傷はなく、結果的に冨岡も無傷。こんな大事になったにも関わらず、まだまだ客が残りハンバーガーの販売を望んでいる。

「よし、移動販売『ピース』営業再開しましょうか。アメリアさん、フィーネちゃん!」
「そうですね! まだ働けますか、フィーネ」
「うん! フィーネ大丈夫だよ。また何かあってもフィーネが守ってあげる」
「ははっ、今度こそ俺が守るよ。さぁ、もうひと頑張りです!」

 一難去ったが全てが解決したわけではない。けれど、商品を求める客がいるのだ。商人と名乗るならばこの機を逃す手はない。
 冨岡たちは急いで屋台に戻る。ハンバーガーを売るために。
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